202話 終わらぬ戦い
リゼラは目の前に起きている光景が一瞬理解できず、思考が停止する。
すぐにでもその現状を確認したかったが、体が全くといって動かない、さらに、リゼラと同様にハルの目の前にも教師の頭が転がっていた。
ーーたった一撃で、学園の教師を二人も屠っていったのだ。
リゼラは元凶を探るために周囲に全神経を集中させるが、そんな事をせずともその元凶は隠れもせず近くにいたのですぐに探し当てることが出来た。
そこにいたのはズ・バイト学園に所属する学生でリゼラ、ハルと同じ学年の白聖クラス、ゲルト・ムールだ。
リゼラ、ハルとは顔見知りというほどではないが、相手としてしっかりと実力を持った一人でもあったがそう見えないのが特徴で、周りの学生からは白聖だとは思われないほどだった。
ゲルトは似非笑い、ふらふらと足取り悪くゆらゆら体を揺らしながらリゼラとハルの二人を見ていた。
去年も出場していたがしっかりとした気さくな人柄で、こんな殺しをわざわざする程追い詰められているような人物でもなかったとリゼラは考えるが、その前に他の教師達が到着する。
教師達には魔導修練祭のルール違反があればすぐに知らせが行くようになっており、その違反レベルによって光る鈴のようなアイテムを持たされており、今は真っ赤に光っている。
ーー赤色の違反レベルは最悪、これを意味するものは一つしかない……殺しだ。
「な、何だこれは……」
「嘘だろ……おい……」
「まじかよ」
「ゲルト……」
三人の教師がこの惨状を見て一瞬怯むが一人、ズ・バイト学園の教師、アシュタームがゲルトの事を睨みつける。
「先生じゃないぇすぅかぁ!!あひぁうっはっはっはっは!!」
「お前はこんなやつじゃなかったはずだ……」
「ぼぉおおくはぁぁあ手に入れたんすよ……あっあ……あっ!!」
ゲルトは会話が全くままならない上に明らかに常人ではなくなっていた。
「他の先生方は、二人をお願いします。僕はゲルトを!」
「私も、お手伝いを」
「いえ!私が一人でやらせていただきます」
「わ、分かりました……」
一人の女性教師がアシュタームを助力しようとするが、それを良しとしなかった。
ここは二手に別れた方が効率は良いが、アシュタームには同じ学園という責任があり他の先生方に迷惑をかけたくなかった。
それともう一つ……
二人の教師を一瞬にして屠った事実を見て、アシュタームは何か嫌な予感がしたので考えるよりも先に口が動いてしまったのもあったのだ。
「リゼラ・ファルセとハル・クロ二クス、二人を運んだら増援を頼みます」
「分かりましたぁ」
「ーーなっ!!」
アシュタームが三人の先生達の方に顔を向けたその刹那ーー
そこにはもう顔のある人間は立っていなかった。
ゲルトは、アシュタームの反応を超える速度で動き一瞬で三人の教師を屠ったのだ。他二人と同じように顔だけもぎ取るという一番手っ取り早い方法で。
「いっただきまぁしぃたぁああああはっはっは!!」
「この一瞬で……くっ!!」
アシュタームはその一瞬で様々な事を頭の中にはりめぐらせるが、その頭はもうすでに自分のものでは無くなっていた……
ちぎられた部分からは大量に血液が噴出し、この辺りを血の海にする。
その様子を見ていたリゼラとハルは何とか動こうと試行錯誤していたが殺されるという恐怖も合間って全くといって体は微動だにしない。
「くそっ!!」
「リゼラも体は動かないようだね」
ハルは諦めたように何か抵抗する事も無くただただ寝そべっていた。
「こぉわぁい〜?」
その様子を上からゲルトが笑いながら覗き込む。その笑顔に人の温かみというのは皆無で、物凄く無機質なものだった。
生き生きとした人間はすぐに殺し、死にかけの人間は弄ぶ。典型的な魔物の動きであり、そこにはもうゲルト本人の意識は存在していなかった。
「しゃぁべぇんなぁい〜」
「ハルっ!!がはっ!」
喋るリゼラに腹を立てゲルトはリゼラを軽く蹴り飛ばす。そして、楽しむようにハルの首元へゆっくりとねっとりとゲルトは手を持って行く。
死に行く恐怖を最後まで味わせる為にわざとやっていた。だが、そんな事に全く動じる様子がないハルは目を瞑りただただその場に寝そべっていた。もう、力尽きて気絶してしまったのか将又期を狙っているのかはリゼラには分からなかったが、それをただ見ているしか出来ない自分に腹が立って仕方なかった。
首元に手を触れさせるとゲルトはゆっくりと指を一本々首の形に折り曲げて行く。
そして、力をじわじわと入れ始める。
「つぅまぁんなぁあいぃ」
だが、未だ全く動じないハルを見てゲルトは少し目を細め、呟く。
「もういぃやぁ」
ゲルトは、反応のないハルに飽き首をそのまま握力で握りつぶそうとした時だったーー
「あ、」
何か言おうとしたゲルトへ遠くから放たれたとてつもない風を帯びた矢がゲルトの頭を貫通する。
そのまま、ハルの上から吹き飛ばされ、ゲルトはそのまま受け身を取るわけでも無く、ただただその勢いに任せて地面を滑っていた。
「大丈夫かの!!」
「リゼラさん!!」
そこへ直ぐにかけつけたシロネとエーフが二人の安否を確認する。
「済まないな助かった」
「ありがとうね」
リゼラとハルは、ゲルトを見つける際にシロネ達三人も見つけており、何とか、ゲルトが油断するのを待っていたのだ。
シロネとエーフはゆっくりと二人を起こすが傷の具合がシロネが思っていたよりも酷く、喋っていられるのがおかしいぐらいだった。
「どうするの!シロネちゃん!!」
焦った口調でエーフはシロネに強く問いかける。
エーフはここまでの一部始終を見ていたので焦るのは無理もなかった。
「ーーくっ!」
だが、シロネもここからどうすれば良いのかはっきり言って何も思い浮かんでいなかった。影属性で移動させるには二人が深手すぎるし、逃げると言ってもあの尋常ではないゲルトの速度を見ているのではっきり言って望み薄だった。
「大丈夫だったシロネ」
「ユイちゃん!」
ユイも到着し、それを見たシロネは決断する。
「わしが、ここを引き受ける。その内にこの二人を背負って逃げるのじゃ」
「待て、」
「「嫌だ!!」」
シロネがそう言うとリゼラが口を挟もうとするがさらにその間を割ってユイとエーフは強く言う。
「何を言っておる!お主らも見ておったじゃろ!」
「だからだよ!!三人でやったら勝てる!!」
「今回はエーフに同意!」
ユイとエーフはそう強くシロネに言うが、シロネはあのゲルトの動きを見ただけで分かっていた、あれは自分と同じ匂いがすると……そして、それと同時にシロネが本気を出さなければ倒せない相手でもあると。
「ダメじゃ!!」
だからこそ今回は二人に譲るわけにはいかなかった。
「僕もリゼラとその二人に同意だね……どうせ、僕らという荷物がいる限りあいつには勝てない。なら、ここで腹を括って倒すしかない」
息を切らしながらハルは無理やり喋る。
リゼラが言いたかった事を全て代弁してくたのだ。
「じゃが、」
「「大丈夫!!」」
エーフとユイがシロネに言った瞬間ーー
「いたぁああああああいぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!」
とてつもない大声でゲルトが叫び始める。
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