28「決着、蝿の将」

「遊んでいると心配する人がいるんだよ――」


 アランは振り返り空を見上げた。


「――早めに決着をつける……」


 そしてバーゼルを睨み付ける。しかし魔の将も引かない。


「こいつを十発まとめれば、あの水晶山脈クリスタルマウンテンを破壊できるかどうか――」


 魔の准将は反応弾ノヴァバレットを複数作り出す。


「……」


 そして超危険な玩具を、両手のひらで回転させ遊んでみせた。


「――試してみるか……」

「ちっ!」

「興味はないか?」

「ないね。だから――死んでもらうぞっ。今すぐになっ!」


 アランのひと睨みで反応弾ノヴァバレットは消滅する。


「むっ」


 剣を高く掲げると、アランを中心にして五つの光の輪が出現する。それは以前に魔兵三体を切り刻んだ力と同じスキルだった。


 しかし――。


「まだまだっ!」


 更に輪が出現し、塔は七重となる。そして八重へと次々に輪が作られた。


「こけおどしだな……」

無限回廊塔インフィニットタワーだよ。意味は分かるかな?」

「なんだと?」


 誰が呼んだのかは分からないが、アランはその名を知っていた。が、魔将か知る訳もない。


 それは蛇腹じゃばら状の筒となりアランから離れ上空へと昇った。輝きを増した輪の中で炸裂する閃光が、黄金の竜を形作る。


 そして鱗から発した無数の閃光が将に襲いかかった。光のいばらが体を巻き取り、自由を奪う。


「ぬおーっ!」


 バーゼルは渾身の力で拘束の茨バウンティワイヤーを引きちぎろうとするが――。


「終わりだな。こいつが出たら終わりだよ」


 ――竜の口となっている先端の輪が広がり将の半身に食らいつく。


「ぐおっ、がっ」


 自由になる両手から最後のあがきで攻撃を繰り出すが、アランの眼力デタントアイがことごとくそれを不発に終わらせた。


「がはっ! 神めっ……」


 残された上半身は、その一言を残して地上に落下していき、途中で消え去る。



 バーゼルの気配もまた消え、この魔結界の中に存在するもう一つの気配を際立たせた。


「あいつ……」


 空が明るさを取り戻し始める。その魔族は前回と同じく、もう戦いの空間を欲しないようだ。


 アランの神の力も封印を始めた。ゆっくりと降下してその竜族の前に立つ。


「我らと同じ竜を出してくれるとは感激だね……」

「また観戦だけかよ……」


 フードを取ったその姿は銀に紫色が混ざった髪。顔には赤いクマドリが描かれ、口元には牙が見える。そして二本の角。


 竜族は右の拳を突き出した。アランは一瞬身構えるが攻撃ではない。


「何だよ?」


 その手に光る指輪は酷似していた。悪魔を表す一本の棒に一匹の竜が絡んでいる意匠いしょうだ。


「そいつをどこで……」


 何も答えない無言の竜族は、いつものように小さくなって消えた。


「ふん――」


 アランが振り返ると、遠くにそびえ立っている水晶山脈クリスタルマウンテンは溶け始め、アリーナの位置は地表へ向けて下がりつつある。


「素晴らしい標本だね」


 しかしもう、その・・標本は解放される。ゆっくりと歩きながら、沸騰していたアランの気持ちも人間へと戻っていった。



 なんと話せばよいのか分からないまま、アランはその少女の前に立つ。


 アリーナはまだ魔導具をつけただけの裸身だった。地べたにへたり込んだまま顔を上げる。


「アラン、あなたって……」


 アリーナは自分の目の前で起こったことが現実とは思えず、少しの恐れと不思議な物でも見るように。


 アランは強さを見せた少しの優越感と、この少女が自分を恐れはしないかと、心配そうに――。


「もう大丈夫だよ……」


 ――二人はしばし見つめ合った。

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