探偵キリン、助手ダチョウ。そしてあなたは……そう、ヤギね!

@mamichi

【第1章】たびだち

●シーン1● 見習い占い師の少女

 ひとりのフレンズが足早に森の中を歩いてゆく。


 柔らかなクリーム色の髪に黒い服。頭には白と黒の小ぶりな羽。そして肩には旅行用の大きめなバッグがかけられていた。


 深く生い茂る木々の隙間を縫って、オレンジ色の夕日が差し込んでいる。

 もうまもなく日没だ。夜の闇が、すぐそこまでせまっていた。


 彼女ははたと立ち止まり、辺りを見回した。


「完全に迷ってしまいました……」


 この森林は彼女にとって見知らぬ土地だった。太陽の位置を確認しながら慎重に進んでいたつもりだったが、いつのまにか正しい方角を見失ってしまった。


 焦っても仕方がない。

 今日はこの辺りで休憩して、明日の朝にまた出発しよう。


 だがジャパリまんも補充しないといけなかった。どこかにかごを持ったラッキービーストがいればありがたいのだけど――彼女はなわばりを出たときよりもずいぶん軽くなったバッグをひと撫でする。


 ちょうどよい寝床を探しながら先へ進んでゆくと、突如目の前に、木材で組まれた大きな建物が現れた。


「むむっ、ここは?」


 それもひとつではなく、目に入るだけでも六つほどあり、密集して木の上に建てられている。頑丈そうなつり橋で、建物同士を自由に行き来できるようになっているようだった。


 フレンズの「巣」だろうか。もしくはこれが噂に聞く、かつて「ヒト」が作ったものなのだろうか。どちらにせよ、雨風を凌いで眠ることができそうなつくりだ。


 でもこれだけ立派だと、先約のフレンズがいるのだろう。

 寝床を分けてくれる優しい子だといいけど……。


「あのー、すみません」


「はい! ようこそ『ロッジ・アリツカ』へ! ご宿泊ですか?」


 建物の中に入ると、小さなメガネをかけたフレンズがひとり、にこやかに出迎えてくれた。


「ええと、ここってもしかして、フレンズが泊ったりできる施設――かなにかでしょうか?」


 受付の彼女は一瞬きょとんとしたが、すぐに親しげな笑顔になり、丁寧に説明してくれる。


「そうですよ! フレンズさんならどなたでも、お好きなお部屋にご宿泊いただけます! もちろんお食事だって用意してますよ!」


 まさに僥倖。助かった。

 空腹のまま外で寝なければならないような事態は、これで避けられそうだ。


「よかった――あの、一晩だけ泊まりたいんです」


「承知いたしました! ええと、あなたはなんのフレンズさんですか?」


「私は『ダチョウ』と言います」


 ダチョウが名乗ると、受付の彼女は両手を合わせて、目を輝かせた。


「わぁ! 鳥系の中でもいちばん足の速い、あのダチョウさん? お会いできて嬉しいです! あ、自己紹介が遅れました。私はこのロッジの管理人をしている、『アリツカゲラ』です。ではさっそく、お部屋を選んでいただきますね。こちらへどうぞ!」


 アリツカゲラはにこやかに建物の奥へと案内する。


「こちら、昔作られた施設を使ってロッジにしているんですよ!」


 ――ほら、ここの小さな台。なにに使われていたんですかねぇー?

 ――この丸い窓からは、ちょうど朝日が見えるんですよ! いいですよねぇー!


 ロッジの特徴を説明するアリツカゲラは、とても楽しそうだ。


「鳥系の方でしたらやっぱり『見晴らし』が人気ですね! こちらの角部屋なんていかがです?」


 彼女が案内してくれた部屋は、ひとりで宿泊するには広すぎるくらいだった。おまけに大きなバルコニーがついている。


「確かに、とっても眺めがいいですね」


 バルコニーからはちょうど、太陽が西の空に沈んでいくのが見えた。


「ですよね! こちらになさいますか?」


 寝心地のよさそうなベッドもついているし、旅の疲れを取るには申し分なさそうだ。


「はい。ありがとうございます」


「わかりました! あ、ご夕食のジャパリまんは一階の食堂で出しますので、ひと息ついたら降りてきてくださいね。ご宿泊中のほかのフレンズさんも紹介しますから」


 そう言ってアリツカゲラは一礼し、部屋を出ていった。


 ダチョウは大事な「商売道具」の入ったバッグを脇に置いて、そのままベッドに仰向けになる。


 ――この辺りには初めてきたけど、とってもいいところみたい。それに管理人のフレンズさんもいい人そうだ。なわばりを出たばかりのころはどうなるかと思ったけど、それほど悪い旅にはならないかも。


 ただいくら旅がよいものになったとしても、この胸の奥につっかえているものがきれいにならないとどうしようもない。なるべく早めに「図書館」へ行かないと。


 この旅の目的を忘れないようにしなくちゃ。

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