1-4 地下水路へ

 更に翌日。


 僕はこの街全員の衛兵さん達と数時間に渡る想像を絶する鬼ごっこをした後捕まり、留置所で寂しい一夜を明かした。


 詰所と留置所で連続で泊まるなんて結構珍しい事だと我ながら思う。


 それにしても、僕の必死の弁明で衛兵さん達の誤解は解けたが、めちゃくちゃ説教された。


 けど宿代が浮いた。やったぜ。


 いやよくねぇよ。ふざけんな。


「昨日のクエストの特別報酬を貰いに来たんだけど」

「ロリ.......ウェルトさんですね。リフィアさんから特別報酬の270ゴールドが届いていますよ」


 お金が無いすっからかんの僕は特別報酬を貰うために冒険者ギルドに来ていた。


 ちなみに留置所から出て冒険者ギルドに向かう途中、街の人々から白い目で見られていた。


 ところで28本作った筈なんだけど。考えてみれば、その内1本はリフィアにぶちまけたからか。


「ロリコ.......ウェルトさんはクエストに失敗しましたが、初めてなので何のペナルティもありませんよ」

「そうか。ところで、またクエストを受けたいんだが、何かお勧めのクエストはあるだろうか?」

「ロ.......はい、でしたら地下水路に異常発生したヒュージスライムの討伐クエストなんかがお勧めですよ」


 受付嬢は僕にクエストの依頼書を渡してきた。


「二日前から地下水路の清掃員が襲われて発行されたクエストです。地下水路に棲むヒュージスライムを15体の討伐がクエストの達成条件ですね。ちなみに、15体以上倒した後も特別報酬が貰えますよ」


 報酬金は100ゴールド。

 15体以上ヒュージスライムを倒したら、ヒュージスライム1体につき5ゴールド貰えるそうだ。


「これにする」

「はい、受注を承認しました。それではロ.......ウェルトさん、頑張ってきてくださいね」


 受付嬢の中でどうやら僕はロリコンだと言うことで定着したらしい。


 僕は引き攣った笑顔を顔に浮かべる受付嬢から見送りを受けると、冒険者ギルドを後にした。


 冒険者ギルドから出て、僕は地下水路を目指して歩き出す。


 しっかし、まだ街に来てから二日目なのだが、もう既に街の人々は僕のことを白い目で見てやがる。


 僕が昨日、リフィアの体を拭いている時に出会った女性の冒険者は情報通で口が軽く、よくない噂を街の人達全員に拡散させる人物だと衛兵さんが教えてくれた。


 そのせいなのか、僕とすれ違う街の人々は僕を避けて歩いていく。


 もしも再び出会ったらとっちめてやりたい。


 あ、すれ違ったそこの主婦が僕から目を逸らした。


 こいつら、僕を本気でロリコンだと思っているのか?

 

 くそったれ! なんて失礼な奴らめ!


 そんなロリコンに認定されてしまった僕はため息を付くと、ギルドカードの所持スキルの項目を見た。


 そこには昨日新しく獲得したとあるスキルが書かれてあった。


 -ロリコン-

 幼女を愛し、護る者に与えられるスキル。状態異常の洗脳、魅力、混乱に絶大な耐性ができる。ただし幼女からの誘惑には勝てなくなる。


 .......なんか朝起きたらなんかギルドカードがピカピカと光っていて、確認してみたらこのスキルが存在していた。


 死体蹴りとはまさにこのことだろう。


「全く.......ざけてやがる」


 僕は手に持っている地下水路の依頼書に書かれてある地図を見ながら歩みを進める。


 なるほど、リフィアの薬草店から右に曲がって道なりに進めば地下水路の入リ口につくんだな.......あ。


「あ。お、お兄ちゃん.......」


 そんな時、買い物袋を片手にぶら下げたリフィアと偶然ばったりと出会ってしまった。


 気まずい。


 なんか気まずい。


 僕は悪くないのに。決してやましいことなんてしていないのに。ただの事故なのに。


 何故かリフィアと会うと罪悪感が胸に広がっていった。


 いや、リフィアと目を合わせないように目を逸らしている場合じゃないだろう、僕!


 ええい。とにかく、昨日の誤解を解かなければいけないんだ!


 そう意気込んだ僕はリフィアに話しかけようと近寄った。


 -スキル『ロリコン』が発動しました-


 頭の奥からアナウンスが響いた。


 なんだ?


