祭り前の日々

83話 不吉

 バルトは目を覚まし咄嗟に上半身を起き上がらせ周りを確認する。


「ここは……」


 目を覚ましてからやっと何故ベッドに寝ているか記憶が蘇る。

 ふとその際に受けた傷があるか身体中を弄って確認したがまるで夢であったかのように綺麗に傷が癒えていたが、傷は回復しても精神的にはまだ疲れが残っているらしく体が重く、気だるい。

 なので、バルトは立ち上がるのは諦めて再びベッドに体を預ける。


 バルトが寝かされているのはルイン学園に備わっている医療棟で、重傷者や属性による後遺症や、天恵の診断など様々な事を診てもらえる場所だ。

 バルト一人だけの部屋の個室になっていて傷が酷く何日か経過しているのか色んな人が出入りした匂いがまだ残っている。

 バルトはあれからどれだけの時間が経ったのか定かではないのでまずは時間を調べたいところだが、時間が分かるようなものが生憎部屋には無い。


 一人でいるとトレインとの戦闘の記憶が蘇り、負けた事実が突き出されるのであまり寝ている方が幸せだった。

 バルトは寝ているのに肩を落とし、毛布を深く鼻を隠すくらいまで引き寄せる。


「まだまだ弱いな俺……」


 そんなことを考えていると部屋の扉を叩く音が部屋に響く。木製の扉なので木の優しい音色が部屋を反射してバルトの耳まで辿り着く。


「どうぞー」


 バルトは扉向こうにしっかりと聞こえるよういつもより少し大きめに返事する。


 返事と同時にベッドの側面に付いている魔法陣に学園カードをかざして扉の鍵を開ける。

 カードの認証を終えると今度は扉の前にいる人が扉にある魔法陣に学園カードをかざして初めてこの部屋に入ることが出来る。


 音なく扉は開きエルが恐る恐る部屋に入って来る。


「怪我の方は大丈夫かい?バルト」

「おう!問題ないぜ」

「はいこれ、よかったら食べてね」


 エルが持っていたバスケットをベッドの横にあるちょっとした収納スペースの上に乗せる。バスケットいっぱいに新鮮そうな果物が入っていた。


「こんなのどこに売ってたんだ?」

「学園には大体のものが揃ってるよ。商店街みたいなところがあるから今度行ってみるのをおすすめするよ」

「ありがとうなエル……」

「気にしないであれからまだ一晩しか経ってないし」

「え?なんて」

「だからまだ一晩しか……」


 バルトは日数の経過に驚き、聞き返してしまう。


「まじか……てっきり一週間くらい寝てたかと思ってたぜ」

「ここの医療棟の先生方は魔法やスキルの腕は凄いからね」

「他のみんなは?」

「時期に来ると思うよ……」


 エルがそう言った時ーー


 再び扉が数度叩かれ今回は数人が扉の向こうにいることが分かる。

 さっきと同様に学園カードをかざし扉を開くことを承認する。すると、扉が開き向こうから意外な自分物が現れる。


「ガッハッハ!!どうだバルト調子の方は!!」


 バカでかい声でトレインは入って来るがバルトはトレインでは無くもう一人の方に視線が行ってしまう。


「セア・レイン……」

「やあ二人とも待ってたよ」


 エルがそうにこやかに言うと、まずはトレインが話を切り出す。


「ガッハッハ!!いやぁー怪我は大丈夫か?見た感じ大分良くなったように見えるが」

「おい……怪我をさせた本人がそれを言うかね。見た通りもうほとんど治ったぜ」

「ガッハッハ!!そうかそうかそれは何より!!」


 バルトは今、うるさい声をあまり聞きたくないので早めに会話を切り上げる。それに勝負に負けた相手に喋られるのは気分が良いものではなかった。


 後ろにいたセア・レインがバルトの目の前まで近寄ってくる。


「今回のことは、申し訳ないと思っておりますわ。あなた達がここまで対抗出来るとは思ってもいませんでしたの。あの後、ウタゲ先生と話をして引き分けということでクラスの皆納したのよ」

「ああ、俺もそれで構わねぇぜ」


 セア・レインは少し驚いた表情をしたがすぐに切り替え話を続ける。


「あら?意外と簡単に受け入れるわね」

「今回はこれ以上やっても無意味だからな諦めるさ……だが!次やるときは俺の圧勝で終わらせてやるそれまでに取っておくつもりだぜ!」


 視界に二人を入れて目力だけで訴える。


「ガッハッハ!!俺も楽しみにしておこう!!これまで以上に鍛えがいがある!」


 そう言って先にトレインは出て行ってしまう。


「そして、もう1つ話しておきたいことがありますわ」

「なんだ?」

「それは僕もまだ聞いてないから聞いておきたい」

「これから始まるルィン魔導学園最大のイベント魔導修練祭についてですわ」


 セアは人差し指をこちらに突き出しベッドに片足を乗せなぜかドヤ顔だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る