1-7 元凶

 浄水炉の中から姿を現したのは巨大なヒュージスライム。


 圧倒的な威圧感を放つヒュージスライムの王は、僕達に向かって雄叫びをあげた。


「ギュアアアアアア!!!」


 咆哮が広場に反響し、ビリビリと空気の振動のようなものが生じて空間が揺さぶれる。


 こいつ、さっきの雑魚共とは明らかに格が違う。親玉か!


「で、でかい.......!?」

「やつはヒュージスライムキング! こいつがヒュージスライムの異常発生の原因だったのか! ウェルト、こいつを倒せばヒュージスライムは地下水路からいなくなるぞ!」


 脅威度D。ヒュージスライムキング。ヒュージスライムの進化個体であるこいつは、身体から無数のヒュージスライムを分裂させることが出来る魔物だった。


「こいつが大元の元凶か! 倒したら冒険者ギルドから特別報酬はいくら貰えるのか、なっ!」


 ヒュージスライムキングは僕に向けて、ゼラチン状の体から触手を伸ばして打ち付けた。僕はすかさずバックステップで後退し、寸前の所で触手の攻撃を避ける。


 触手は地下水路の床に叩きつけられ、石で作られた床をいとも容易く破壊した。


「なんつー威力だ」


 パワー。そしてスピード。どれをとっても不足なし。あの触手の攻撃に当たれば、骨折程度では済まされないだろう。


「ウェルト! あいつの体の中心にコアがあるぞ! ご丁寧に狙いやすい!」


 アシュレイの言った通り、目を凝らして見れば、濁った緑色の塊の中に不細工な形をした円形の物体がある。さっきまで戦っていたヒュージスライムの核とは比べ物にならない程の大きさだ。


 スライム種は体の中にある核を破壊されると死ぬのがお約束なので、これを壊せばあのデカブツも例外ではないので倒せるだろう。


歪風いびつかぜ!」


 僕はダガーに風の魔力を込める。薄緑色の魔力がダガーを包み込んだ。そのままダガーを横に凪いで振りぬき、ヒュージスライムキングの核へと歪風を飛ばす。


 爆裂。


 ヒュージスライムキングの核の半分が歪風の攻撃で消滅した。核を破壊されたことでヒュージスライムキングは叫び声をあげる。


「ギュィィィィィィィ!」

「なんだよこれ.......核を破壊したのに再生してる.......!?」


 ヒュージスライムキングの核を壊したと喜んだと束の間、半分になったヒュージスライムキングの核からは、ポコポコと弾ける音を立てながら再生が始まった。


 再生速度はあまりにも早く、ものの数秒で再生が完了し核は元通りの状態になった。


「これならどうだ! フレイムカノン!」


 アシュレイの重砲から爆炎が弾ける。


 爆炎はヒュージスライムキングに衝突し、核の周りにある粘液を焼き払った。 爆風で粘液が飛散し、ヒュージスライムキングを浄水炉の方へ押し返す威力。だが、それも一瞬で再生された。


 残った粘液が全身から溢れ出し、体の三分の一が消し飛んだ筈なのに元に戻る。


「なんだよこいつ!? 化け物か!?」

「そんな馬鹿な! スライム種の粘液はともかく、核が再生するなんて見たことも聞いたことがない! それにあの再生スピードはありえない、明らかに人の手が加えられているな!」


