第6話魔道転生
満月に照らされて、明石湊の沖合いへ1隻の漁船の数十倍はあろうかという弁財船が
湊から
大阪夏の陣で消息を絶った明石ジョアン全澄の嫡子、内記である。
白のローブのカタリナお純出迎え内記からお千代の綱をあずける。
「この方は? 」
「宮本武蔵の道場で拾ってきた生娘だ。次の魔道転生の憑き代にしようと思うてな」
カタリナお純、思うところがあって、手拭いでお千代の顔を拭いてやる。
――船室。
薄暗い
真っ赤な水が入った杯が捧げられた祭壇で、木星、火星、土星、水星、金星と五芒星を囲む黒フードの明石ジョアン全澄と従者と金星にはべる白いフードの青年。
金星に当たる祭壇に真っ赤な薄衣の若い娘が拘束され、寝かされている。胸には逆さ十字の刻印。術をかけられ魔の憑き代にされている。
「エロイムエッサイム……エロイムエッサイム……我は求め訴えたり! 」
祷りを終えた黒フードをかぶった明石ジョアン全澄が蝋燭をフッと吹き消す。
さささっと、若い娘に白いローブが近づいてパサリっとローブを脱ぎ捨てた。しばらくすると、
「あっ……あん……あん……」
暗闇の中で若い娘があえいでいる。
「エロイムエッサイム……エロイムエッサイム……我は求め訴えたり!」
全澄と従者たちの合唱と、若い娘のあえぎがピタリと重なり高まる。若い娘が享楽の絶声を上げると影が傍らへ退き去った。すると、若い娘の腹が妊婦のように膨らみだし眩く金色の光を放つ。
透き通る妊婦の腹の血管が卵の殻がひび割れるようにパラパラとめくれて若い娘の腹の上で光の玉となる。
「ウウッ……ウウッ……」
若い娘は、妊婦のするように股に力をこめ捻り出そうと顔を歪ませ喘ぐ。
若い娘の股の間からニュッと大人の腕が飛び出す。
光が傍らの裸の青年のすべてを映し出す。青年は成長した豊臣秀頼の一子、国松のようだ。
光が消えて暗闇になると、明石ジョアン全澄が蝋燭に灯りを灯す。
国松の傍らの祭壇には、若い娘の腹を破って、武蔵の円明流へ道場破りをした巨漢の男が血だらけの祭壇に裸で寝ていた。
「エロイムエッサイム……エロイムエッサイム……」
ギーッと儀式を終えた船室のドアが開けられ、明石内記とカタリナお純がお千代を連れてくる。
「父上、次の満月の夜の生け贄の処女が見つかりました」
「そうか内記、御苦労であった。これで神デウスの不死身の戦士は5人目ようやく徳川幕府へ一泡吹かせられそうじゃわい(?!顔を伏せるカタリナお純に気づいて)」
明石ジョアン全澄の凄惨な(せいさん)な儀式の様に、まともに父明石ジョアン全澄の顔を見られず、お千代の綱を持って震えているカタリナお純。
「徳川幕府は主デウスの踏み絵を行いキリシタンであるだけで、残酷な処罰を下す。その監視の目は農民同士でキリシタンがいないかを見張り合う五人組にも煮え湯を呑む思いじゃ、ワシは神デウスの使徒として兄弟姉妹を一刻も早く救わねばならぬ」
カタリナお純、震える声で
「父上! 主デウスの教えは貧しい民草を救うもの、このように罪のない娘たちを拐って、魔道の憑き代にしてしまうのはワタシには耐えられません」
「これは、聖戦じゃ。事が成ったらワシはすべての罪を背負って魔へ堕ちる。その時カタリナお純、お前は国松君をお支えし夫婦になり神の子を生むのじゃ」
船がゆっくりと波に揺られ船室を月明かりが照らす。
大柄のフードの従者たちの顔が浮かびあがる。すべてあの日の武蔵の道場破りへやって来た男と同じ顔――。
つづく
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