「インフィニット」~能力値が「無限」の冒険者は、またパーティーをグビになる~

川嶋マサヒロ

第一章「神の力を持つ少年」

01「パーティーを、またまたまたまた、またクビになる」

 夕刻のギルドは独特だ。


 クエストを終らせ帰還した冒険者たちが、今日の成果を金として受け取る雰囲気に満ちあふれている。


 ある者が思わぬ大金を手にして自慢げに胸を反らせば、ある者は目算が外れたと、不思議なことにこれもまた自慢げに言う。俺の実力はこんなものではないと、明日は見てろと周囲に振りまく。


 死亡者でもでない限りは、誰もが幾ばくかの金を手にする歓喜の時だった。


 しかし全ての冒険者がそうとは限らない。


 雑踏の囁きがまるで耳に入らない少年が今、もう何度目かの崖っぷちに立たされていた。



「言いにくいのだが……、おまえにはパーティーをやめてもらう」


 クエストを無事に終わらせ、報酬を受け取ったギルドの待合。


 このパーティーのリーダー、コーディーはクビを宣告した。


 薄々いつかは、と予想はしていたが、突然の話にアランはオウム返しに問いかける。


「えっ? なっ、なんで??」

「分からんのか……」

「クビですか? それとも追放……」


 アランは自分の戦いぶりを思い起こす。


 職種は剣士、配置は前衛。このリーダーと二人で二人の魔法使いの前に立ちはだかるのが仕事だった。


 冒険者になって一年。駆け出しなりに一生懸命やってきたと自負している。


 しかし後衛の魔法少女からは、いつも怒鳴られまくっていた。


「もう、冒険者なんて止めなさいよ。あなたには無理よっ!」

「ぐっ……」


 毎度お馴染み、後方からの叱責にアランは唇を噛みしめる。


 思わず振り返り少女をにらむが、既に涙目なのでにらみ・・・の効果はまったく発揮されていない。


「以前、商売をやっていたと言ってたな。今からでもそちらに専念するのがいいと思うが?」

「……」


 コーディーは優しくさとすように言うが、今のアランには答える元気もない。


 アランは商売と冒険者のクエストで食いつないでいた。


 商売と言っても市場で仕入れた商品を路上で売る、果物売りの少年だ。稼ぎは子供の小遣い程度なので、それを商売と言えるのかは、はなはだ疑問でもある。


「足手まといだったしね。早くクビにしろって、ずーーっとコーディーに言ってたのに……」


 魔法少女はあっけらかんと追い打ちを掛ける。年はアランより一つ下の十五歳だ。


「ウチのパーティーとは相性が悪かったのかもしれん。才能は思わぬ場合に開花するからな」

「ダメよ! アランには才能がないわ。冒険者なんて早く止めるべきよ」

「アリーナ、そんな言い方は止めなさい。先のことなんてまだ分からないわよ……」

「はい……」


 冒険者引退にこだわるアリーナの物言いに魔法使いの女性、パトリスがたしなめるように言った。そして、その少女は素直に従う。


 この三人がこのパーティーでアランを持て余していたのは、本人にも薄々は分かっていた。


「今日の報酬だ」


 コーディーは頭割りした分配金を、アランに差し出しす。


「ありがとうございます……」


 心なしか魔法少女のアリーナが睨んでいるように思えた。涙目ではない。


 もうここにいても意味がない。アランのこれからなんて自分が決めればいいことなのだ。こんな所で議論なんて人目が気になる。


「短い間ですがお世話になりました。失礼します」


 アランはペコリと頭を下げて、急いでギルドを飛び出す。


 外に出て、なんだかフワフワとした感覚で帰り道を歩いた。涙で石畳が歪む。


「はあ~~」


 思わず溜息をついた。またしてもパーティーをクビになってしまった。これで五回目だ――と。


 何度体験しても慣れるものではないなと思った。


 あの魔法少女、アリーナ言うことは最もなのだ。足手まといがいてはパーティー全体が危険にさらされかねない。


 とは言っても――。


「はあ~~」


 とアランは再び溜息をつく。役立たずでもレベルアップを果たし、少しでも役にたてるようになれば、いつかパーティーの仲間として迎えられるかもしれない。


 そんな希望はまたしても打ち砕かれた。


 王国東の外れ最大の街、ここクリヤーノに戻って来てもうすぐ一年。


 なんとか食べてはこれたが、ただただ足掻くだけで一年が終わりそうだ。


「もう少し普段使いの力が上がるかと思っていたけど――、そうじゃないのか……」


 神の加護を受けて魔族の王と戦ったアランの力は、人間を遙かに超えて神の如き強さを発揮する。


 それ故にその力は同じく神の力で封印され、たかが・・・冒険者ギルドのクエストごときで自由に発動させることはできない。


「結局、一年やっても、スキルはゼロだもんなあ……」


 冒険者の戦闘力、魔導技マジックスキルは個人の資質ではあるが、他の魔法使いからのアシストなどで開花する場合がある。


 だから駆け出し冒険者はパーティーに加入する。そのようにして初心者は強くなっていくのだ。


 そしてアランは成果が出ぬまま、五つ目のパーティーをグビになった。


 アランは足取りも重く安宿の部屋に入る。


「はあ……。なんで元勇者の僕がこんな苦労を……」


 ベッドに横になり、また溜息をついた。


 自ら選んだ道ではあるが、弱音を吐いてから天井を見つめて再び涙ぐむ。

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