105話 思い違い

「ゔぁあああああああああ」


 アキトはゆっくり湯船に浸かるとウタゲが言っていた通り、お湯にも加重が加えられていて裸なのにどうやっているのだろうかとか最初は探ろうかと思っていたが湯に浸かるとどうでもよくなる。

 午前の授業から、お昼ご飯を挟んで午後また実技授業が再開し、午後三時には解散した。

 お昼ご飯といっても食べれていたのはほんの一部で、大概の人は休憩に時間を費やしていた。


 だが、やはり人間というのは怖いものでこの環境にもう適用しようとしている。

 午前より午後の方が慣れてきたのか重さは変わらないのに、立っていた人の数が増えていた。


 増えていたと言ってもまだ十人が十二人になった程なので下手したら身軽に動けるようになる頃に魔導修練際が始まってしまう可能性すらある。


 これは先生達にとってみたら賭けみたいなものだ。これに耐えられる生徒は必ずしも全員ではない。すでにここから篩にかけられている。


「あー出たくないなぁー」


 アキトは湯船からゆっくりと立ち上がり、そのまま脱衣所へ向かう。



 自室のいつも以上にふかふかに見えるベッドが誘惑してくるのでなんの抵抗もなしにアキトはダイブする。


「あぁ〜〜〜」


 思わず声が出てしまうがアキトにしたら今はそんなことどうでもよかった。

 今も常に加重があるのでMaxの気持ち良さではないにしろこんなに深く眠れそうに感じたのは久しい。

 アキトはうつ伏せで寝られない人なので体勢を仰向けにして大の字になり、脳が休みに入るまで目を閉じて適当に考えごとをする。


 これからルナとの特訓がどうなるのかという事をアキトは考えるが、聞いてみない限り分からないので途中で明日への保留とした。


 体勢を横にして楽にする。

 シロネは元気になったのか今日の午後の授業が終わってからずっと<和衷協同>で連絡してきたがアキトはそれどころではなく無視をしていたが怒られそうなので明日謝りを入れるつもりだ。


 こうして、明日確認することと謝ることを頭に入れた時にはアキトは眠りについていた。



**


「やるわよ!!」


 ルナは当然でしょと言わんばかりにアキトに言う。


「え?」


 アキトはまず授業が始まる前(まだ加重が寝る時と同等)の早めの時間帯にルナと会っていた。

 昨日頭に入れておいた確認を行うためだったのだが、思わぬ答えが帰ってきてアキトは今呆然としている。


「でも、慣れるまで時間がかかるんじゃないか?何も今日からじゃなくても……」


 アキトが心配のつもりで喋っていたからか、ルナはため息と共に目つきをさらに鋭くさせる。

 それに驚いているとルナはまっすぐアキトを見て宣言する。


「こんなところで足止め食らってたらいつまで立っても強くなれないの!アキトには悪いけどよろしくお願いね!!」


 そのまま踵を返してルナは中央運動場まで早歩きでスタスタと行ってしまった。

 時間を気にしながらアキトは吸血鬼さんに会いにルナとは少し違う方向へ進み始める。


 <和衷協同>で話せば一発だろうが、今朝はなぜか繋がらない。

 時間が時間なだけに歩みがだんだん早くなり最後の方は歩きから走りに変わっていた。

 中央運動場から少し外れた所に庭園がありそこのベンチに仁王立ちでシロネは腕を組み立っていた。


 ベンチに立つのはあまりよくないんだからね!とツッコミを入れようかと思っていたがそんな空気でも無かったのですぐに却下した。

 アキトは軍隊顔負けの静止と気をつけの姿勢を取り、シロネの口が開くのを待つ。


「アキトよ……お主なぜ昨日わしの<和衷協同>に出なかったのだ?」

「え、ええっと、昨日は疲れすぎていたので喋る気分でもないなぁーと思ったので出ませんでした。」


 まるで面接かのように真面目に正直に回答する。


「うむ!真面目でよろしい」

「もちろんです!」


 ニコッとシロネが笑ったので許して貰えたかなとアキトが思った瞬間だったーー


「許すわけあるかーーー!!!!」


 思いっきり生成した骨でアキトの頭を殴る。

 鈍器で殴られたような生々しい音が響く。が、音がおとなだけに最初は痛がって転がり回ろうかと思っていたが、全く痛みが無かったのでその作戦は無駄に終わってしまった。


「せっかくわしから話かけてやったというのにだまずそこの態度がの……」以下省略


 時間ギリギリまで説教をくらい走れば行けそうだなという時間になって長かった説教が終わる。


「そろそろ時間がやばいかと!!」


 アキトは真面目に授業を受ける生徒のように手をまっすぐあげ指摘するとシロネはさっきまでの態度を一変していつも通りに戻る。


「む、ほんとじゃな……仕方ない今回はこの程度で許してやる。次はないぞ」

「はは!!ありがたき幸せ」


 それから二人で中央運動場まで走っていた。

 これから体力を使うのに何をしているんだとアキトは悲しくなるが何とか自分を鼓舞する。


「最後に一ついいかの」


 そんな芝居をアキトは一人、頭の中で打ちながら走っているとシロネが後ろからアキトに声をかける。


「どうした?」

「今回の件、まだ学園内だから良かったものの、学園外でこういうことが起こると、お主の危険という事になるからの心配をかけさせるではないぞ、わかったかの」

「お、おう……」


 シロネはこれでもアキトの事を心配しており、それに気づいたアキトもこれからはしっかりと出ようと心に決める。

 だが、そんな事もつかの間、二日目の地獄が始まるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る