62「融合の使い魔たち」
「そろそろだ」
巨大な異形は一瞬膨らんでから、炎と共に側面が弾けた。全体が火に包まれ森に落下する。
「脱出したのが二体ね」
「すぐ仕留めるよ」
アランは生き残りの融合使い魔を求めて低空に舞い降りた。敵の気配を察して森の中に突っ込む。
「こいつか……」
無秩序に融合していたそれは、かなり洗練された形へと変化していた。獣の四股で二足歩行。蝙蝠の翼、牛の頭部に長い牙と角。腹は縦に裂け口になっている。その中には悪魔の顔があった。
「神の使いかよ……」
口が大きく開き、顔は喋りながら突き出される。
「お前、悪魔なのか?」
「人間だよ。やっと悪魔の力を手に入れた――」
「何だと?」
「悪魔は言っていた。神の力を持つ人間がお前の前に現われる。そいつを倒せば俺は悪魔の王になれるってな」
これもまた悪魔の誘惑だ。こうやって、自ら望んで悪魔の手先になった人間に語らせるのだ。潜在的にそんな感情を持つ人間も大勢いる。それもまた含めて人間なのだと、アランにはよく分かっていた。
「死にやがれっ!」
使い魔の体から、五本の触手がアランを貫くように伸びる。その攻撃を、剣を抜きざま瞬速で三回振り抜き阻む。
「なっ!」
「戯れ言に騙されし愚かな人間――」
「何だとお?」
「――お前ごときは王になど……」
アランは剣の一振りで魔力を爆発させた。
「なれないっ!」
――その使い魔をズタズタに切り裂く。神の使いであるアランに勝てる訳はない。だからこの使い魔が、王になることなどはないのだ。
「簡単に死んだな。僕が人間のままなら、ちょっと苦戦したかもね」
炎を逃れた、巨大異形の破片が小物の使い魔に変化した。周囲に集まりつつアランに襲い掛かる隙を伺う。力の差を理解しているのだ。元人間よりも、よほど利口である。
「追うか」
アランはさほど速度は上げずに森の中を飛んだ。小物たちは本能的に逃げる相手は得物と見なす。追いすがる使い魔を剣を使ってなで切る。
相手のお尻が見えてきた。長い尾を振りながら、四本の足で駆ける使い魔に追いつき追い越し、アランは前方に立ちふさがった。
相手は巨大なトカゲといった感じで、原型は吸血の大蛇あたりであろうか? 頭部には、やはり人の顔が張り付いていた。今度は若い女性である。
アレスがアランの頭上に降下して来た。
「吸血鬼にはなれなかったので、融合改造されたのね。この人は力もあるし、意思が強いわ」
見ると飛び掛かろうとする使い魔は一瞬動きを止め、そしてまた動こうとしている。魔に取り込まれてもまだ、人としての意思を発揮しようとしていた。
そして女性の顔は、もの悲しい表情でアランを見つめている。
「怖くない、恐れることもない。今からあなたは、神の力で神の元に召されます」
アランは両手で握った剣を突き出す。全体が光輝き、細い光の線が伸び使い魔の体を貫いた。
線は輝きを増し太い線となり、使い魔の体全体を飲み込む。消えゆく最後、女性が少しだけ微笑んだような気がした。
実際彼女が神の元に行くことはない。人は死ねば、ただいなくなるだけだ。それでも人は神を説かれれば救われるのだ。
群れをなした小物が二人に迫り始める。
「さて、これで仕事は終りかな? 小物がまだたくさんいるけど、あれもやる?」
「それは無理ね」
「なん……」
ペンダントが震えて神の力は消えてしまった。
「もうかあ……」
神はちょっとだけ人間の手助けをする、が基本姿勢だ。いつもの役立たずに戻ったアランは、今度は狩られる獲物になってしまう。
「行きましょう」
アレスが両手をかざすと、アランは中に浮く。しかし再びペンダントが震えた。今日は忙しい。
「新しい敵?」
二人はそのまま上昇し、探査の力を全方位にかける。
「うーん……。力が強い集団が接近中ね。これは――あなたの街の大っきなパーティー。何て言ったかしら?」
「『栄光師団』だっ! こんな所まで来ているの?」
「あいつを追っていたのね。こっちを敵と思っているみたい」
「早く逃げよう」
人間同士でやり合うなど御免だし、アランの顔を見知っている者もいるだろう。当然逃げるが勝ちだ。
「ふーん、ずいぶんと強いのがいるのねえ。以前見た時より、更に強くなってる」
「そりゃ、最強パーティーだし、人数も多いよ」
アレスは何かが引っ掛かるのか、視線を外そうとしない。アランはやきもきとした。
「変な人もいるわ」
二人は空中を移動して接近する猛者たちから離れる。
「変って、何が?」
「私の探査をブロックしているのよ。なかなか出来ることではないわ」
「同業者じゃないの? 天使の加護を受けているとか……」
「かもね。ところであなたの話よ。もう一人の理解者は元気なの?」
「えっ、誰?」
アレスは突然話題を変えた。今日のしごとも、そろそろ終りだ。
「標本少女よ」
アリーナはこちらでも人気者なのだ。
「急になんだよ。このあいだ会ったけど……」
「一緒にクエストでもやったら?」
思えば忙しさにかまけて、アリーナと過ごす時間は少ない。それにアーヴにも冷たかったかもしれなかった。理解者を大切にしなさいとの、天使の進言だ。
「そうだね」
前方に光の渦が巻く。街への帰還であった。
そしてアランは一人、森の小道に立つ。いつもの薬草採取へと急いだ。
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