172話 地形変更

「よぉ……ただいまだな!」

「あんたが出血するとこなんて久しぶりに見たよ……はい、話終了」

「感想かよ……クソが」


 軽々とリアルは立ち上がると、口元を拭う。

 すると、白いユニフォームの袖に自分の血がついているのが見える。


「だが確かに、久々にいいパンチ貰ったぜ」


 リゼラ・ファルセとアンナ・カートレット、アカメ・ベーカリーはまだ戦闘を開始しておらず、帰ってきたリアルを見て驚いていた。

 正直な所、リゼラとアンナはベースがこうなって帰ってくると思っていた、逆にアカメはリアルがこうなってくるとは思ってもいなかったのでその衝撃が驚きに繋がっていた。


「会長、アンナ大丈夫ですか?」

「こっちはまだ始めてなかったから大丈夫だ。それよりもお前の方が心配だが」

「これまでの戦歴アルバムが更新され、しかもいきなりトップに躍り出たので驚きです」


 ベース・パルクはまだまだ息を切らすこともなく、状態的にも大丈夫だとリゼラは判断する。

 そしてその瞬間、挨拶(ウォーミングアップ)が終わり、本戦へと移り変わる。


「来るぞ!」

「ベースお前は俺だ!!」

「当然ですね!」

「はあ!!」


 リアルはベースへ突っ込み、手前に来た瞬間地面の凹みに足を掛け蹴り上げる。

 蹴り上げられた地面はバス三台分の大きさがあり、ベースは上空へその地面と一緒に打ち上げられる。


「くっ!」


 体勢を崩し、ベースは下に戻るタイミングが一瞬遅れ、その判断の誤差の数秒だけでリアルは上空にいたベースの後ろに回っていた。


「俺もこう見えて速いんだよ」


 リアルは後ろでボソッと呟くと、そのままベースの背中に向けて蹴りを入れる。

 足の裏で下に押しやるように蹴り飛ばしたのでそれほどダメージはないがベースはかなりの勢いで地面に落ちる。


 風を切り、ベースは足をうまく曲げ、両手を地面に触れさせ上手いこと着地しその勢いで地面が凹む。

 そして、ベースは上空にいるリアルを睨み上げる。


「さあ!逃げろよお前ら!!超噴煙属性魔法<激流溶岩/トレントリーバー>」


 上空に浮かんだ地面の上でリアルは両腕を上げ魔法を発動すると、その手のひらから灰色の噴煙が吹き出し、まるで火山が噴火したかのような規模の威力のものがこの辺り一帯に向け降って来る。

 噴煙の中には熔岩や砕けた岩石や灰などが含まれており、噴煙が下に落ちて来るという属性ならではの珍事が起こっている。


 この規模だと、この辺り一帯は全て飲み込まれるのは免れない。


「ちょっと!リアル!私いるんだけど!!」


 同じ学園のアカメはリアルに抗議するように訴えかけるがその声は届かない。


「アンナ、俺の後ろにいろ」

「は、はい」


 流石に、この威力の魔法はリゼラでも近くにいてもらわないと守れない。

 そして、一番近くで見ているベースは、降り注ぐ噴煙を躱すことが出来ないと踏んだのか立ち止まり上をじっと見つめている。


「一発目からこの威力とは……まったく出し惜しみが出来ないではないですか」


 噴煙でリアルの姿は消え、空も濃い雲がかかったようになり辺りは暗くなる。噴煙が出す粉塵で、目を開くのもうんざりするほどになり、噴煙本体が来る前でも相当の熱がやってきてこの場所の気温を二〜四度ほど上げる。


 ベースはこの魔法を抑えられるかという緊張感と気温上昇も合間って、額にびっしりと汗をかく。


「さて、どこまで抑えられるか……超雲泥属性魔法<山椒雲/ペルパクラウド>」


 右手拳を噴煙の方へ突き出し、ベースの四方八方から巨大な雲が出現する。

 このベースが発動した魔法の雲はただの雲ではなく、真っ白な泥を含んでいる。

 そのせいで非常に比重が重く、どろっとした雲になっている。

 普通の泥よりも粘り気が強く一度掴んだらなかなか離さない性質を持つ。


 ベースを中心に属性魔法が広がり、真っ白な雲泥がベースを守るように全ての方向に漂い、もうすでに粉塵などを絡めとっている。


 この守りであれば例え視界外にいるリアルからの不意打ちも食らうこともないので、この魔法を押し返すというよりは防ぎきる方向でリゼラとベースは一致する。


 この時、ベースは真っ白な部屋の中にいるようなものなので、外の状況などは一切分からないが、発動した魔法が外側から徐々噴煙に侵食されていることは分かる。


「下手に、攻撃魔法で打ち返そうとしていたら、今頃魔法の温度で皮膚が焼けただれていましたね」


 この空間は温度なども一定に保つので、この分ならどうにかはなるとベースは確信する。



**



 あれから、約十五分ーー

 時計がないので体内時計になるが、恐らくそのくらいの時間だろうとベースは推測する。

 外の状況が殆ど分からないのでタイミングが難しい。

 待ちすぎると、リアルに追撃を食らってしまいかねないし、早すぎるとこの発動した魔法が意味をなさなくなる。


 なので、ベースはあの威力が治るまでの最長時間を三十分とおき、その半分の十五分で手を打った。


「さーて吉と出るか凶とでるか」


 ベースは魔法を解除すると、そこは一面、先ほどあったフィールドとはかけ離れた状況になっており、少しあった緑は全て粉塵や溶岩や岩石、塵芥で埋め尽くされ、さっきよりも土地の高さが上がっていた。

 真っ黒に固まった溶岩もあればまだまだ元気よく流れている真っ赤な溶岩もあり、この辺り一帯は地獄のようなフィールドと化していた。


「生きていたかベース」

「会長、アンナ……問題ありあませんそれよりリアル達は……」


 岩や岩石、溶岩が固まって出来た小さな山がいくつもあり、その中の一個から無傷で会長はアンナを連れて出て来る。

 そんなことはベースには分かっていた事なので、先にリアル達の位置を把握する。


「おいおいおい!遅いねぇ!お前ら!!」


 ベースやリゼラ、アンナはリアルの声がする方を振り向くと、小さな丘のような上で寝そべりながらこちらを見ていた。

 まだ地面や辺りは相当な熱を持っており、布一枚を介しても今地面に触れたら指まで溶けるレベルの熱になっていて、ベース達は各々自分の属性で足の裏をカバーしている。


「ちょっと!!リアル!私まで巻き込むんじゃないよ!ほんっとバカ!話終わり!!」

「いかに自動生成されるフィールドが優しいか良く分かるな」

「だろぉ!俺が作った方が良いもん出来るんだよ!」

「ちょっと!聞いてるの!!」


 リアルとベースの二人はうるさいアカメの事など気にすることもなく、再び殴り合う。

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