171話 ベース・パルク対リアル・シルバー

 ベースは一歩踏み出した瞬間ーー

 ベースが踏みしめた地面は凹み、その場から消えたように見えたベースは一瞬でリアルの目の前まで進んでいた。

 三対二でやっても良かったと思うリゼラだったが、ここで三人消耗してしまうと後から来るハル・クロ二クスでの戦闘でバテてしまうので出来るのであれば一人でやってくれるとありがたいというのがリゼラの正直な気持ちだ。


 確かに、ベースは強く、ルイン学園の生徒執行会としてその力も証明している。

 それは、アンナにも他のメンバーにも言えることだが、それを加味しても、この戦い自体、勝率は五パーセントにも満たないとリゼラは考える。


 それ程、目の前にいる二人だけでも相当な強さを持っているのだ。


「早いねぇ!!」

「こんなもの速くは無い」


 ベースはリアルの顔面を殴り飛ばす。相手の肌の感触を感じないほど素早く拳を振り抜き、振り抜いた後から脳にその感触が伝えられ、肌、骨、肉に伝わり、より詳細に感じ取ることが出来るほどの速度だった。

 大砲のような轟音を轟かせ、拳の衝撃波だけで地面に亀裂が走り、粉塵や屑が辺りに舞い散り、時々発生していたマグマの出が加速し、辺りの岩石は全て砕け散る。


 そのままリアルは来た道を引き返すような形で吹っ飛ばされ、地面を滑るようだったり、地面を跳ねたりと勢いに委ねることしか出来ない。


 ……だが、その離れる一瞬でベースに言いたかった「早いねぇ!!」という言葉を残し流れに逆らうことなく吹っ飛ばされる。

 ベースのあまりに自然な流れの会話、しかも、リアルが殴り飛ばされている状況だということを忘れてしまって返答したベースは殴り終えてからその異常性に気づく。


 この一撃を食らって喋れる者など見たことがなかったベースは今日の午前中に戦ったカッパと脳裏で比較してしまう。

 普通ならこんな比較はパッとは出てこないが、ここまで悠々とした態度を取られては、焦ってその現実をかき消そうと過去にあった事実が強く主張して来る。


 まるで、今のは幻だと言わんばかりにーー


「痛ってぇなぁ!クソが……」


 途中あった岩に軽く触れ指の握力だけで腰を回し転回し、威力をその一回で全て殺しきる。

 かなり遠くまで飛ばされてしまったので、リアルはのんびりと戻ろうとした瞬間、目の前に追って来たベースが現れる。


「ご苦労なこって……」

「もう、衝撃を殺したか……」


 吹っ飛んで行ったリアルが殆どダメージを抱えていないことを遅れて理解した、ベースは追撃を加えようと追っては来たがギリギリの所で間に合わなかった。


「お前、速いだけだな!だから俺の評価が十五点なんだよ!」

「くだらん煽りはやめろ」


 一歩でリアルとの距離を詰めたベースは、肘でリアルの喉元を狙って打ち込むが、ズボンのポッケに手を突っ込んだままリアルは頭を地面につけ反り返りながらかわし、ひと蹴りで上になっていたベースの後ろに回り込む。


「アメェ!アメェなぁ!おい!」


 そのまま後ろに回り込んだリアルはベースの体を掴もうと手を伸ばすが、ベースも無理やり体を回しリアルと対面する。

 その両手を同時に掴み、押し合いになる。


「力比べか!面白ぇ!!」

「無駄だ」


 最初は均衡していた力比べも、徐々にリアルが押されはじめ、ベースが押し込む。

 手を放さないようベースは強く手を握り、抑え込む。


「これなら痛みは同じだ!」


 その刹那ーー

 突然、押していたベースが腕を思いっきり引き、己の額とリアルの額を思いっきりぶつけ、鈍い音が響き渡る。

 岩よりも硬い両者の額は、ベースに軍配が上がったのか、リアルの手から少し力が抜け、それを感じ取ったベースは即座に手を離し、リアルは後頭部を地面に打ち付ける。


 その亀裂から溶岩が溢れだし、リアルは仰向けになった状態で、頭だけを溶岩に突っ込んだ状態で、動かなくなる。


 だが、ベースは決して油断などしない。これでやれているのなら過去二年、この男に敗北などしなかったはずだという思いがベースの中では強いからだ。


 少しだけ距離をあけ様子を見る。


 ここで追撃を加える事もベースは考えたが、まだ戦いが始まったばかりでお互いに固有属性すら出していないこの状況で、リアルがやられている確率はゼロに近い……なので、ここで追撃するのは相手に攻撃のチャンスを与えるようなものなので、あえて手を出さず観察していた。


「なんだよ攻撃してこねぇのかよ」


 そう言って、足の力だけでリアルは溶岩から顔を出し立ち上がる。

 顔についた泥を拭うような感じで溶岩をぬぐい、どろっとした溶岩が地面に落ちると、その塊は冷えて固まっていく。


 このフィールドに作られる気候や物質などに偽物は無い。なのでこう言った溶岩や熱を持った岩など全てが本物なので、今ベースが目の前で見ている光景はあまり目にしたくないものだった。


 ベースはリアルが溶岩に突っ込んだ時百%やれてはいないが、五十%でダメージを与えられているとは思っていた。

 

 なので、リアルの汗を拭うような仕草をする程度のレベルのダメージしか与えられていないと思うと、一体この男を倒すのに何時間を有すればいいのかという考えたく無い思考が脳の奥底でほんのわずかだがちらついてしまう。


 だが、ベースはそのちらついた思考を速攻で破棄するーー


「面白い!」

「はっ!!いいねぇ!これが面白いって言える。俺を相手に面白いって言えるやつはなかなかいないからな!お前三十点に上げてやるよ!」

「俺はお前では無い。俺はルイン学園生徒執行会広報、ベース・パルクだ!」

「今更名乗ってどうすんだお前!バカか?」

「いや、自己満足だ。気にするな」


 リアルの軽い挑発をさらっと流したベースは、顔つきが柔らかくなる。


 だが、それをリアルは殴られた後、ベースから離れていく最中確認することとなる。


「逆戻りじゃねぇかクソッたれがー!!!」


 先ほどよりもさらに速い速さで、ベースはリアルの顔面を吹っ飛ばす。

 さっきよりも肩の力が抜け、ベースの拳を振るう威力は比にならないほど上がっていた。


 

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