畏怖と鈍感

ネミ

イフちゃんとドンくん

 大人に近い子供の学び舎に通う女の子、イフちゃんの〝間抜けな仮面〟で隠された素顔を知る者は少ない。


 午前の授業が終わり、お昼に成ると生徒の立ち入りが禁止されている校舎の屋上へ行くイフちゃんは毎日、一人で年老いた義父が作る、お弁当を食べている。


 事情があり人前で顔を覆う仮面を外せないイフちゃんは、一目が無い場所で飲食を行っている。


【区切り】


 成績が良いドンくんは察しが悪く、遠回しな恋心が通じない事で有名だった。


 直線的に告白されても、相手を思いやる気持ちに欠けた、返答に傷つく女子は多く、顔や身体つきの良さに反して、無自覚に他人を傷つける言動から、恨みを抱かれる事が多く、嫌味を言われている。


 遠回しな嫌味に気付かないドンくんは平然としている事が更に自尊心を煽っている。無自覚に……。


【区切り】


 記憶にない侮辱で暴力的な不良に絡まれるドンくんを遠巻きに見る生徒たちは、当事者になる事を恐れて、傍観者に徹していた。


 覚えがないドンくんから暴力を受ける不当性を説明された不良は謝罪を得られぬ事に怒り、暴行を行いました。


 傍観する生徒は先生を待つだけで止めに入りませんでした。


 先生を待てず不良に近づき声をかけたイフちゃんは、非常識に暴力を正当化する不良を説き伏せる事は頭が良くない自分には出来ないと理解して、仮面を外しました。


 素顔を見て顔を青ざめた不良はイフちゃんへ暴力は辞めると宣言して逃げ出しました。


 急いで仮面を付けたイフちゃんの背中へ視線を向ける傍観者たちは、不良を追い払った様子を見て、噂は真実だと口々に呟いていました。


 恐がられる恐怖からイフちゃんはドンくんの安否を確認せず逃げるようにその場を去った。


【区切り】


 扉が開き屋上に入ったドンくんと目が合い慌てて仮面に手を伸ばした腕を握られて驚くイフちゃんは素顔を見られながらお礼を言われました。


 仮面を通さず素顔を恐れない人と初めて出会い、嬉しい気持ちで満たされたイフちゃんの表情を見たドンくんは思うが儘に「可愛い」と声に出していました。


 恐れや畏怖などの言葉を向けられる事が殆どで、無縁だが憧れていた言葉を向けられたイフちゃんは、掴まれている手を振り払いドンくんから離れたが恥ずかしさは止まらず仮面で照れる顔を隠しました。


 イフちゃんは初めて恥じらう顔を隠す為に仮面を使いました。


【区切り】


 仮面の下に恐れしい魔王の様な素顔を持つと広まっているイフちゃんの噂は間違いだと断定したドンくんは、みんなが恐れる意味が分からず不思議に思い始めました。

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