146話 新鮮身

ルイン学園転送地点 第二層ーー


 ちょうど、お腹も空いて普段ならご飯でも食べようかという時間帯、そんな時だからか一層の戦いは激しさを増していた。

 ユイとエーフは何とか足止めをしているがそれも徐々に徐々に、突破され始めていた。


「シロネ、こっちに何人か来そう……撃つけどいい?」

「うむ、これまで通りで大丈夫じゃ」


 今の今まで許可など取っていなかったユイが突然シロネに了解を得る形をとるのに何か引っかかりを覚えたが、ユイならよっぽどのことがなければ大丈夫なのでシロネはその考えを振り払おうとした瞬間ーー


「自然属性魔法<天狗風/テンフウ>」


 これまで、枝を矢に変えて一発一発丁寧にあくまで援護射撃を行なっていたユイは突然一変する。


「エーフ、少しばかり離れるぞ……」

「え?」


 シロネはエーフの手を引きすぐに離れようとするが、少し反応する事が遅れ間に合わない。

 さっきまでのエーフは枝を矢に変えていたが今回は魔法で自分が足場にしている木丸々一本を一瞬で矢に変えてしまう。

 その木一本分の矢は、今まで使用していた矢とは比べ物にならないほどの神々しさを放っていた。

 矢尻が若葉のような青さと形を象っており、篦(の)の部分は使用した大木を凝縮したような色をしており、明らかにさっきまでの威力ではないということは分かる。


 そして、ユイは木を丸々一本消費したのでふわっとその場から落下する。

 落下しながら弓を構え矢をセットし、流れるような動作で矢を放つ。

 放った直後、もの凄い勢いの風が発生し、シロネ達も吹き飛ばされかける。何とか大事は無いよう耐えたが、エーフは叫んでおり風音で何を言ってもかき消された。

 放たれた矢は真っ直ぐ一直線の軌道を取りながら進み、邪魔する草木など無いもの同然と言わんばかりの威力、速度で進んで行く。

 しかも、矢にはユイの魔法も乗っかって高威力な風もおまけ程度に付いているので、もはやこれをくらっている相手の方が可哀想に見えてくる程だった。


 草木を吹き飛ばす音と風が切れる音などが入り混じり、音が全く尽きない。


**


 この場だけ小さい嵐が通り過ぎたような荒れ果て方をしておりさっきと違いただただ静かになっていた、ただ一点に向かって草木が無い状態になっており、側から見たら異常だ。


「なんちゅう威力じゃ……」

「ユイちゃん……怖い……」

「ごめん、気合い入り過ぎちゃった」


 ユイは久しぶりに矢を放てて嬉しいのか、いつもよりか少し口角を上げて、嬉しそうにしている。


「ユイちゃん気合い入りすぎだよー、これで死んじゃったらどうするの?」

「大丈夫、死んでない。というかむしろ……」


 そうじゃな、寧ろ先手を打たないといけないほどの相手がユイの視線の先にはいたということになる。


「もう!すんごい風!!こんなギミックあったっけ?」

「お姉、あれはルイン学園の子の攻撃だよ、あ!いたいた」


 ユイが荒らした所から二人、姿を現す。


「ズ・バイト学園かの?」

「そう!正解です!」

「あのー、一つ聞いてもいいですかね?」

「なんじゃ?」

「実は人を探していまして、僕と同じくらいの身長の男性なんですけど……」

「知らんな」


 こんな状況で人探しシロネはからかっているようにしか聞こえなかった。


「そういえば開始と同時にいなくなったって聞くがそっちにいったんじゃないのか?」

「いえ、最初は一緒に行動してたんですけど……どうやら知らなさそうですね。ありがとうございます」

「うむ」


 どんなやつかは知らないが、別にルイン学園の人じゃ無いので、シロネからしたら全く興味無い。


「だから!私たちに四人目なんていらなかったんだよ」

「僕もそう思いますけど、しょうがないでしょ上の命令なんですから」

「もう探す必要なくない?」

「そうですね、今は目の前にいるお三方をどうにかしましょうか……」

「賛成!」


 どうやら二人の意見は固まったようで、明らかに戦う気満々だった。


「っ!!」


 突然、草陰からシロネに向かって小型ナイフが飛んでくる。しかも思いっきり顔面を狙っており明らかに殺しにかかっていた。

 それを半歩分体を横にし躱すも、その一瞬の誘導で目の前にいる二人のどちらでもない、もう一人が突然シロネの目の前に現れ、ナイフが飛んできた逆側から蹴りを入れられる。


「気性が荒いの……」

「ちっ!!いつから分かってた」


 シロネがその男性が振り上げた蹴りを片手で受け止めそいつを見やると、暗い瞳に、着ているものが学園ごと決められた衣装なのでまだいいが、恐らく普段は真っ黒な衣類ばっか着てそうなほど暗いイメージを受ける人物だった。


 決して分かっていたわけではなく、シロネは単純に反射速度が人間の比ではないだけだった。


「姿隠すのはうまいが、奇襲は下手くそじゃの」

「はっ!そりゃ残念」


 すぐさまその男はシロネの手を振りほどき、元いた二人の方へ戻る。


「おい!ハザマ、まだやるなと言ったはずだけど」

「うるせぇ、俺に命令するな」

「ハザマー!もう一人どっか行っちゃったんだけど殺してないよね?」

「あーあいつか……いや知らんな、少し喋ったがあんまり強そうじゃなかったら興味無い」


 恐らく、あの一番テンションが高い女が三人の中の精神的支柱かの……

 シロネは三人が喋っている間に少しでも考察を入れる。

 男同士は仲悪そうだが、それを一人の女がコントロールしている。


「よし!それじゃ、よろしくねルイン学園さん」

「わしらはあんまり戦いたく無いんじゃが……」

「ダメだよ!この傷の借りは返さないと」


 そう言って、女性は片腕を見せる。するとさっきユイが放った矢が突き刺さっている。


「抜かんのか?」

「あの矢はそう簡単に抜けるものじゃない、しかも刺さった相手から少しずつ体力を奪っていく」


 ユイは後ろから自分の能力を詳細に話し出す。


「どうやらそうっぽいね!私も力づくでやろうと思ったけど無理だった」

「それじゃあ、やるしかないの……」

「そういうこと!私はズ・バイト学園の三年白聖クラスのペルト・ダイナ!よろしくね。こっちは私の弟達一年のハザマ・ダイナと、二年のシャルア・ダイナ」

「丁寧にどうもじゃ、わしはシロネ、こっちはユイとエーフじゃ、皆一年の黒聖クラスじゃ」


 そう、普通なら黒聖クラスと聞けば普通以下のやつなら少しバカにした表情か、態度や空気感が下に見る感じになるがこの三人は違った。


 黒聖と聞いて逆に警戒心が最大まで上がったのだ。

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