47「悪魔との対話」

「役立たずのアラン……」


 再びアランに話が振られる。男は自分一人なのでここは何とか頑張らねば、ドーンと来いやと身を乗り出す。


「何でも知ってるんだね。だから何?」

「若い駆け出しも、お前のことをそう呼んでるぜ」


 そう言って、ニヤニヤとイラらしい笑いを浮かべてアランを見つめる。端整たんせいな令嬢の顔に似つかわしくない不気味な笑顔だ。


「ふーん……」


 それはそうかもしれないだろう、とアランのテンションはガクリと下がる。事実は事実だった。


「あの人、記者だか何だか分からないけど、弱いくせに態度がデカくて、エラソーだってな」


 更にデウモスは、ニタリと不気味な悪魔の笑顔を見せる。


「僕は別に偉そうになんか……」

「酒場に行ってみな。追放常連の役立たずが、得意げに見習いの名刺を配ってるって爆笑のネタだよ……」

「ううっ!」


 アランは思わず想像してしまった。マークスたちならば絶対ネタにして笑っている。間違いない。



マークス「アランの奴、チョーシこいて見習いの名刺を配ってるが、あれって半人前ってことだろ? 」


キャロリア「そうよー。冒険者なら役立たず。記者なら見習いね!」


マークス「だったら今までと同じってことじゃねえか!」


コンラッド「稼ぎも同じようなものでしょう」


マークス「それでなんで俺たちに自慢こいてんだよ。笑わせてくれるぜっ!」


キャロリア「じゃっ、『東スト』もそのうちクビよね」


コンラッド「彼の場合は追放ですね」


マークス「追放ですかあ~? なんてまた涙目だぜ」


全員「「「あっはっはっは――!」」」



 と言って爆笑しているはずだ。これぐらいの会話ならばまだ良い方だ。彼らなら普通だ。


 問題は隣のテーブルに、他の冒険者パーティーがいた場合だった。どうしても冒険者は同じ店に集まる。それは元冒険者が経営している、などの理由でたまり場になっているからだ。



マークス「よう、最近一緒にクエストをやってんだろ? アランは強くなったか?」


アリーナ「全然! ゴミみたいなスキルに目覚めただけで有頂天よ。バッカみたい!」


全員「「「あっはっはっは――!」」」



「ぐぐっ……」


 想像しているうちにアランは涙目になってしまった。心が折れそうだ。


「ふふんっ、ギルドじゃお前が追放されるかどうか賭けをしていたらしいぜ!」


 デウモスは更にたたみ掛けるように言う。


「賭け?」

「ああ、お前の追放を、ギルドの連中は娯楽として楽しんでいたのさ。いつも話している受付の娘もな……」


 まさか全員が追放に賭けるわけはないだろう。ティルシーはされない方に賭けたに違いない。気の優しい、気配りができる受付嬢だった。


「いやあ、賭けが成立するなんて嬉しいね。僕が追放されない方に賭けた人もいたんだ!」


 アランは必死に立ち直ろうとする。


「アホンダラ! 三カ月以内に追放されるか、残れるかどちらかの賭けなんだ、よっ!」


 つまり全員が追放やクビと予想したので、期間を賭の対象としていたようだ。アランはガクリと肩を落とす。


「お前さんがクビにならない、なんて予想するギルド職員がいる訳ないだろうがっ!」

「そんなの嘘だ。デタラメだよ!」


 負ける訳にはいかないとばかりに、アランは声を上げた。


「見た訳じゃないのに何が嘘だ! だからエラソーなんだ、よっ!」

「お前だって見たわけじゃ――」

「俺は悪魔だ。なんでもお見通しなのさ」

「くう~っ……」

「お前さんお気に入りの受付嬢が勝ったよ……。さすがだな。聞けばいくら儲かったか、教えてくれるんじゃないのかなあ~?」

「ティルシーが……」

「いつもニコニコしてるだろ? お前さんが儲けさせてくれたからだ、よっ!」


 アランの完敗だった。どうも人間勢の分は悪い。


「はあ~……」


 こんな時間が一日中続くのだ。アランはウンザリした。



「この巨乳の女はなあ――」


 いよいよフェリアンに話しが振られたっ!


「えいっ!」

「ぐあああぁぁぁ――」


 これでフェリアンの順番は終りだ。


 次はソニアだが意表をついてアランに来るかもしれない。


 フェリアンは再び目を閉じ、少しの間沈黙が続く。

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