49「対決の段取り」

 エロ地獄のような時が過ぎ、気が付けばもう夕刻になっているようだ。千切れたカーテンの光も薄暗い。


 話し疲れたランシリこと悪魔のデウモスは、うな垂れて動かなくなった。


「今日は――もう終りだと思います。ヴィクター様に話してきます……」


 ソニアはそう言って力なく立ち上がり部屋を出て行った。


「ふう……、疲れたなあ……。剣を振り回したり魔法で攻撃したりするのとは、かってが違うよ」


 ほどなくソニアが戻って来て、今日の仕事の終りを告げる。


 アランたちの退出に入れ替わり、朝のメンバーとは違うシスターたちが入出した。食事や体拭く為の準備などをしている。


 アランはヘトヘトに疲れてしまった。ソニアにしても同様だ。しかしフェリアンは割と普通だ。


 話が自分に振られると光を発して苦しめ、アランやソニアに向けられた場合はそうはしない、高度な戦術の成果だった。


 居間に戻るとヴィクター神父が出迎えてくれた。


「三人ともずいぶん頑張ってくれました。礼を言います」

「いえ……」


 ソニアは顔を青くしたり赤らめたり大変だった。デウモスの性的嫌がらせ攻撃はなかなかのスキルだ。


「中央教会のシスターたちは絶えきれないで泣き出す始末です。教会を辞めるなどと言い出して困っているのですよ」


 ヴィクター神父は顔をしかめながら、疲れきったように話す。


「さすがフェリアンは、悪魔の前でも落ち着いているよなー」

「まあね~、うふふ~」


 アランはわざとらしく持ち上げたが、フェリアンに嫌みには通じないようだ。


 そうそう、と思いアランは思い切って聞いてみることにした。


「リュドレ神父の話しが出ましたよ」

「そうかあ……、他のシスターたちも色々と聞かされてね。そんな噂は確かにあって、私が調査を命じられたんだ。特に何もなかったよ」


 と、こちらはさほど深刻でもないように言う。悪魔がらみの話しに比べれば、そんな噂などとるに足らない問題なのは当然だ。


「彼は家柄も能力も性格も申し分ないんだ。やっかむ人間はどこにでもいるんだよ。教会にもね」


 ケイティが言っていた、ヴィクター神父が嘘をついているような兆候はない。本当のようだ。


 リュドレ神父とやらも、まさか自分が悪魔の誘惑ネタにされているとは思いもよらないだろう。知らぬは本人ばかりと言う訳だ。


「世話をしている神父様や、シスターたちの人間関係がボロボロなのよ……」


 ソニアは疲れたように言う。心に刺さった小さなトゲがいつの間にか大きくなり人を誘惑する。教会の人たちは耐性もあるし、ケアもされるから問題はないだろう。


 冒険者たちとて色々な障害を乗り越えて、使い魔たちと戦い成長していくのだ。


「もう大丈夫よ~。明日決着をつけましょ~」


 自信たっぷりに言うフェリアンが少し頼もしく見えた。皆が、こんな仕事は早く終わらせたいと願っている。


 フェリアンは明日の段取りをヴィクター神父と相談した。



 山荘に泊まり込むヴィクター神父見送られ、アランとフェリアン、ソニアは村へ道を歩く。夕方から森に入る人もいないので、バリケードの農民私兵はもういない。


 朝に入ったカフェで遅い夕食をとる。昼抜きなので三人共腹ペコだった。


「僕はやっぱり街に帰るよ」

「そお~?」

「うん、やっぱり商売は休めないし」


 フェリアンとソニアはオービニエ家が持つ、村の小さなホテルに泊まる予定だ。


「あんな悪魔を倒すのって、具体的にどうするの?」

深淵への交信ディープコンタクトよ~」


 フェリアンは明日の手順を説明する。今日は観察に留め、ランシリの中へと侵入する方法を探っていたと話す。サボリと思っていたアランは反省した。ソニアは真剣な表情で聞いている。


   ◆


 翌朝、いつもの商売を終わらせ、アランは再びオービヤーノ村へと出向いた。


 皆とカフェで合流して朝食をとり、そして戦いの場へと向かう。


 今日は山荘の周辺に私兵はいなかった。最終局面には戦いが外に及ぶかもと、フェリアンがヴィクター神父に伝えていたのだ。


 神父は最初訝しんだが、フェリアンは秘密として押し通した。アランの力を目撃されない為だ。



「今日もよろしくお願いします。昨夜のランシリ様はずいぶんと落ち着いていました。まだ意識ははっきりしませんでしたがね」

「そうですか~」

「しかし朝目覚めてまた悪魔に乗っ取られてしまった……」

「早速やりますわ~」

「頼みます」


 ヴィクター神父とフェリアンは短い会話を交わし、一行はランシリの寝室へと入る。



 デウモスは悪魔の表情のまま三人の動きを目で追った。アランたちは昨日と同じようにソファーに座る。


「今日も楽しい会話をしようじゃないか……」

「つまらないウソ話にはアキアキさ。今日は僕の本職、戦いをしようじゃないか」


 アランはちょっと強気に言う。いつもクエストとは違うのだ。


「役立たずが、生意気に……」


 デウモスは挑発するように言うが、アランは動揺しない。


「悪魔相手には神の力が使えるんだ。楽しい時だよ」

「クソ神、野郎めっ!」


 デウモスはそう言って昨日と同じ、悪魔の笑いを見せた。アランのペンダントが微かに震える。神はお怒りのようだ。

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