161話 追加効果

 アキトは一体をぶっ倒すと、もう一体のクリスタル人形はミツヤの方へ一旦退避する。

 すると、三ツヤ本体を宝の山が連なった腕が隠すように守る。

 その瞬間、再びクリスタル人形はあのクラウチングスタートの体勢に入る。


「二度目はねぇよ……」


 クリスタル人形が体勢を低くした瞬間に察してアキトは動き出していたので、接近し、隙が出来ている所に蹴りを入れる。


「危ない危ない……流石にわかりやすすぎたかな!」


 クリスタル人形が三ツヤの声を発し始め、恐らく一番はじめに出会った時と同じよう、遠隔ではなく直接自分をクリスタル人形に入れ、操作している状態だろう。


 明らかに、動きが変わるーー

 一回一回の攻撃速度や敏捷性、攻撃の機転や発想など全ての能力が上がっており、下手したら二対一だったさっきよりもきついかもしれない。


「これならどうだい!」


 速度をさらに上げ、三ツヤはアキトの右側面を取りジリジリとひりつくような拳を向け、振り抜いてくる。

 それを一瞬右目端に映った影だけで適当に肘を合わせたまたま拳にぶつかる。

 骨身に染みるようないい殴りと共に、そのままアキトはうまく触れている拳の撫でるように滑らせ、ミツヤくんの顔面を撃ち抜く。

 クリスタル人形の体は本当に硬いので、一瞬の間に重力魔法で強化したのとハヤトの強化によって痛みは少ないが、本当にギリギリだった。


「っ!!」


 顔面を殴られかなりの衝撃だったのか、首までおかしなことになっており、ずっと首を傾げた状態から動かせていない。

 クリスタル人形なので、痛みなどはないだろうが、視界が横たわってしまうのでもう対応することは不可能だ。


 その不意をついてアキトはクリスタル人形の後ろに回り、もう一発首を今度は蹴り飛ばし、ついに頭が吹っ飛ぶ。


「あらら、やられちゃった!」


 クリスタル人形は機能を停止し、地面に横たわる。

 三ツヤの意識は本体に戻ったのか、もうクリスタル人形から声がすることは無い。


 宝の連なった巨大な二本の腕は三ツヤを隠すのをやめ、まだ自動で動いているのか操作しているのか審議はつけづらいが、あの腕は相当厄介なのは間違いないことだけは分かる。

 後ろではさっきまでうるさかったスキルや魔法の音が消え、静かになった。


「あれ、待っててくれたの?お二人さん」


 素っ頓狂な表情で、アキトとミツヤの間合いに入って来たハヤトは、泥だらけだった。


「あれだけの数を一人でなんて流石だねー!ルイン学園だと思って舐めてたけど、僕も相当気合い入れないとだね!」


 ミツヤは仮面のせいで表情が読めないが、言葉に震えや、戸惑いが見えないから、こっからが本番と見ていい。

 もともと、前にそびえ立つ宝の腕が前座だったら困るまである。


「あれも魔法、スキル効かなかったりするのかな?」

「分からん、まずは撃って判断だな」

「そうだね……」

「いくよ二人とも!!」


 巨大な煌びやかに輝く宝が連なった腕は両サイド扇型になるよう地面を叩きつけ、二人を挟むように腕を動かして来る。


「こりゃ、判断してる暇無いかもな」

「効かなかった時は二人とも潰されちゃうねこれ」


 地面をえぐるように土を絡ませ恐らく二人が死なないようクッションをつけていると見ることが出来るが、ここは一か八か賭けてみるしかない。


「アキト、ここは僕がやるよ。アキトは迷わず腕に魔法とスキルを放って」


 ハヤトは何か考えがあるのか、アキトには確認作業の方を優先させて来るのでここはハヤトを信じることにする。


 アキトは即座に重力属性スキル<重力拳/グラヴィティナックル>、重力属性魔法<重力剣/グラヴィティソード>を発動し、重力剣を三本用意する。

 剣と言ってもただの黒い棒だ。

 それを、両腕に向け二本放ちもう一本をミツヤ本体に向けて放つが宝の山から適当な宝を取り出し盾にしてそっちに突き刺さる。それを丁寧に横に置く。


 流石に距離もあるし分かりやす過ぎたかーー


 だが、アキトが腕に向け放った二本の剣は見事突き刺さる。

 これで魔法無効化は無いことが確定、次はスキルだ。


「土属性魔法<地理凸凹/ソイルボウル>」


 ハヤトは魔法を放つと、突然地面が沈み、さらに両腕の進行方向の途中にある地面の一部が盛り上がり、腕が進む方向を強制的に上に変え、ちょうど俺達の上空で左右の腕がぶつかりあう。


「これはどうだ!!」


 アキトはそこを狙い、すぐさま準備しておいた、重力属性スキル<重力拳/グラヴィティナックル>をぶち込み、腕をはじきかえす。

 宝の腕は所々振動が連鎖し、いくつか弾け飛び、砕け散っていた。


「スキル、魔法共に有効……」

「これならいけそうだね」

「ああ」


 これまでは魔法やスキルが無効になっていたのでハヤトが生きなかったが、これなら二人共十分だということが分かる。


「やっぱり凄い威力だよ!二人共!」


 腕は一旦宝の山に引っ込み、腕を残っている宝をひっつけ修復し、再び現れる。

 だが、もう重力属性スキル<重力拳/グラヴィティナックル>で事足りるのが分かったので、問題は無い。


 そう、後注意しなければならないのは後一人。


「僕だよね!!」

「やっぱりそうくるよな……」


 頭が吹き飛んだクリスタル人形は動き出し、アキトの顔を狙って後ろから殴ろうとして来たが、向かいにいたハヤトが目線を配っていたので、すぐに理解できた。


 左足を後ろにスライドし体を動かし避ける。


「ふっ!!」


 さらに、もう二度と動かないようにするため、上から腹の部分を地面を抉る程の威力で貫く。


「やばっ!!」


 まさか避けられることを想定していなかったのか三ツヤは慌てて本体に戻るが、もう遅かった。

 アキトの重力剣は、刺さった後やアキトの体から離れた時に効果が発動するもので、その周囲二メートルに重力属性範囲魔法<重力場/グラヴィティフォース>が自動で発動され強力な重力で動けなくなる。


 これは、アキトのタイミングで発動出来る。なので、今ミツヤは動けない。

 勿論、動かしたい宝の山の巨大な腕も全く機能していない。


ーー防御も不可能だ。


「これで、終わりだね」


 ハヤトがミツヤの顔の前に手をかざし、決着がつく。


「僕の負けだ……」


 ミツヤは両手を挙げようと一瞬肩を震わせるが、アキトの魔法は続いているので諦める。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る