 手の打ちようがないじゃないか。こんな奴、どうやって倒せばいいんだ。


 いや、待てよ。


 粘液は一瞬で再生した。しかし、僕が核を壊した時の再生時間はそれでも早いが、粘液が再生する時間よりも遅かった。


 つまり、核はこいつの弱点で正解してる。


 となれば、核を塵一つ残さず破壊すればもしかしたら倒せるのではないのだろうか。


「アシュレイ、いい考えが思い付いた!」

「なんかいいこと思いついたのか!? よし、では私は何をすればいい!?」

「もう一度フレイムカノンをあのデカブツにぶつけてくれ!」

「任せろ!」


 短い作戦が終わったと同時に、僕はヒュージスライムキングに向かって駆け出した。


「ギュアアアアアア!!!」


 ヒュージスライムキングの全身から触手が伸ばされ、僕へ向かって放たれる。


「瞬歩!」


 地下水路の固い床を蹴り、僕は一気に距離を詰めた。


 僕の後ろの床がヒュージスライムの触手で叩きつけられた様で、石の破片が背中に当たり叩きつけられる。


「フレイムカノン!」


 ヒュージスライムキングが僕に夢中になっている隙に、アシュレイがフレイムカノンを放つ。


 目の前が火柱が立って炎上し、僕の視界が炎に包まれる。


「ぐっ、ぬぅ!」


 僕は瞬歩を発生したまま勢いを止めずに炎のカーテンを突き破った。


 炎の向こう側に見えたのは、粘液に少し埋まっていたが、剥き出しになったヒュージスライムキングの核。


 予定通りだ。


「窃盗!」


 これが僕が考えたこと。


 失った粘液の再生を始めていたヒュージスライムキングは途端に再生が止まる。


 そして、僕の手にずっしりと重い感触がたしかに伝わった。


「やった!」


 核を失ったヒュージスライムキングはもはやただの粘液。ヒュージスライムキングだったものはドロドロと崩れ落ちていくていく。


「アシュレイ! もういっちょ!」


 僕はすかさず核を空中へ蹴り飛ばす。


 核は空中で粘液を凄まじい勢いで吹き出しながらすぐさま再生を始めるが、アシュレイの重砲が核を確かに捉えていた。


 粘液が虚空で大量に展開され、今まさに、僕達の真上でヒュージスライムキングが形成されようとしていた。


 このヒュージスライムキング、核だけの状態でも再生を始められるのか。なんて化け物なのだろう。


 だが、勝敗は決した!


「フレイムカノンッ!」


 アシュレイの重砲から爆炎が核に向かって撃ち出された。灼熱が核を襲い、空中で核と粘液と爆炎が重なりあって爆発する。


 熱い粘液の雨を降らせながら、ヒュージスライムキングは核を焦がされて僕達に倒された。


 -ステータスが更新されました-

 -ヒュージスライムキングを討伐しました-

 -Lvが2あがりました-

 -スキル『地図作成マッピング』を獲得しました-

 -盗賊術がLv6になりました-


「やった、か」


 僕は息を吐いて安堵した。


それにしても体中が粘液塗れだ。


 うぅ.......ぬるぬるする。少しだけリフィアの気持ちが分かった気がする。


 見ればアシュレイも、僕と同じように緑色の粘液で覆い尽くされていた。


 ヒュージスライムキングは強敵だった。たった二人だけで倒せたのが奇跡に等しいだろう。


「すっごくぬるぬるするな。だが倒したぞウェルト!」


 アシュレイは笑顔で僕に駆け寄り、笑顔でハイタッチを交わした。粘液塗れでハイタッチを交わす僕達は、傍から見ると痛い人だ。


「倒したのはいいが、こいつを調べてみてみないとな」


 僕はそう言って地下水路の床の上に落ちていた、かつてヒュージスライムキングの核だった物を拾い上げる。


 どうやらあまりの高温で生命活動が停止したらしい。僕の立てていた予想とは少し違ったが、とりあえず結果オーライだ。


 触ってみると完全に乾ききっているみたいで、もう再生する気配はない。


 嗅いでみると僕の鼻に凄まじい刺激臭が突き刺さる。そ腐った卵とドブ水の匂いがする。僕はヒュージスライムキングの核を見て、思わず顔を顰め鼻を摘んだ。


 これは.......鼻がひん曲がるな。


「どれ、私にも見せてみろ。うっ、これは酷い匂いだ」


 アシュレイも触ろうとしたが、手を止めて鼻をつまんだ。


「こいつを調べればあの異常な再生速度について何か分かるかもしれないな、アシュレイ」


 僕は核を見て言った。


 いくら魔物に詳しくない僕でも、あの再生スピードは異常だ。


 どうしてかは分からない。だけど、なんだか嫌な予感がする。


「ウェルト、私の妹は学者と言ったであろう? 丁度いい、今から持っていくぞ」

「え? 今から?」

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