160話 唯一無二の魔物
指を鳴らした音がこの部屋の中で響き渡ると、もう一体クリスタル人形が宝の山の瓦礫から姿を現す。
そいつの腹にはさっきアキトがつけた傷を残しており、今アキトの目の前にいるやつは新品だという事実を突きつけられる。
「二体目か……」
「アキト!」
隠れていた、ハヤトが隠れた岩場から出て、すぐさまアキトに背を向けた形で位置取る。
「どうやらクリスタル人形だけじゃないようだね」
ハヤトの視線の方に首を回して見ると、そこには地面から出てきた泥をかぶった人間が十体姿を現す。
人間の型を使った泥の魔物だ……名前を、ドルマドン。
クリスタル人形とは真逆の性質を持ち、物理攻撃系は全て無効、ついでに魔法、スキルも効くには効くが半減というかなり耐久面に優れた効果を持つ魔物だ。
攻撃能力が低いと思われがちだが、そう言うわけではない。攻撃一発一発自体は問題ないが処理をするのに面倒な攻撃をしてくるというのが特徴的だ。
一体だけでも相性によっては下手したらレベル百の強者でも數十分を有する。
「今回は役割分担がしっかり出来てていいね」
「というか、よくこんなに作った魔物を出せるもんだよ」
「それはね!僕はここに住んでいるようなものだから作っている途中からここを僕の実験室にしていたんだ!」
魔導修練祭のルールには抵触しないが、倫理的にどうなのだろうかとアキトは思う……その属性の生徒を持った学園の運の良さと言われればそれまでだが。
「でも、二人とも一年生なのに魔物ことをよく調べてるねー」
「ま、ガリ勉だからな」
「アキトに同じく……」
「へぇ……僕も生で見て戦って実際にインスピレーションを受けて同じような魔物を作るのが趣味だからね。ガリ勉といったらそうなのかも……」
「因みに、他の人達の状況はどうなってるんだ?ミツヤくんくんなら分かるだろ?」
「うーん、これは教えていいものか……」
流石に、ここまでの情報は教えはしないだろうが、聞いて見るだけただなのでアキトはお試しで聞いてみる。
「じゃ!これも僕に勝ったら教えてあげるよ」
「ーーそれじゃっ!一撃で持ってく!!!」
アキトは先程同様、一瞬で今度はミツヤ本人との距離を詰め、警戒もなく座っている所の胸元に向けて手を置こうとした瞬間ーー
ジロっとミツヤの黒目が動くのがアキトの片目に映る。
「残念だけどそうは行かないよ!残念だけどね!!はっ!!」
その宝の山の瓦礫が急に息を吐くように動き出し、アキトとミツヤの間に割って入り、アキトの掌底を受け止める。
相当硬い金属なのか、それとも作りが凄いのかは分からないが、衝撃がうまい具合に逃げ、クリスタル人形のような凹みをつけられた程度だった。
この宝の山さえも作りものだ。
「ピピピーーーーー」
ミツヤのコントロール下にないのか喋り声が変な機械音のようになったクリスタル人形が二体がアキトを追随するように迫る。
アキトは一旦その場を離れ、ハヤトの元へ戻る。
「おかえりアキト」
「ただいまだ……ってそんな冗談言ってられないかもしれんな」
「でも、ずっと弱い魔物倒している時よりも楽しそうだよ」
「え?まじ?」
「うん、まじ」
一瞬ハヤトとアキトの間に変な空気が流れる。
「流石に二回目はこの子達は覚えてるよ!凄い学習能力でしょ!」
そんな空気を壊すようにミツヤは声を張る。
もはや作った魔物自慢大会みたいになっており可愛い魔物が一体もいないので困る。
「じゃ、アキトまた後でね」
そう言うとハヤトは迫るドルマドンの方へ走り出す。
十対一に比べ、アキトは四対一だが、一体一体の個体濃度が違うのでハヤトと難易度はどっこいどっこいだ。
宝の山の瓦礫は俺の攻撃を防いだ以降、一部が宝同士が繋ぎ合わさり、腕のような形に変形し、ミツヤ本体を守るように稼働している。
そんな中、アキトへ迫るクリスタル人形二体の同時攻撃が開始する。
顔の丸が三つの方が先頭に立ちメインの攻撃を担当し、後ろから隙を作らないよう顔の丸二つのやつが追撃してくるので相当鬱陶しい。
「うっ!!」
一瞬集中力を切らした瞬間アキトの頬の横をクリスタル人形の拳が通り過ぎ、紙で皮膚を切るような傷が頬に入る。
後ろに回ったもう一体の蹴りを片手で掴み、流れる衝撃と共に振り回し、前にいたクリスタル人形へめがけ放り投げる。
だが、そんな攻撃が当たるわけもなく軽々躱され、間を縫うようにアキトへ迫る。
右左のストレートやボディブロー、膝蹴りや回し蹴りを使う人間のような器用さに驚きもあったが今はそれどころではないので振り払う。
目の前の一体の攻撃を避けながら奥にいるもう一体が起き上がるのを見て脳に、もう一体が追加されることをインプットする。
かなり速度が早い攻撃をハヤトのあげてくれた身体能力で難なく往なし、目の前にいる一体を使い影から攻撃しようとするところが見えたので、クリスタル人形を蹴り押し、後ろにいたもう一体と交錯、もつれたところを殴り飛ばす。
今のアキトの殴りは一撃でも相当重いので、スパイスを加えなくとも相当なダメージが入るが、命や痛覚などを持たないので動ける限り動き続けるタフさが目立つ。
「そろそろ、落ちてくれるとありがたいんだけど……」
まだまだ生きのいい動きを見せるクリスタル人形二体は、再びアキトへ接近し、さらに学習するという特典を持ってやってくる。
先頭に立つクリスタル人形は回し蹴りの体勢に入ったので、アキトはまた掴んでやろうと思ったが、その回し蹴りをした際に出来る足元の空洞からもう一体のクリスタル人形が拳を放つ。
アキトはそれには反応し、一瞬の判断でそのやろうとしていた動作をキャンセルし、回し蹴りは膝を曲げ体勢を低くし躱し、もう一体の拳を受け止める。
手のひらで拳を受け止め、その衝撃が腕を走るがハヤトの魔法のおかげで綺麗に流し、一切身体ダメージにはならない。
クリスタル人形の手を掴んだまま逆にこちらに引っ張り、思いっきり先程凹ました腹に膝蹴りを入れる。
すると、さっき凹ました傷もあってか腹が貫通し、気色悪い臓器のようなものと一緒に液体が飛び散る。
あれだけ外皮が硬かったので、何か硬いもので詰まっているのかと思っていたが、思いの外中は脆いという事が分かる。
「まだまだ!!」
膝を入れ、空いた腹の穴を右に胴体を分断するように蹴りにシフトし、そのまま腹の穴を広げ腹半分以上が分断した状態になり、前のめりに崩れていく。
「よし、まずは一体」
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