208話 黒球

「何という威力……」

「ガッハッハ!!こんなの初めて見るわい!!!ガッハッハ!!」


 吹き荒れる花びらの風はセアやトレイン、それこそセナをも巻き込む程だったが、ルナはそれすらも完璧にコントロールしており、シャーロット付近に属性によって作った花びらを、外回りをシャーロットが寝かした、ただの花びらや元からあった草木で回転する力をつけて渦を回していたので、多少の傷はあるがセアやトレインには傷は殆ど無かった。

 さらに、セナはセアやトレインよりも近くにいたのでルナは桜蘭属性魔法<花壁/フロウォール>を発動し、傷つかないよう完璧に守っていた。


「これでは、ルナを助けられないですわ……」


 セアは、何とか目を細めルナを探すが全く見つからない。それどころか、まだ花びらが増えているという始末。この属性の恐ろしさを二人は間近で感じ、それと同時にルナに脅威すら覚えるほどだった。


 だが、長く続くと思われたルナの桜蘭属性による攻撃は一気に衰えて行く。

 衰えるというよりは、燃えているというのが正解だ。


「あれはっ!!」


 ルナを探していた、セアはルナよりも先にシャーロットの方を見つける。

 その姿はルナの花びらを全身に受け、全身傷だらけの血だらけで重症としか考えられない程の傷なのにも関わらず、笑っていたのだ。

 そして、そのシャーロットの周囲は業火に包まれており、花びらは真っ黒に焼け焦げ、そのすぐ近くにルナが倒れているのを見つける。


「トレイン……」

「ガッハッハ!こりゃまずいな……」


 あれだけの攻撃で、しかもその攻撃を己の体に直撃させているのにも関わらず、まだ立っていたのだ、セアもトレインも苦笑いしか出ないのも無理もなかった。


「ルナと言ったか……誇るが良い私にこの属性達を使わせたことにな」


 シャーロットは基本どんな属性でもその属性攻撃を受けさえすれば使う事が出来る。さらに、それを十個保存する事が出来る。

 基本シャーロットは上から六つを変えてもいい属性、その次二つを緊急用の空き、そして、最後の二つの場所をシャーロットお気に入り属性をしまってあり、セナの睡蓮属性を緊急用の空き枠に入れている。

 一番使いこなし、練度が高いその二つの属性はあのハル・クロ二クスですら相手に出来るかどうか分からない程の力を兼ね添えた属性になっている。因みに、ハルの属性も一度はシャーロットも保存していたが、保存しているだけでも天恵を使うという燃費の悪さと魔法やスキルを発動するだけで他の属性が使えなくなるほどの天恵消費量から諦めていた。


 そして今、シャーロットは二つの内一つ、’燎原之火(りょうげんのひ)’属性を発動した。


 シャーロットの体は全身真っ赤に燃え上がり、さらにそこへ超聖練癒属性魔法<上・損傷修繕/リリロード>を発動し、体の傷を修復してしまう。

 ポーションよりも効果が強く、体は戦闘前までの状態に戻っていた。

 だが、それでも内部的なダメージや痛みなどの後味などは完全には直せず、荒療治としかならない。だが、表面が綺麗に治るだけでも相手への心理的ダメージは絶大であり、相当な効果がある事をシャーロットは何度も実証済みだった。


「さあ、次はどっちが来るのじゃ?それとも二人か?」


 シャーロットの後ろでは教師が気絶している二人を回収しており、セアとトレインは追い込まれていた。

 ここまでずっと四人で戦ってきて、セアとトレインの二人は背中が任せられるあの’姉妹’がいるのは相当安心感があったんだといなくなってようやく実感する。


「それじゃあ、僕がやらせてもらおうかな」


 三人の視線は一人の人物に集中する。

 その声の主は、ゆっくりと森の木陰から姿を現しセアとトレインは男が着ているユニフォームを見て安心する。


「ほぅ……これはこれは」

「初めましてかな?僕はハヤト・ゾルデ。一応白聖クラスの一年生なんで手加減してね先輩」

「名前は知っておる、何せ帝国の公爵家じゃからな。しかし、お主の名前はあまり聞いた事がないのー」

「まあ、僕はあまり目立つのが好きではないので」


 ハヤトは適当に言葉を並べてシャーロットの事を探る。それに、ハヤトは世間を上手く渡り歩き、あまり力を出しすぎないようセーブし目立たないようにしてきたのもまた事実。

 だが、今回この学園に入学し、アキトという同族を見つけた事で相談や協力を持ちかけられるようになったので少しずつハヤトも解禁して行くつもりだった。


「そうか……私はレイ・クラウド学園のシャーロット・バイクじゃ。よろしくのー」

「はい、短い間だとは思いますがよろしくお願いいたしますね」

「言うのぉ……お主」


 ハヤトはわざと挑発し、シャーロットの気を自分に向けさせる。

 ハヤトはダンジョンを抜けてきたと言っても、殆ど相手が魔物だったのもあって疲れ的にはセアとトレインとは全く違った。


 むしろ、まだ物足りないくらいだったーー


「そう言う口の聞き方をする奴は幾度となく見てきたが、大概大した事ないからの〜せいぜい私を楽しませるのじゃぞっ!!」


 シャーロットは軽く構え、ルナと戦っていた時と同様に超静雷獣属性魔法<電光石火/ギルガラッシュ>を発動し、体に雷を走らせる。

 ハヤト達二人の周囲には雷が走り、全身を静電気が覆うほどの力を誇っていた。


「へぇ……いい属性じゃないか……」

「行くぞっ!!」

「……レイ・クラウド学園の最高戦力のお手並み拝見と行きますか」


 ハヤトは、小さくシャーロットに聞かれないほどの声で言い、それを合図にシャーロットが足を踏み込み前に出ようとしたその時だったーー


「いたぁああああああいぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!」


 とてつもなくデカイ声がハヤト達のいる森の中を抜けて行く。その音量は通って行くだけで地面を軋ませ、草木を破壊し、さらにこのフィールドの空間にいくつもの亀裂を入れて行く。

 その声に、意表をつかれシャーロットとハヤトは戦闘を一時中断し、その声が聞こえた方向を見るがかなり距離があるのかその声の主を眼中に捉える事は出来なかった。


「一体これは……」

「ふーむ……」


 ハヤトとシャーロットがどうするか考えていると、突如、四人が立っている場所に半径一メートル程の黒い球体がいくつも出現する。

 そしてそれと同時期、この四人がいる場所だけでなく、今いるフィールド全ての場所至る所に黒い球体が出現していた。


 

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