27「反撃、蝿の将」
魔将が腕を組むと、六本の蝿の足が不気味に動き先端が光る。
自分以外の記憶にある、
先端から細長い金属、六本の槍が伸びて触手のように蠢き襲いかかる。
アランは剣を振るいそれをナギ払いながら空中を機動した。新たな槍が次々に形成されアランの行く手に立ち塞がる。
折れた槍は地上に落下していくが、それは突如としてアランに向かって突き上がって来た。
「鬱陶しいなあ」
アランが左手を突き出すと、
「こんな攻撃いっ!」
しかし四散したその槍は溶融し、意思を持っているかのように集合を始める。
「金属攻撃か……」
避けても砕いても永久無限に続く攻撃だ。真正面から受けて退けねばならない。巨大な槍の穂先となったそれは、アランに向かって突き進む。
剣で受けたアランは圧力に押されて一気に降下する。押さえ込んではいるが、今の飛行能力では支えきれない質量の攻撃だ。
そのまま地上に激突し爆発するが、それはこの金属体を消しさるアランのカウンター攻撃だった。
地上に穿たれた大穴に溶けた金属が煮えたぎり、蒸発、消滅を始める。その中からアランはゆっくりと浮かび上がった。
体にまとわりついていた溶融金属が流れ落ちる。皮一枚で残る
「いちいちめんどくせえ……」
アランは再び上昇し魔将と対峙する。
互いの力は拮抗していた。戦いの成否、趨勢、決着は持てる継戦能力で着けるしかない。
アランは思うように発揮できない神の力に、悪態をつきたい気分だった。どうやら封印はこれ以上の力を欲してはいないようだ。それはまるで、アランの力でやって見せろと言っているように感じる。
「ん?」
不意に地上で魔力の高まりを感じた。魔将もまた気が付いたようだ。
「アリーナっ!」
無謀にも彼女は魔将への
「よすんだ!」
言うと同時にエネルギーの塊が地上から飛び出し、空へ向かって駆け上がって来る。
それはただの
赤い炎の塊は小さくなり白金の輝きを見せた。空気中の組成を巻き込みながら、火力を遙かに超える高温へと高まりつつ、魔将へ向けて飛翔する。
確かにこれは凄い攻撃だ。しかしそれは冒険者の、とした場合の話だ。
アランたちとて、これと同じ攻撃体を簡単に複数作り出せる。事後処理の為、一気に降下しアリーナへと向かった。
「純粋な子供――、の児戯か……」
魔将は軽く手を出してアリーナ渾身の一撃を受け止める。
「
手に収まりさらに輝きを増し、
「防御はこうだっ!」
アランが叫びと共に手をかざすと、アリーナの手前に水晶がまるで山脈のごときにそびえ立つ。魔将の反撃は雪山の氷河に囚われた小さな炎のように頼りなく消えさった。
さらに水晶は拡大しアリーナの足元にも広がる。
「きゃっ! あっ、ああ……」
水晶の煌めきが触手の枝のように伸びて両手をもとらえる。
「そこでじっとしてるんだ」
それに囚われたアリーナは足を取られ腕も引かれた張り付けのように、透明な水晶の中に閉じ込められた。
まるで産まれたままの姿に
「
魔将バーゼルに動きはない。つまらなことをやっているな、とこちらを見ているのだろう。
「ふふっ……、持って帰って部屋に飾りたいくらいだね」
眉一つ動かせなくなったアリーナには意識もあり、五感と魔力は今まで通りに反応している。アランは力になりたいと願うこの少女を、安堵させなければと思った。
「そこでおとなしくしてるんだよ……」
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