107話 段階を踏む
第二魔導書館地下ーー
「あ!やっときた!遅いじゃない!」
赤が強い桃色のツインテールを揺らしながらルナはアキトにゆっくり近づく。
「すまん、ちょっと遅れてしまった」
アキトはバルトとの特訓が楽しくて昼ごはんも食べずに勤しんでしまった。
そのせいでルナとの約束の時間に少し遅れてしまった。
「はーまぁいいわよ、ちゃんと来てくれたんだし……問題ないわ!」
「だけどこの状態で出来る特訓なんて出来ること限られるし、とくに他人とやることもないんじゃないか?」
「ま、まあ確かに……」
アキトに指摘されて初めて気づいたのかルナは考える素ぶりをするが、何か閃いたのか顔をすぐに上げる。
「な、なに言ってるのよ!!そんな理由つけて逃げれると思わないことね!!」
「このくそ加重をどうにかする方法とかあるの?」
ルナは横から顔を出してアキトに質問する。
アキトはまだ昼ごはんをまだ食べていないので先に済ませたいと提案したらルナもまだ食べていなかったらしく満場一致で先にご飯にすることを優先にした。
「んー慣れるしかないだろうな」
「うげっぇえーー」
乙女あるまじきだみ声を出すルナを横目にアキトは手についたパン粉を制服のズボンで払い立ち上がる。
「そういうことだ。ほれ、やるぞ」
「やるって言っても何をするの?」
「ルナも恐らくだが午前中は基本走れるように特訓してるだろ?」
「ええ、そうね」
「なら午後は歩くことや走ることは捨てて、戦闘に力を入れるか」
「え?」
*
ルナとアキトは二人向かい合い、体術の特訓を開始する。
「ちぇいやあああああああーーーー」
ルナは威勢のいい言葉とは裏腹にゆっくりと右拳をアキトの右胸辺りにめがけて放つ。ものすごくゆっくりなので普段なら簡単によけれる。だが、今は二人とも加重を負担しているので避けようとしても時間がかかる。
アキトは右足をゆっくりと下げながらその動作にそって体をひねりその拳を避ける。
反撃としてアキトはルナの右腕を手で掴みこちらに引き寄せるように引っ張り引いた右足の膝をルナの鳩尾辺りに放つ。
ものすごくゆっくりなので頭の中では分かっているが体が思うように動かないので普段の動きでシミュレートすると体との不具合が生じておかしくなり、どのような攻撃が来て、どうフェイントするかが全て筒抜けなので攻撃が相手に当たることはない。
まさに、スローモーションでの戦闘だ。
ここからは、何方が先に脳内シミュレーションに体がついて来るかの勝負になる。
即ち、何方が先にこの加重に慣れるかの勝負だ。
殆どその場から動かないはずなのに疲れ方は歩くよりも早い。
二人で息をゼーゼー荒げながら、かいたこともないような量の汗をかき、結局その日二時間ぶっとうしでやり決着が着く事なく終わり、午後の授業時間が終わる。
授業が終わったので、加重がゆるくなり疲れがどっと溢れ出る。
そのせいかあんまり加重MAXの時と変わらないような気がして来るが、アキトは食欲には勝てず今は寮の食堂で夜ご飯をとっている。
すると、後ろからバルト、トルス、エルの三人が入って来る。
「あ、アキト!!ここに居たのかよー」
三人はアキトの隣に一つ前に二つ席が空いているのでそこに座る。
「そういえば午後の授業アキト見かけないけどどこにいるの?」
「俺は午後からは他の場所で特訓してるよ。まだこの加重にも慣れないしあまり特訓らしい特訓はしてないけどね。三人は一緒にやってるの?」
「そうだね、トレインさんとセアさんと五人でやってるかな」
エルは少し申し訳なさそうに言う。
「へぇートレイン強かったもんなぁ。みんな進捗はどんな感じよ」
「やっぱり一日そこらじゃ難しいかな」
「だな」
「俺は午前中アキトとやってコツ掴んだからな明日にはいけそうだぜ!!」
エルとトルスは冷静に今の状況を分析しており、バルトは相変わらず直感だった。
「僕はもう少し普通の授業も受けたかったけどね」
エルは体動かす方の授業も好きではあるが、それと同じくらい座学も好きだった。
必要だと分かるからこそエルも強くは言わないがそれが本音だった。
「ま、魔導修練祭が終わったら座学もたっぷりやるだろうし、今はしょうがないな」
「そうだね、アキト」
この学園はあの理不尽な実技授業のアフターサポートはしっかりしている。
通常の授業時よりもご飯は豪華になってるし、布団なども一新されより良いものになった。
それにどこか体に異常が見られたらすぐに見てもらえるように常駐する回復専門の先生を配置して増やすなどしっかりしている。
それだけ、この方法は厳しいという事だった。
だが、何もデメリットが強いばかりではない。これを乗り越えた自分を想像して、努力する者も中にはいる。
ルナも今日の帰り際に同じ事をを言っており意外とこの方法も受け入れられつつある。
ご飯を食べ終わったあとはいつもなら少し談笑したりするが、皆目的は同じなのか一目散に自分の部屋に帰って行った。
人の前では言えないだろうが、皆相当量の疲労が溜まっているので無理もなかった。
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