87話 ランキング

「アキトはやっぱりOOPARTSオンラインやってたの?」

「ああ、と言うことはハヤトもか?」

「うん。無課金だったんだけど結構やってたなぁー」


 アキトはこの女神による異世界への召喚はやはりOOPARTSオンラインにアカウントを持っていたユーザーということが分かった。


「僕の場合は本当はこんな容姿じゃなかったんだけどね。OOPARTSオンラインの方は本人のままでやってたから……こんなに爽やかイケメンになるとは思ってもいなかったよ」

「え?俺は転生前と変わらない容姿だぞ。アバターで服装とかは変更可能だけど顔、肌の色、目の色、輪郭とか容姿のほとんどは転生前のまんまだよ」


 どうやら同じ転生者でも様々な形で転生させられてると分かる。

 同じことを思ったのかハヤトも驚きはしていたが冷静に考えている。


「僕は転生した時は子供だったんだ。成長して今の姿だけどこれも恐らくだけどアキトとは違うよね」

「そうだな、俺の場合年齢は転生前と変わらずだ。というか子どもからスタートってどういうことだ?」

「僕も詳しくは分からないんだけどね転生して目覚めたら僕は血だらけだったんだよ」


 アキトはそれを聞き、どういう事だ?と少し考えるが、ハヤトは答えを出してくれる。


「多分なんだけど僕が転生に使われたこの体は恐らく幼少期に死んだ子の代わりとして入っているんだと思う。転生して起きてまず血だらけの体を見てびっくりしたんだけどすぐに今の僕の父親が入ってきて助けてくれたんだ。その時に生きていたことが奇跡みたいなことを言われたのを覚えてるよ」


 こっちの世界でそのハヤトの体の子は一回亡くなった。

 そして、それを女神がその子の魂だけを抜き取り体をハヤトの転生先の器として使った。

 そして周りからは死んだはずの子供がハヤトととして息を吹き返すという形だ。


「それにしても生まれ先が公爵って運がいいなハヤトは」

「そうでもないよ。これでも元の世界ではニートというか引きこもり生活してたからね」

「え?ハヤトって元の世界だといくつだったんだ?」

「僕は十七歳だよ。学校に行かずにOOPARTSオンラインばっかりやってたけどね」

「アキトは何歳なの?」

「え……っと……19歳?」

「なんで疑問形なんだよアキト。でも結構僕たち歳近いんだね」

「ああ、そうだな」

「それにしてもアキトって……意外と見た目老けてるよね最初見た時三十代かと思った」


 ハヤトのストレートぶりに流石のアキトも顔がひきつるがまだ若いという事でアキトは許す。


「そ……それよりもさハヤトって名前ゲームアカウント名だったりする?」


 ハヤトは何か合点がいったのか理解したように一回頷く。


「うんそうだよ!!」


 ハヤトはOOPARTSオンラインになると性格が変わったように別人に変化するからアキトは怖く感じる時がある。

 今も顔を思いっきりこっちに寄せてきて今にもぶつかりそうだ。


「それに……」

「ハヤトって」「アキトって」

「「ランキングに常連だったよね」」

「ハヤト、お前なんで俺の名前……」

「ああ、やっぱり同じ人だったんだ。OOPARTSオンラインはほぼ顔や体型は本人だからね。あの顔つきで毎回ランキングの上にいたら嫌でも覚えるよー」

「そ、そうなの……」


 OOPARTSオンラインでは、アキトやけんは様々なランキング上位に載っており、名前は知られていた。

 だが、そのランキングの中でもアキト達が絶対に上位に食い込めなかったものがある。それがハヤトが常に一位いた無課金者ランキングだ。

 その名の通り無課金者だけでのランキングで、このランキングの上位にいた人達はOOPARTSオンラインでは課金者から敬意を受けていた。

 このゲームは基本課金しないとやっていけないと運営すら公言していたくらいのもので、そんな中無課金でプレイし、なおかつランキング上位を取るのでかなりの実力者だった。


 中でもハヤトは無課金者なのにも関わらず全体の総合戦闘力ランキング最高で五十位内には入っていた。


「いやーまさかあのアキトが目の前にいるなんてびっくりだよ」

「こっちこそこんなとこで会うなんて思ってもいなかったよ」


 アキトとハヤトはOOPARTSオンラインの時はお互い会う機会がなく、ここ異世界が初対面になる。ハヤトも途中からアカウントが消失して一時期死んだ説が出ていたが本当にそうだった事を今更ながらにアキトは驚く。


「今レベルいくつなんだい?アキト」

「今は四十二だよ」

「え?四十二!なんでそんなに低いの?」

「転生したらレベル一だったんだよ」

「僕も低くなってたけどレベル五十だったよ。今は八十だけどね」


 レベルを聞いた瞬間アキトはハヤトに絶対に勝てないと悟る。レベル四十二と八十では天と地ほどの差がある。

 

「これじゃあ今戦ってもあんまり面白くないかもね」

「そうだな。俺達が二人、レベル百になったらやるか」

「うん!そうしよう。まあいつになるか想像もつかないけどね」


 レベル百になった時の約束をアキトとハヤトは結ぶがこれは学園卒業後の楽しみとして取っておく。学園在学中にレベル百になることはまずない。


「話は変わるけど魔導修練祭っていうのがあるらしいね。アキトは興味ある?」

「そうらしいな。興味か……特にないかも」

「でも、優勝すると貢献した人個人にも賞金だったり、豪華なものがもらえるんだって」

「そうか……まぁ腕試し程度でやりますかな」

「そうだね。まだルールも詳しく分からないからもし当たった時はお互い正々堂々やろう!」


 そんなこんな話しているうちに午後の自主練の時間が終わる鐘が学園内に響き渡る。

 まだハヤトとは話足りないがまたの機会に持ち越すとした。


「それじゃそろそろ行きますか」

「そうだね。ちょうど鐘も鳴ったし」


 アキト達はソファから立ち上がる。


「それじゃ転生者同士頑張っていこう。このことは漏らさないようにね」

「ああ」


 このまま魔導書館を出るため出口の方角へ体を向ける。


「てんせいしゃってなんなん……」


 ソファの裏からさっきまで寝ていたはずの少女が鼻から上を出してジロジロ見てくる。


 その場でアキト達は凍りつく。

 アキトとハヤトはお互い顔を見合わせどちらが言い訳するかアイコンタクトだけで話し合う。

 その結果アキトが言い訳をすることになったので心の中でため息をつき少女の方にゆっくりと体を向ける。


「いやぁー転生者っていうのは裸で転がるのが趣味の人達なんだよねぇぇ……」


 最後の方は声が小さくなって掠れる。

 その少女は訝しそうに二人を見据える。


「そう……すぅ……ぅ……」


 少女はその体勢で寝てしまった。


「あぶねぇ間一髪だった」


 今のをもしちゃんと聞かれていたら面倒くさいことになっていたところだった。

 しょうがないのでまたアキトは少女を抱きかかえてカウンターのソファの上に乗せ今度こそ魔導書館を後にする。


「それじゃまたゆっくり話そうね」

「ああ」


 アキト達は茂みを出たあたりで別れアキトは黒聖棟までゆったり残ったトマトジュースをちびちび飲み、歩きながら帰路に着く。

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