209話 攻守兼用

 その黒い球は宙に浮いており、不規則に動いていた。

 触ったら何か起きそうだと感じたセアとトレインは触らないよう少し様子を見ることにしたが、シャーロットとハヤトの二人はそんな物があろうと眼中になく戦闘を続行していた。


「全く、せっかくいいタイミングで始められたのに台無しじゃな」

「本当ですね」


 台無しと口にはしたが、正直シャーロットとしては遮ってくれてありがたかったと思うほどハヤトの実力は底しれなかった。

 ここまで戦ってきたヴェルダや他の学園の三年と比べても倍近く実力差があると肌で感じ、そうシャーロットの本能も訴えかけてくるのでほぼ間違いないとシャーロットは思うのと同時に高揚感が登り上がって来る。


「お主……学生の範疇じゃ無いのー」

「あなたこそ、その属性は重課金しなければ到達出来ない属性……」

「じゅう?」

「ごほんっいえ、何でもありません」


 小声で言ったつもりのハヤトは、まさか聞こえているとは思っておらず少し誤魔化すように咳払いをしながら話をそらす。


「では、再開と行くかの」

「はい、」


 ハヤトは、シャーロットの属性を見て少し本気を出しても大丈夫な相手だと分かり、嬉しかった。

 アキトと戦ってみたかったがレベルがレベルだったのもあり結局先延ばしになってしまっている。今回の魔導修練祭では、少しくらい出来ると思ったがダンジョンへ飛ばされほぼ魔物退治となり、しっかり戦えた時がほぼ無かった。


 そんな中、ダンジョンを抜けた場所近くで属性を感知したハヤトは戦っているシャーロットの実力を見て確信した。


 「やっとちゃんとやれる」とハヤトは嬉しみにかられ、シャーロットの一撃目の攻撃を見逃してしまう。


「あっ!」

「流石に気抜きすぎじゃぞっ!!」

「うgぅtっ!!」


 その速度はハヤトが見ていた時とは違いさらに速くなっており、簡単に後ろに回り込まれ、顔に蹴りを入れられてしまう。

 属性でのガードがギリギリ間に合わず、ほぼノーガード状態で攻撃を受け、そのまま力の向きに従いハヤトは吹き飛ばされる。

 顔を抑えながら、しまったとハヤトは反省しつつ、片手を地面につけ勢いを殺し、すぐさまシャーロットの方へ向き直る。


「意外と痺れるな……これ」


 シャーロットの一撃は相当な重さがあり、さらに全身痺れるという副効果まで特典として付いて来るのでくらうんじゃ無かったと再度後悔する。


「私の蹴りを直撃させてその程度とは」

「まあ、常に微量回復系の属性を発動させてるからね」


 パッシブスキル中位無効化もあるが、シャーロットの纏っている雷は超属性で構成されているものなのでもろに受け付けてしまうのであまり意味が無い。

 今回これだけのダメージで済んだのは単純なレベルによる素の防御力だった。


「ふざけておるな……こんなやつがまだいたとは面白いっ!!」


 シャーロットもハヤト同様少し相手を殺さないよう抑えていた分を解放しているので、意図してはいないが無意識的に相手に自分の力をぶつけてもいいと考えているのだ。

 再び、一瞬でハヤトの目の前まで接近したシャーロットは超静雷獣属性魔法<電光石火/ギルガラッシュ>を纏とわせた右手拳をハヤトに振り抜く。


「やっぱり速い……でももう油断しないよ」


 そのシャーロットの拳に向けハヤトも自分の拳を合わせ、避けるのではなく迎え撃つ。そして、拳と拳を合わせる瞬間、アキトとの戦いでも使った超天気魔法<高速の梅雨前線/ベインフロント>を発動する。

 拳がぶつかり合う異音とセアとトレインに聞こえるほどの衝撃が辺りに響き渡る中、空に雲が層をなし雨を降らす。


 かなり勢いのある雨粒が四人を襲い、さらにシャーロットには上空からいくつもの水の柱が落ちて来る。


「水属性……くっ!!」


 即座に、ハヤトから距離を取りながらその水の柱を避ける。とてつもない速度を誇るシャーロットなので避けるのは容易い。

 だが、そんなことはハヤトには分かっていたことで、避けられるのも大前提。 そして、避けることに集中させて、シャーロットの動きの幅を狭めることによりハヤトの次の攻撃が当たりやすくなる。


 一撃一撃、水の柱が地面を叩くので地面を揺らし、砕き、割き、破壊する。

 そんな中今度はハヤトから攻撃を開始する。


 勿論、この中攻撃される事はシャーロット自身も想定内なのでどう動くか考えるが、ハヤトの放った土属性魔法<地理凸凹/ソイルボウル>によって走る地面すらも動きにくくなる。


 さらにシャーロットの動きを止めた所で、ハヤトは上から時代級天気属性スキル<超塊解氷/ビルグレイン>を発動する。

 ある一定範囲を全てを覆えるほどの大きさの巨大な氷塊が真っ黒な曇天から突如姿を現す。

 そして、それが降って来る訳ではなく徐々に巨大な氷塊が上空で溶け始め水となり、その水がシャーロット周辺全てを覆い尽くすように降って来る。


「やはり、私の勘は当たるのぉ……」

「これぐらい防いでくれよ」


 曇天で暗かった中、さらに氷塊の影で地面の黒い影を濃く塗り潰している中、シャーロットは上から降り注ぐ巨大な水の塊を目の当たりにする。


「じゃが……どう防ぐか」


 ここまで大きくまとまった水を目にする事が無いのでシャーロットは一瞬困惑するが、それはただ、初めて見る時代級属性スキルだったのでシャーロットの興味の方が上を行ったからだ。

 十分目を肥やし、脳に記憶した後、シャーロットも上空に向け両手を突き出し、時代級燎原之火属性スキル<焔獄滅殺/プリズベル>を発動する。


 シャーロットを中心にした場所の地面から炎が吹き出しハヤトの放った水の塊とぶつかり合う。

 超高温のシャーロットのスキルはハヤトの放ったスキルの水を蒸発させ徐々にその威力を殺して行く。それでも全てが蒸発される訳では無い。蒸発されなかった水は高温に熱された熱湯が辺りに飛び散り草木、地面を茹でて行く。


「全く……うまくやりよる」


 シャーロットは今いる場所を見て笑う。しっかりとハヤトの放った魔法でセアとトレインと離され十分な位置に来た瞬間大技をぶちかます。

 その用意周到さが出来るほどハヤトにはまだ心の余裕があると分かるとシャーロットでも笑うしかなかった。

 百度以上に熱された熱湯がシャーロットの体に降り注ぎ全身大火傷を負うが、全て超聖練癒属性魔法<上・損傷修繕/リリロード>で治して行く。


 水蒸気で辺り一帯は真っ白になり、さらに水浸し、地面は凹凸だらけ、焦げた草木や熱された地面等もうぐちゃぐちゃになっている頃、セアとトレインに一人の教師がやって来ていた。

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