1-5 再会
1-5 再会
「キュアァッ!」
「絶命剣!」
僕のダガーがヒュージスライムを仕留める。
ヒュージスライムの核にダガーが差し込められ、砕け散る。
僕は地下水路の中で次々とヒュージスライムを倒していた。
もう既に六体目。
僕は汚水の中から飛び出すヒュージスライムの核を丁寧に砕きながら倒していく。
「うーん、中々数が多いな」
地下水路の汚水の中にはヒュージスライムで溢れ返っていた。
更に、ヒュージスライムはとても好戦的で、人を見つけるとすぐに襲いかかる。
流れる汚水の横を歩けばすぐさまヒュージスライムは飛び出してくるぐらいだ。
「気配感知」
気配感知を発動し、僕は汚水の中に隠れているヒュージスライムを探し出す。しかし、この辺りはもう殺し尽くしてヒュージスライムは見当たらない。
と、思いきや気配感知に反応あり。北の方に一際大きい反応があるな。
僕は地下水路を歩きながら、反応があった北の方角へ歩いていった。
「大きな穴だな。落とし穴.......じゃないか。罠感知に反応がないから違うと思う」
反応があった場所に着くと、まるで爆発にでもあって出来たかの様な大穴があった。
幸い、水の流れている場所から離れた所にできていたので、水が流れて少しした池にはなっていなかった。
「この中だな。暗視発動」
僕は暗視スキルを発動し、大穴に近づいて中を覗き込んだ。暗視は暗い場所を昼間と同じように見ることが出来るスキル。
あと視力が少しだけよくなる。少しだけ、だけども。
「結構深い.......中には何がいるんだ?」
僕が呟きながら大穴の中を覗いたその時。
「これは人の声.......! おーい! 聞こえるかー! そこの誰かー! 私をここから助けてくれないかー!?」
穴の中から人の声がした。
あ、でもなんか聞き覚えのある声だな。いや、そんなこと考えてる場合じゃなかった。
まさか、この穴の中に人が閉じ込められているなんて。僕は暗視を更に強く発動し、大穴の中を覗く。
中にいたのは、赤髪に黒いガウンを着た女性。
あるぇ? なーんか見覚えがあるな。
「アシュレイじゃん.......。こんな所で何をやっているんだよ」
そう、中にいたのはアシュレイだった。二日前、山賊から助けたアシュレイだ。
煤けた黒い顔で、嬉しそうに僕に向かって手を振っている。
「む、その声は私を二日前に助けてくれたウェ.......ウェ.......? ウェなんとかと言う少年だな!」
「そうだよ。あと名前ぐらい覚えておいてくれよ。ウェルトな」
僕は呆れながら、袋からロープを取り出して大穴の中に垂らしてあげる。
「あ、ロープだ。用意がいい」
アシュレイは嬉々してロープに捕まり、せっせと登って大穴から脱出した。
「ふぅ.......助かった。またもや助けられてしまった。これも何かの縁だな」
「ま、まあ。冒険者ギルドガイドブックに『困った時はお互い様』と書かれていただけだよ。それにしてもアシュレイはドジすぎないか?」
留置所の中で読んだ冒険者ギルドガイドブック。読んでみたら意外と面白く、有意義に時間を潰せた。悲しい。
「よくみんなに言われる。特に妹」
アシュレイは背中から何やら黒い大筒を取り出すと、手でパンパン叩き始める。どうやら筒の中に入った灰を落としているらしい。
「それはなんだ?」
僕は気になって、黒い大筒に指をさしてアシュレイに聞いてみた。
「これか? ウェルトは見たことないのか。これは重砲だ」
「重砲?」
「中に火薬を詰めて撃ち出す武器だ。破壊力抜群だぞ! .......まぁ、そのせいでこの大穴が出来たんだけどな」
今なんと?
「その重砲でこの大穴を作ったのか?
