1-11 乱れタケノコ

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「あががががががががっ!?」



 僕達はワイルドボアに引き摺れ、農作物を破壊しながら森の中へと入っていく。

 僕の顔面にはかぼちゃがストライクし、アシュレイの体は潰れたトマト塗れとなった。


「いでででででででで!」

「痛い! これは結構痛いぞ!」


 全身が石ころや木に打ち付けられる。ワイルドボアは僕達をずりずりと引っ張ってて森の中を疾走する。


 途中に木の幹や根っこや、切り株が体のあちこちにガンガンぶつけながら土の上を滑らせていく。


「いだい! ウェルト、これからどうするんだ!? いだい!?」

「いでででで! できれば畑の中で倒したかったんだけどな! いででででででで! もうこうなったら、いでで! この糞イノシシめ! もうこうなったら森の中で倒すしかないぞ! いでででで!」


 ワイルドボアは数分間森の中を疾走した後、急に止まって僕達を空中に放り投げた。


「ぐべっ!」

「あがっ!」


 反動を付けて飛ばされた僕達は、近くにあった大木に勢いよく打ち付けられた。

 少しの間だけ磔にされ、全身をまんべなく均等に強打した事で肺から空気が抜ける。僕とアシュレイはそのまま地面に落ちていった。


「くそっ! まじでこいつにはいい思い出がひとつもないな!」


 僕はすぐさま体を起こして暗視スキルを発動し、周囲の状況を確認する。アシュレイはすっぽりと地面から頭を突っ込んでる。


 あ、自力で抜け出した。


 そして、肝心のワイルドボアは鼻息を荒く立てながら僕達を睨み付けている。


「竹林か」


 ワイルドボアが戦いに選んだ場所フィールドは竹がチラホラと群生して、少し開けたところだった。


 この場所をワイルドボアが選んだって事は.......少し不味いな。


「うぅ.......酷い目にあったぞ。しかし、あのワイルドボアの目付き。どうやらやる気マンマンだな」


 アシュレイは髪に付着した土を頭を振って払うと、重砲を背中から出して握りしめ、ワイルドボアへ銃口を向ける。


「アシュレイ気を付けろ。この場所を選んだって事は、゛あれ゛が飛んでくる」

「ウェルト、゛あれ゛とはなんだ? なんの話をしているんだ?」


 と、その時。


 バズゴォンッ!


