38「深淵への交信」

「アランっ! 防御するわ!」

「了解!」


 アランの前に水晶防循クリスタルウォールが展開し、すでにお馴染みさんになった吸血野犬ブラッディドッグが激突する。


 そしてすかさず終末の槍デッドランスを叩き込む。


 ギャンッ! と悲鳴を上げ倒れる吸血野犬ブラッディドッグを見て、他は尻込みを始める。


「よしっ!」


 そしてアランは思わず前に出る。


「ダメっ、だめよっ!引いて!」


 アリーナの高速指弾フィンガーバレットが炸裂して野犬たちは引いていく。


「だめねえ。奥には群が待ってるわ。誘っているのよ!」

「ダメダメ言わないでよ」

「あら、ごめんなさい。それ悪いクセよ」


 本当にその通りなのだ。分かっているが、未だにアランは前に出る。


 二人は変わらずに、アリーナの休みに合せてクエストをやっていた。


 フェリアンは卿の仕事もあるようで、いつもアランと一緒ではない。それに迷い猫探しに味をしめたのか、街の困りごとの解決依頼などを時々やっているのだ。


 アランとアリーナは互いにあの日の話はしない。なかったことになっているのだが、それで良かった。また昔の二人に戻っただけなのだ。


「さて、今日はこれぐらいにしておきましょう」

「もう? もう少し――」

「潮時よ! アイツら学習しているわ。群ってやっかいよねー」

「分かった。了解だ」


 アランは終末の槍デッドランスを、ほぼほぼ自由に発動出来るようになっていた。


 だからもう少し戦いたいと思ったが、ここはやはりアリーナの判断に従う。何せリーダー様なのだから。


 アリーナの指弾バレット曲射も精度を増してきている。訓練の成果は上々だ。



 帰り道にアランはフェリアンの話をする。


「庭仕事をやっている貴族が、領地の警備で王都から魔法使いを呼んだんだ」

「それってもしかして――ギルドで噂になっている魔女?」

「そう、黄金のごとき冒険者証ゴールドライセンスなんだ」

「へー、会ってみたいわー」

「じゃあ今日、紹介するよ」


 興味があるのは当然だ。アリーナは魔導技マジックスキルを中心に戦いを組み立てているが、魔法マジックも使用していた。それに両親は王都で働いている。


 便宜的に戦いに使う力を魔導技マジックスキル、それ以外の特殊な現象、作用を起こす力は魔法マジックと呼ばれていた。


 アリーナが魔将に放った一弾は火の撃球ファイアーコアだが、それに魔力を作用させて力を高めていたようだ。おそらく何かの魔法マジックを掛けたのだろうと、アラン思っていた。


「僕たちとは次元の違う強さだよ」

「アランだって――あっ、いえ……」

「いや……」


 やはりアランの力については自然に話すことはできない。聞かれても困るしアリーナは察してくれている。


「一緒にご飯でもどう?」

「誘ってくれるなんて光栄じゃない。もちろん行くわ!」

「家での食事は大丈夫だった?」

「うん、祖母の夕ご飯は早いから平気よ」


 ギルドに着いて二人は報酬を精算する。アランとフェリアンはいつも待合で待ち合せをしていた。


 用事がある場合は受付嬢のティルシーに伝言を頼むのだが、まだ帰って来てはいないようだ。


 アランとアリーナは待合の長椅子に座ってしばし待つ。冒険者たちが続々と帰還し、報酬を得ていく姿を眺める。


 当然だが以前のアランのように、追放を言い渡されている冒険者などはいない。


 それと残念ながら取材希望の申し込みは、まだ来ていなかった。


「お待たせ~。あら?」


 フェリアンはギルドに入るなりアランの元へと来る。これも外からアランがいるのか、いないかが事前に分かるからだ。


「え~と……、この人は前にいたパーティーで、大変お世話になった冒険者のアリーナです。それとこの人は、さっき話したフェリアンです」


 アランは少々ぎこちなくアリーナを紹介し、フェリアンも紹介する。


「フェリアンで~す」

「アリーナです……」


 二人は互いに名乗り合った。フェリアンにとってアリーナは姿形も、裸すらも知っているので初見ではない。


 その辺の口止めはしていなかったが、一応フェリアンは何事も口にしないのでアランはホッとした。


「『ラ・フロイデ』に行こうか」

「賛成~~っ」


 前回メニューを見たがあそこは美味しくて値段も手頃だ。


 道すがらアランはアリーナに、店や子猫を探し出した話などをした。


 三人で入店し席に着く。メニューを見て今回はコースではなく、それぞれが好みの品を注文する。


 フェリアンは以前と変わらずワインにおつまみだった。皆で食事を楽しみながら雑談、世間話などをする。


「今日は何をやってたの?」

「領地の見回りよ~、特に何もなかったわ~」

「ふーん」


 森に冒険者たちがいるから領地まで使い魔はめったに出てこない。フェリアンは吸血の使徒となった人間を探していたのかもしれなかった。


「フェリアンさんはどこに住んでいるんですか?」

「セルウィンズ卿のお屋敷よ~。さんはいらないわ~。冒険者同士なんだし~」

「はい。エルドレッド様のですか……」


 Sクラスの冒険者を王都から呼ぶほどの人物が貴族なのは自然だ。


「そう、僕のお得意様さ。あそこの庭仕事を手伝っているんだ」

「へー……」


 そんな仕事は、冒険者としてはあまり自慢できる話ではない。しかしアリーナはこの人間関係を自然だと考えてくれるだろう。


 最もアランの力はもうバレていた。しかし全てを話すなら、もう少し時間を掛ける必要がある。


「フェリアンは僕たちの知らない魔法マジックも色々と使えるんだ」


 フェリアンが魔法使いと呼ばれているのは、魔法マジックの力が特に強いからだ。


「私はまだ一般的なスキルばかりです。祖母から聞いたり、本を読んだり勉強しているんですけど……。どんなマジックが出来るのですか?」

「色々よ~、例えば深淵への交信ディープコンタクトなんかかなあ~」

「ひっ!」

「凄~い! どうしたの?」

「いや……」


 思わず小さな悲鳴を上げたアランを、アリーナは訝しむ。


深淵への交信ディープコンタクトはかなりの特殊魔法レアマジック、レア魔法なの。出来る魔法使いって国中で数人しかいないんじゃないかしら?」

「そうなんだ……」

「もう! なによ、その気のない返事は。今度、一緒に見せてもらいましょうよ」

「お安いご用よ~」

「これは貴重な体験なのよ? レア魔法をこの目で見られるなんて! 楽しみだわー」


 その魔法で、自分の裸を細部に渡って見られ批評されたなど、当たり前だが思いもよらないアリーナは無邪気に言う。


「ああ……、そうだね。楽しみだなあ……」


 アランは少々顔を引きつりぎみにさせ、アリーナに相づちをうった。

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