195話 ぶつかってはいけないもの……

 リアルとバルトはお互い、手の痛みなど感じておらず、突如吹き飛ばされたリアルもポーションを使う事を忘れている程だった。


「やっぱ魔導修練祭はこれだからおもしれぇ!!!」

「こっちこそ……はぁあ!!」


 リアルとバルトはお互いに殴り合う。一発々、衝撃波が辺りに吹き荒れ、溶かした地面をさらに砕いて行く。

 せめぎ合い、魔法やスキルは使わずただただ己の肉体を使い攻撃をしており、何かを避けるという事はせず互いに、攻撃には攻撃を合わせるという荒技……というよりもむしろ喧嘩に近い攻防だった。

 アギトもどこかで参戦するつもりだったが、ここまでバルトがやるとは思っていなかったので、ただただ傍観する側になってしまっていた。

 そう、自分の魔法やスキルを付与する事は出来るが、その戦い毎に雰囲気があり、今は参戦しないという事がベストであるとアギトは考えている。

 だからと言って何もしない訳ではなく、いつでも属性を使えるよう準備はしているし、常に戦況を観察している。


「くっそ……」


 それでも、例えどんなに強いサポート能力を得ようとも一緒に戦ってやれないという不甲斐なさがアギトを襲い、自然と力が入り過ぎてしまう。

 アギトの属性は他人には付与する事が可能だが、自分への付加は一切する事が出来ない。そのデメリットを解消するべく一度アギトは特訓もしてみたが、リゼラに「一が二になるより五が十になる方が強い」と遠回しにやめろと言われ諦めていた。

 それからは、ずっと他人に付与する事だけを考え、ここまできた。


 リアルは右に軽く目配せし、左からノールックで拳をまっすぐ突き出す。そのフェイントは初めてでバルトは反応が遅れるが、自分から体を寄せる事により、肘を曲げた状態の拳を受けるだけなのでそこまでの威力は無い状態で受ける事が可能になる。

 それでも普通の人からしたら相当な重さの拳だが、今のリアルとバルトにとっては普通のパンチとしてしか認識されない。

 その拳を受け少し体の軸がブレたリアルを見て、バルトは即座に右膝を真上に突き出しリアルの顎を狙う。


「はぁああ!!!」

「ーーちっ!!」


 避けられないと悟ったリアルは頭を下げ、顎ではなく額にぶつけ出来るだけ早めに抑え込む事でダメージを殺す。額と膝がぶつかり合う事で辺りに鈍い重低音を響かせる。


「痺れるねえぇええ!!!」

「ぅぐぇっ!!ぅうぇりゃあ!!」


 すぐさまリアルは手を伸ばしバルトの首元を掴む。

 そのまま、噴煙属性スキル<爆煙風/ボム>を発動しようとするが、バルトは伸ばしたリアルの腕を支えに使い右足を蹴り上げる。リアルはそ蹴りを避けるためバルトから手を放し、一旦距離を取る。


「あっぶねぇええ!!」

「ちぇっ!当たると思ったんだけどなぁ……」


 バルトは髪をかきながら少し不満そうにリアルの方を見る。

 その余裕そうなバルトを見て、さらに一段階ギアを上げ、不敵に笑う。


「やっぱ、殴り合いも良いが魔導修練祭なんだ派手にやんなきゃだよなぁあああ!!!!」


 リアルは大きく両腕を広げそのまま振り下ろし地面に突き刺す。そして、地面の中で拳を手を握りしめるように力を入れ、その状態で、時代級噴煙属性魔法<爆・大地噴流/リ・エンゲル>を放つ。


「すっげぇ……」


 その魔法の大きさにバルトは思わず感嘆を漏らしてしまう。

 地面が大きく唸り、まるで生き物のようにリアルの足元からめくれ上がり、地面の中から巨大な噴煙の塊がめくれ上がった地面を食い散らかし、巨大な津波のような形になる。

 そして、リアルは何か大きな声で叫んでいたがバルトにはその声は届いていなかった。


「こりゃ、次なんて考えてられねぇな……」


 バルトは、リアルの次ハル・クロ二クスも見据えて戦っていたが、この魔法を止めるには己の全てを使わなければ勝てないと悟る。


「よっしゃ!!行くぜ!!かーーーいーーーじょーーーー!!」


 大きな声で叫び、焼け焦げたユニフォームを脱ぎ捨て自分への負荷を無くす、一息つきながら前から来る魔法を見る。

 魔法がバルトの元へたどり着くまで約十秒……


「はぁあああああああ!!!!」


 両手の平を思いっきり握り締めながら力を入れ、歯を食いしばり、左足を弧を描くように下げ、左腕を引く。

 そして、迫るリアルの魔法に向け、思いっきり引いた腕を掌を開きながら突き出し、時代級太陽属性魔法<紅炎風/プロミネンス>を発動する。


 突如として地面とバルト周囲の空間から巨大な電磁波を纏った炎が吹き荒れ、リアルの時代級噴煙属性魔法<爆・大地噴流/リ・エンゲル>にぶつかり合う。

 バルトの放った炎はリアルの放った魔法が乗せた不純物と’辺りの光’を吸収し、ここ一帯を暗くするのと同時にバルトの放った炎も光を失い真っ黒に視覚上映る。

 そして、残った純性の噴煙の波とバルトの炎の波がぶつかり合い、周囲に巨大な属性の大波が押し寄せ、飲み込んで行く。


 威力は互角で少しの停滞を置いてから一気に属性を乗せた衝撃が波を伝い、それと同時にぶつかり合っている間は爆発を何個も発生させストレスを溜めていき最後に噴煙も炎の波をも巻き込んだ巨大な爆発を起こす。


 その威力は周囲一キロメートルを覆い尽くすレベルのものでバルトもリアルもアギトもハルもリゼラも全員巻き込まれる。

 勿論、一番ダメージを受けるのはバルトとリアルの二人、リゼラやハルは少しの魔法で防げるレベルであるが、五百メートル以上離れていてその威力である。


 アギトも全力でその場を脱出しなければならないほど二人がいたフィールドは見るも無残な形になり、高温に熱された岩や、砂、雷を纏ったものや電磁波を纏ったものなど様々な物体が飛び交い、暴風や地鳴りなど様々な自然現象を引き起こし、さらにそれが連鎖を産み、雲を引き寄せ、空からは雨が振りはじめ上空でも雷が唸るようになる。


ーーそして、二つの魔法が治るまで約一時間かかった。

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