異世界転移したら、そこで強力な治癒師になってました。

織原深雪

第1話 歩いて森をさまよって、出会ったのは妖精?

今日の私は重い教科書を抱えて、学校から自分の家へと帰っている最中だった。

あと少しで家だという所で、いきなり私の視界が歪んで、滲んで景色が見えなくなったあと、クリアになった目の前の光景に自身の目を何度となく瞬き、擦ってみても変わらないその様子に、思わず呟いた。

「ここはどこ?」


私の目の前に広がるのは、住宅地の家々とコンクリートや街頭ではなく、青々と茂る緑豊かな森の中。

しかも、夕方だったはずの時間は変わっており、木々の隙間から日が差し込んでいるところを見ると、ここは昼間っぽい。

ここに立ち尽くしていても仕方ないので、とりあえず誰かに出会う、そのためには森を抜け出すべく動き出さなければならない。

「さて、どっちに行けばいいのかも分からないよ?」

思わず腕を組んで呟けば、キラキラと光る球体が二つヒラヒラと飛んできた。

不思議と怖さはなく、思わず光るものに手を伸ばして、一つ掴んでしまった。

「キャ!ちょっと、人間!何してくれるのよ!」

掴んだ光るものからは、甲高い可愛らしい女の子の声がした。

言葉が分かることにホッとして、私は掴んだものを目の高さに掲げて見つめるとそこに居たのは、ファンタジーでおなじみな格好の妖精だった。

「まさか、リアルな妖精さんに出会うとは……。これは夢? 私ってば、寝ぼけてる?」

思わず呟いた私に、手の中の子はブーブー文句を言ってきた。

「ちょっと、人間! あんたいい加減離しなさいよ! って、あれぇ? あんた、この世界の子じゃないわね」

そんな手の中の子が気になるのか、もう一つの光も手の近くでキラキラふわふわしていると、手の中の子の言葉に反応してキラキラが薄れて姿が見えた。

手の中の子は水色の髪に瞳と透明な羽根の妖精さんで、もう一人は黄緑色の髪と黄色っぽい瞳で透明な羽根の妖精さんだ。

黄緑の子も姿が見えると、声が聞こえてきた。

「アリーン! この子が精霊王様が言ってた愛し子ちゃんじゃない?」

黄緑の子は、柔らかくおっとりした口調で告げると水色のアリーンと呼ばれた子は目を見開いて驚いたように言う。

「まって、サリーン! こんな私を鷲掴みするような子が愛し子ですって!?」

甲高い声に思わず私が顔を顰めると、サリーンと呼ばれた黄緑の子は私の目の前に来てニコッと笑うと言った。

「だって、精霊王様は言ったわ。黒髪、黒目の可愛い子だよって」

サリーンの言葉に、アリーンも私をマジマジと見つめて言った。

「ホントだわ……。黒髪に黒目の女の子ね……。人間、とりあえず話があるわ。逃げないし、離してくれないかしら?」

なんだかよく分からないけれど、この子達の話は聞いた方が自分のためな気がして、ゆっくりと手を広げてアリーンと呼ばれた水色の子を離した。


「ふぅ。さて、人間。名前はなんて言うの?」

「三島優羽(みしま ゆう)だけど……」


私の名前を聞くと、二人はウンウンと頷いて今度はサリーンが話し出した。


「ユウって言うのね。私は風の妖精サリーン。あなたが捕まえた子は水の妖精アリーンっていうの」


おっとりさんなサリーンの口調は、こんな知らない深い森の中だというのに和んでしまう。

ついニコニコと聞いていると、さくっとアリーンが言った。


「この子大丈夫かしら? 危機感が無くってよ?」

「大丈夫よ。だってこの子は精霊王様が異界から遣わした、我らが愛し子ですもの」


うん、二人の会話する姿は可愛いけど、私にも分かるように、そろそろ説明して欲しいな?


「ユウ、あなたは精霊王があなたのいた世界とは違うこの世界、フューラに召喚しました。精霊王の愛し子として、この世界でして欲しいことがあるの」


なんと、精霊王とかいうこの世界の偉そうな存在に私は導かれたらしいです。

異世界転移しちゃったって、ことなの? とりあえず、訳知りなこの二人の妖精さんの話はしっかり聞くべきと、私は聞く体勢を整えるのだった。

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