「恥ずかしながらそうだ! ヒュージスライムを倒そうとして攻撃したら大穴を空けてしまった」
そんな武器をこの狭い地下水路でぶっぱなすなんて、いい度胸してんなぁ.......。
「ヒュージスライムを倒していたと聞いたんだが、まさかアシュレイもこのクエストを受けてきたのか?」
僕はポケットからクエストの依頼書を取り出してアシュレイに見せた。
「ん、違うぞ。私の妹は学者でな。地下水路に異常発生したヒュージスライムの生態を調べていたのだ」
「へー」
アシュレイの妹は学者なのか。
妹の手伝いをするお姉さんなんてめちゃくちゃいいお姉さんだ。
僕は少しだけ、ほんの少しだけアシュレイを見直した。
「そうだウェルト。助けたくれた礼にこれをやろう。地下水路の地図だ。なに、予備はあるから遠慮なく貰ってくれ」
僕はアシュレイから半羊紙に描かれた地下水路の地図を受け取った。
おお、凄い。入り組んでいる地下水路の道が細かく記載されている。
ここまで詳しい地図は見たことない。単に僕が田舎者なだけかもしれないが。
「ありがとう。遠慮なく貰っておくよ」
僕はクエストの依頼書と一緒に地下水路の地図を折りたたんで、ポケットの中にしまい込んだ。
「ところでウェルト、その.......恥ずかしながら少しお願いがあるのだが」
アシュレイはモジモジしながら僕に話しかけた。
「なんだよ。お願いって?」
「私はいつもなら予備の剣を腰に差しているのだが、前に盗賊のせいで無くなってだな。今手元にあるのがこの重砲しかないのだ。そして、私がこの細い通路で重砲を放つと地下水路が崩壊してしまいそうなのだ。だから、」
アシュレイは意を決して僕に言った。
「ヒュージスライムの発生源に当たりはついているので、ウェルトに護衛して貰って付いていきたい」
うん、ただの足手まといだな。
◆◇◆
僕とアシュレイは地下水路を歩いていた。別にアシュレイを置いていっても良かったのだが、なんだか可哀想なので一緒に行動している。
それにこれ以上地下水路に穴を開けられると他の人に迷惑だ。清掃員のおじさんとかな!
「それにしてもヒュージスライムの生態調査なんてアシュレイがやるとは思わなかったよ。で、何かヒュージスライムの異常発生について何か分かったかい?」
僕は歩きながら興味本位でアシュレイに聞いてみた。
「まぁ、大体検討はついている」
「そうなのか?」
「これは妹の予想だがな、ここにいるヒュージスライムはどうやら
「なんだって?」
こいつらは人為的に発生したって事か?
「そもそも、ヒュージスライムは好戦的な魔物ではないのだ。本来は植物や他の魔物の排泄物を食べる自然界の掃除屋に過ぎない。それが食べもしない人間に襲いかかるなんてありえない」
「自然界の掃除屋、ねぇ.......。こいつらはどうやら僕達を掃除しようとしてるけど」
気配感知に反応あり。
僕とアシュレイが話している途中に、汚水の中からヒュージスライム一匹が飛び出してきた。
僕は手に握っていたダガーで飛び出してきたヒュージスライムの核を砕く。
なんかもう慣れてきてしまった。
「それに加えてヒュージスライムは綺麗な水辺を好む魔物だ。こんな汚いドブ水なんかに棲む魔物ではない」
「それにしても、何でヒュージスライムなんか発生させたんだよ。悪戯にしては度を超えてると思うけど」
僕はダガーに付着した粘液を振り払いながら言った。
「そう、そこなのだ」
「ん?」
「妹も、何故ヒュージスライムなんて生み出したのかが分からないと言っていた。何かしらの目的がきっとあるはずだと思うのだが.......お、着いたぞ。ここがヒュージスライムの発生源と思われる場所だ」
アシュレイに案内されて僕達が辿り着いたのは、大きな貯水池らしき物がある広場だった。
「ここは貯水池、と浄水炉が合わさった場所だ。地下水路に流れている水の色を見ただろう」
「くっそ汚かったな」
「それだ。本来は浄水炉が機能してあそこまでは汚くならないはずなのだ。まぁ、いつも茶色く濁ってたけど。ともかく、浄水炉がどうやら機能していなかった事と、ヒュージスライムの異常発生は何かしらの関係性があると私は見たのだ」
アシュレイは中々賢いな。ドジだけど。
「とりあえず気配感知発動。ってうわぁっ!? なんだこの数!?」
気配感知を発動すると、浄水炉の中には数百をも超えるヒュージスライムの大群がいた。
なんだこの数。 最早数え切れないぞ。
「どうやら当たりのようだな。ウェルト、あの中には何体ぐらいヒュージスライムがいるんだ?」
「ざっと二百.......いや三百体ぐらい? それより多いかも」
「ええっ!? そんなにいるのか.......。ま、やるしかないか」
アシュレイは重砲を取り出して構えた。
「手伝ってくれるかウェルト?」
「分かった。行くぞ!」
ぽこぽこと浄水炉から顔を出すヒュージスライムに向かって、僕とアシュレイは駆け出した。
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