 いきなりスキルが発動したぞ。


「お、お兄ちゃん。お兄ちゃんはリフィアの身体を見て興奮しているの。やっぱりお兄ちゃんは変態さんだったの.......?」

「え?」


 リフィアは顔を真っ赤に染めて下を向くと、全速力で僕に背を向けて走り去っていった。


 なんだ、いきなりどうしたんだ。


 僕が一体何をしたというのだ。


 昨日はともかく、今日はまだ話し掛けただけで何もしていないだろう。


 僕は思わず項垂れ.......、


 地面が視界に映った時、僕のズボンを見ると垂直なピラミッドを作っていた。


 僕の息子がビンビンと元気良く反応している。


「ねぇ、あの人よ」

「ほんとねぇ、小さい女の子を見て興奮するなんて、ロリコンなのは本当だったようね」

「リフィアちゃん可哀想.......あんな変態にぬるぬる塗れにされるなんて.......」


 .......最悪だ。 周りの人から更に避けられ、白い目で見られている。


「なんて日だ.......」


 僕は頭を抱えながら、地下水路に向かって、この場から離れるように早足で歩き出した。




◆◇◆




 ちゃぽん、と水が落ちる音がする


 そして暗い。暗くて、ジメジメしている。


 僕は地下水路の中に入っていた。入り組んだ灰色のレンガの道を歩きながら僕は進んでいく。


 すぐ脇には水が流れている。濁った汚いドブ水だが。


「さーて、ヒュージスライムはどこにいるのかな?」


 僕は周囲を感知できるという、昨日獲得した盗賊術の技能、気配感知を発動させた。これで周囲に存在する魔物の居場所が分かるはずだろう。


 ピコンピコンと頭の中に軽快な音が鳴り響く。


 これは、気配感知に反応ありだな。

 場所は.......すぐ側のドブ水の中だ。


「もしかして、この水の中に魔物がいるのか?」


 僕は茶色の水の中を屈んで覗き込む。


 汚く濁りすぎて何も見えないな。衛生管理は大丈夫なんだろうか。


 と、その時!


「うわぁっ!?」


 バシャリと汚水の中から緑色の物体が勢いよく飛び出してきた。


 僕はすかさず横に避けて、緑色の物体の奇襲を躱す。


 緑色のぶよぶよは、地下水路の壁にペちっと湿った音を立ててぶつかり、通路の隅に落っこちた。


「こいつがヒュージスライムか」


 脅威度Fの魔物。ヒュージスライム。


 簡単に見た目を説明すると緑色のぶよぶよだ。ゼラチン状の体の中にコアと呼ばれるスライム種特有の心臓を持っている。核の見た目はとても濃い緑色をしていて、結構丸っこい。


「キュニュゥ!」


 ヒュージスライムは、体をぷるぷると小刻みに震わせ、まるで餌を見つけたぞと言わんばかりに僕に向かって威嚇した。


 なんか.......全然怖くないな。


 僕は腰のベルトからダガーを抜き取り、ヒュージスライムに向けて構えた。


「キュニッ!」


 ヒュージスライムは地下水路の通路を弾力のあるボディで勢いつけ、僕に向かって飛びかかった。


「絶命剣!」


 剣光一閃。僕は狙いを定めてヒュージスライムの核をダガーで砕く。


 スライム種は核を破壊されると絶滅する。言わば核は人間で心臓に相当する器官なのだ。


 ヒュージスライムは空中で原型を保てなくなり、ドロドロと体を崩しながら通路の上へと落ちた。


「悪いな。伊達に村で鍛えていないんだよ」


 僕はダガーを振ってヒュージスライムの粘液を落とすと、腰のベルトに差した。


「さて、ヒュージスライムは汚水の中に潜んでいるのが分かったな。どんどん倒していこう」


 僕は気配感知を再び発動し、ヒュージスライムを探し始めた。



 世界観解説


 脅威度


 魔物の強さを表す。

 F~Sまであり、上にいく程危険な魔物。


 脅威度F

 雑魚。村人でも頑張れば倒せる。


 脅威度E

 魔物と言ったらこれ。冒険者に任せよう。


 脅威度D

 中堅冒険者がやっと倒せる。


 脅威度C

 ベテラン冒険者がやっと倒せる。


 脅威度B

 非常に危険。街や村が壊滅する。Aランクの凄腕冒険者に退治を頼もう。


 脅威度A

 俗に言う災害級に指定された魔物。ひとつの都市が壊滅する。国が動くレベルの非常事態になる。最悪、軍隊が動き出す。


 脅威度S

 神話級の魔物。大陸崩壊の危機に直面する。人類の生存は諦めましょう。



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