194話 熱する

「いいや、第三ラウンドだね!!」


 バルトは吹き飛ばされたリアルの方へ一瞬で近づき、拳を突き出し構える。

 超太陽属性魔法<超太陽/トマト>を発動する。

 手で握れ切れないくらいの小さな太陽がバルトの拳の前に現れ、それをもう片方の手を横に振り抜き突き出した手とその太陽を潰すように挟み込む。

 まるで本当にトマトを押し潰したかのように破裂し、ダラダラと中身が垂れ落ち、血のような色の液体が重力に逆らってバルトの体にまとわり付いていく。

 その液体はバルトの全身を駆け巡り、線のようになり定着する。


「へぇ……似てるな俺と……」

「そりゃ、同じ系統の属性だからな!!」

「はぁ……頭は似なくて良かったよっ!!!!」


 リアルの足元に雷が走ったとバルトが思った瞬間ーー

 もう既にリアルは、バルトの上空まで移動していた。

 上空から両腕を振り上げた状態から下に振り下ろすと巨大な噴煙がバルトの方へ落下していく。

 雷の音と噴煙の轟音でバルトはすぐに上だと気づくが、その攻撃の範囲がデカすぎて、避け切れない。

 だが、バルトはどんな攻撃が来ようと避ける気など微塵もなかった。


「試すにはちょうどいいか……」

「バルト!!」


 バルトは上を向きながら何かしら抵抗するわけでも無く、そのまま噴煙の中へ飲まれていく。

 だが、リアルはその様子を訝しむように見ていた。

 噴煙は地面に触れると、雷を走らせながら地面を溶かして行く。

 周りに漂っていた粒子や不純物を纏わせているので噴煙だけでは起こりえない渦を作り、周囲は噴煙により視界が悪くなり、触れるだけでも超高温で火傷し骨をも溶かす程……火属性を扱わない人間はまず近づけないフィールドと化していた。

 なのでアギトは近づけなかった……その中へ、リアルはゆっくりと降りて行く。


 地面に足を付け、前を向いた時、リアルは真っ赤な光を捉える。そして、それが直ぐにバルトだと分かった。


「見えてんのか……」

「そうだ!」


 バルトの体に定着した線が真っ赤に燃え上がり、マグマのようなドロドロとした物がその線に沿って体を対流している。

 この視界が悪い噴煙の中ですらはっきりと視認出来る程の光を放っており、同時に存在感も増していた。


「まじかよっ!!他の火属性のやつに試した事はあったが、直ぐにこの噴煙に耐えられなかったり、俺を視認出来なかったりあんま練習になるやつが居なかったからな」

「はっ!こんなもん何ともねぇよ!!」


 バルトは、左足を後ろに引き右足の膝を軽く曲げ両手を前に構える。

 超太陽属性魔法<超太陽/トマト>は、バルトの体に小さな太陽を付与させ、あらゆる超属性以下の効果を無効にする。さらに、全ての攻撃に超太陽属性魔法<超太陽/トマト>の効果が付与され、威力が通常の何倍にも膨れ上がる。攻守どちらにも優れた太陽属性特有の魔法だ。

 そしてこれに良く似たのが、リアルの魔法超噴煙属性魔法<噴煙体電粒子/ヴォルケーノチャージ>だ。

 これもバルトの魔法同様に攻守に優れており、噴煙を纏う事によって一時的に雷属性の速度も手に入れる事になるので、俊敏性も増す。


「いいねぇ!!行くぜっ!!」


 先にリアルが雷を迸らせながら動き出すと、それに合わせてバルトも動き出す。


「だっしゃぁああああ!!!」

「はぁあああああああ!!!」


 お互いに背後を取ったり、フェイントだったりと小賢しい事はせず、ただただ真正面でぶつかり合うように拳を振りかざす。バルトは左手、リアルは右手を互いにまっすぐに振りかざし、拳同士がぶつかり合うとバルトの腕は激しく燃え盛り、周囲にあった噴煙を吹き飛ばす。

 その衝撃は地面や空間を伝い、二人を中心にあらゆる物体を破壊して行く。

 噴煙属性と太陽属性のぶつかり合いは、お互いにお互いを巻き込み威力が衰える事がなく、全てを高温で焼き溶かすという現象を目の当たりにしたアギトは二人から距離を取るしかなかった。

 本来なら火属性を扱わない人間がこの場にいるだけでも肌が焼け焦げるような温度だが、アギトも昔火属性を使っていた名残もあり、少し距離を取れば何とかなっていた。


 だが、これも何分も持つ訳ではない。


「こんくらいじゃビクともしねぇか!」

「うおぉりゃあああああ!!!」


 拳をぶつけあった衝撃でお互い拳同士の重なりが少しずれる。

 その瞬間ーーバルトはそのずれを使い拳を外し、足腰に目一杯力を入れリアルの腕の側面に拳を滑らせながら前に行く力を利用し、勢いを殺さずに真正面まで到達する。

 そのまま、何の躊躇もなく拳をリアルの顔面に鋭く突き殺すように腕を振るう。

 その鋭さの精度は一介の学生が繰り出すようなレベルではなかった。


「……ぁあ最高じゃねぇかよぉおおおお!!!!!!」


 その拳をリアルは冷静に舌を出しながら首を傾けるだけでかわす。その鋭さが災いし、バルトは拳を逆に避けやすくしてしまったのだ。

 だが、リアルは拳を完全に避け切った訳ではなく、少し頬をかすってはいた。

 そして、最接近しているバルトの腹元に手の平を合わせ、噴煙属性スキル<爆煙風/ボム>を発動する。リアルの手のひらに小さな反時計回りの風の流れができ、その手のひらをバルトの腹元にそっとつける。


「ーーっぅぐ!!」


 バルトは逆方向へ腹を風圧に抉られながら吹き飛ばされる。


「惜しいねぇ!!!!」


 リアルは吹き飛んだバルトを追おうと足に力を入れた瞬間ーー


「はっ?」


 バルトとは逆方向へと吹き飛ばされていた。さらに、リアルの片頬には青あざが出来ており、口の中は大量に出血し血の味しかしなかった。

 両者同じ程度吹き飛ばされ、背を向け真っ赤に溶けた地面を滑る。そして、バルトとリアルはその勢いを使い受け身を取りながら起き上がる。


 そして二人は一斉に目を合わせる。

 さっきとは違って噴煙は吹き飛び、温度も肌が溶ける程度しかない。再び両者は向かい合うが、拳をぶつけたバルトは左手、リアルは右手からは血がダラダラと滴り落ちており、肉が裂け骨まで見えている。

 その傷をバルトの手はアギトの助長補短属性魔法<治癒力向上/フルリカバリー>が回復して行くが骨に肉をかぶせる所までしか治療出来ず、血はダラダラと垂れている状態だった。


 

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