 ワイルドボアから高速で回転する茶色く尖った物体が撃ち出された。


 それは僕の頬を掠めると、後ろにあった大木に激突して粉々に粉砕した。


「あんの糞イノシシめ! やっぱりタケノコを使ってきたか!」


 そう、タケノコだ。


 僕に向かって放たれたのは竹の成長段階前のあの美味しいタケノコ。


 厄介なことにワイルドボアは人間と同じように武器を使う。


 僕は短剣、アシュレイは重砲といった具合にワイルドボアにもそれぞれ得意な得物があるのだ。


「タケノコだと!? タケノコを飛ばしただけでなんだあの巫山戯た威力は!?」

「そうだよな。僕もそう思う。だから糞イノシシは畑の中で倒したかったんだ。まあ、過ぎたことは後悔してももう遅い、それに、ドングリよりは幾らかましだがな」


 ワイルドボアが使う得物は主に三種類。


 ドングリは大砲を上回る炸裂弾に。


 アケビは種子を連続で発射する銃に。


 そしてタケノコは岩盤をも貫く投げ槍と化す。


「いいかアシュレイ、タケノコには絶対当たるなよ。体が持っていかれるからな」


 僕が村で畑を耕していた頃に、何回腕を持っていかれそうになったことか。目では追えない早さで飛来するタケノコは、本当にやばい代物だ。


「そうゆうことか! だからウェルトは畑の中で仕留めたかったのか!」

「真正面に立つとタケノコに串刺しにされる。だが、逆に言えばタケノコは真正面からしか飛んでこない。糞イノシシの横を狙って攻撃するぞ!」


 ワイルドボアは初撃を外したが、次は当ててやるぞと言わんばかりに、次々と地面からタケノコを引っこ抜いて僕達に向けた。


「来るぞ!」

「分かった!」


 僕達は合図と共に散開した。


 ワイルドボアが撃ち出したタケノコは、かつて僕達が居た場所へと突き刺さる。


 地面がボコボコと陥没し、土砂が舞う。


歪風いびつかぜッ!」


 僕はダガーに薄緑色の風の魔力を纏って振り抜いた。


突風を起こしながら進む飛ぶ斬撃は、ワイルドボアの頭部に命中する。


 毛皮が破れ、鮮血が零れた。


「ブモモモモモモ!?」


 ワイルドボアは突然の僕の反撃を受けて怒り狂う。血走った目をしながら僕を睨みつけて突進する。


「ッ!? 危ねぇ!」


 僕は間一髪で瞬歩を使い、ワイルドボアの突進を回避する。


 ワイルドボアはスピードを落とさないままボキボキと竹を折りながら突き進んだ。


 しかし、突進を躱された事にすぐ気付いたのか、四本の足で地面を思いっきり踏み抜いてブレーキをかけた。


「ラピッドショット!」


 僕達に無防備な背中を晒したワイルドボアに、アシュレイのラピッドショットが炸裂する。アシュレイの重砲から高速の弾丸がワイルドボアの背中に打ち込まれた。


「ブモモモモモモ!?」


 弾丸は背中の毛皮を突き破り、肉の中まで到達した。しかし、細かい弾丸が身体の中に打ち込まれたぐらいでは、ワイルドボアにとってかすり傷に等しかった。


 アシュレイは本来、フレイムカノンのような高威力の攻撃を得意とする筈だ。


 が、いかんせんここは森の中。地下水路の時の同じように、あまりにも場所が悪すぎる。


 フレイムカノンなんてここでぶっ放せば、山火事になること間違いなしだろう。


「くっ、浅いか」

「ウェルト! 私にいい考えがある!」

「山火事覚悟のフレイムカノンはお断りだ! ダメ、絶対。自然破壊反対!」

「まだ何も言ってないだろう! 私にはバラージウォールという技能があってな、それを至近距離で撃ち込めば大ダメージを与えられるかもしれないのだ!」


 至近距離、か。


 僕は思わず目の前いるワイルドボアを見つめた。


 タケノコという殺意の篭った遠距離攻撃を有するワイルドボアに突進を誘発するのは中々骨が折れるな。


 だが、今の僕ではワイルドボアの命を直接刈り取るような有効打は与えられない。


「分かった、アシュレイに向かって糞イノシシを突進を誘発させればいいんだな?」

「その通りだ」


 僕は軽くアシュレイに頷き、脚に力を込めて駆け出した。


「ブモモ!」

瞬歩しゅんぽ!」


 ワイルドボアから一直線状に僕に向かって先端が尖ったタケノコが放たれる。


 僕は瞬歩を発動し、身体を捻って放たれたタケノコを躱す。


 タケノコがすぐ横に地面に突き刺さり、土と石の破片が僕の半身を襲った。


「くっ! 瞬歩!」


 右脚に特に力を込めて再び瞬歩を発動。ワイルドボアの視界から、僕はふっと姿をくらました。


「絶命剣!」


 僕はワイルドボアの横、即ち死角を取っていた。一瞬で消えた僕を追えれなかったワイルドボアの眼球に、ダガーが突き刺ささる。


  水風船を潰した感覚と、どろりと肉が裂ける嫌な感覚がダガー越しに僕の腕に伝わった。


「ブモモモモモモ!?」


 眼球を潰れたワイルドボアは絶叫する。


 残った片目で僕を睨みつけ、鋭い二対の牙で僕を突き刺そうと突進を仕掛けた。


「かかったな!」


 ワイルドボアは勢いよく土砂を蹴りあげながら突進する。竹や岩などの障害物を踏み潰しながら僕に襲いかかる。


「瞬歩! 瞬歩! 瞬歩!」


 本来、ワイルドボアの目の前に立つのは自殺行為だ。僕がまだ村にいた頃、直線上にしか攻撃をしてこないワイルドボアには横から攻撃を入れるのが鉄則だと学んだ。


 ※ただしドングリは除く。


 だがアシュレイの元へ誘導させるにはやるしかない。


 僕は連続で瞬歩を発動させ、ワイルドボアの突進から逃げていく。


「行くぞバラージウォールだ! 離れてろウェルト!」


 アシュレイが重砲を地面に固定し、構えていた。銃口から淡く輝く光が漏れ出している。


「よっ、と!」


 僕は身体に一括を入れ、空中へ高く飛び上がった。 突進しているワイルドボアは、僕の真下を凄まじい速度で通り過ぎた。


「バラージウォール!」


 アシュレイの重砲から百を超える弾丸の雨が放たれた。


 あまりの威力にワイルドボアの突進が中断される。


 足をよろめかせ、ワイルドボアは足をもつれさせて転倒する。


 弾丸の雨はワイルドボアの毛皮をズタズタに突き破り、黒い血が地面に飛び散った。


「絶命剣!」


トドメと言わんばかりの突きを僕は真上から繰り出した。


 ダガーは頭部に差し込まれ、ワイルドボアの頭を砕き、命を刈った。


-ステータスが更新されました-

-ワイルドボアを討伐しました-

-Lvが1あがりました-


「ふぃ.......。何とかなったか」


 僕は頭が砕かれ、バラージウォールでスダボロになって息絶えたワイルドボアを見下ろして呟いた。


 暗い竹林の中で、僕達は無事にワイルドボアの討伐に成功したのだった。

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