82話 決断

 それからは、アギトが学園に行くことが決まりはしたがまだ年齢が足りないので一先ず村で学園に向け主に父シルバと戦闘技術に重きを置き特訓していた。


 あの日以来バルトとアギトの二人は距離を置くようになっていた。 そして、顔を合わせれば何かと喧嘩しナナミには辛い思いを敷いてしまったと今となって深く反省している。

 ナナミもあれから魔法やスキルをどんどん習得し様々な戦闘経験を経ている、さらに母のコール・ベルの才能を受け継いで魔法とスキル特に魔法に関しては上達速度が異常だった。


 このまま行けばいずれはアギトやバルトを抜く勢いだった。

 今は村の門で村中の人達が集まりのアギトの門出を祝うべく集まっている。


「それじゃあ行ってくる」

「ああ頑張ってこい」

「辛くなったらいつでも帰ってきなさいね」


 まず父のシルバと母のコールがアギトに声をかける。コールは泣きそうな顔ですでに目元に涙を溜めている。

 

「アギトの坊主!楽しんでこいよ!!」


 村一番の筋肉の持ち主で農具整備のおっちゃんが仕事終わりなのか汗をかきながら大声で叫んでいる。


 それからも村中の人一人々から声をかけられ結局一時間後に出発することになる。


「それじゃ改めて行ってきます」


 荷物を背負い直しそのまま背を向け歩き出す。

 結局バルトはアギトと一言も喋らず、アギトが歩き出した瞬間いつもの特訓場へアギトに背を向けて歩き出す。


 そして、アギトが村を出てからさらに半年後……


 バルトは特訓をしながらルーエ稼ぎをするようになっていた。

 森にいる魔物を倒し素材を一週間に一度来る商人に売りつけながらルーエを貯めていた。

 魔導学園に自分も行きたいとバルトは父と母には話したがアギトが行っているのでこれ以上村の人に迷惑をかけるのは良くないと普通に却下されたからだ。

 平民が学園のルーエを負担するには村一同でやらないといけないのでまず個人で出すことは不可能だ。

 だが、バルトは諦めきれなかったので自分でルーエを貯めることにした。半年が経ったが学園に必要なルーエのまだ十分の一しか貯められていない。

 

 あの日以来、近くの森からはゲルルージを超えるやつは出てきておらず比較的低位な魔物しかいないので稼ぐに稼げなかった。

 いつものようにバルトは特訓し森の中で魔物を狩り家に帰って来るとシルバが神妙な顔をして母さんと話合っていた。


「ただいま」

「ああ、おかえりバルト。ちょっと話があるからこちらに来なさい」


 一瞬毛穴が開き冷や汗が背中から滴り落ち、バルトはルーエ稼ぎをしているのがバレたのかと思い行くのを躊躇ってしまう。


 内心、心臓を激しく弾ませながらのろりのろりと近づいて行く。そして、バルトが椅子に座るとシルバは話し出す。


「実はなバルト……学園に行ったアギトのことなだが……」


 アギトの話だと分かった瞬間バルトは胸をなでおろした。


「ああ……」

「アギトは学園の大事なイベントに出たんだ。そのイベントは帝国の各学園どうしが戦うものでな一、二、三年生それぞれの優秀な生徒が選抜される」


 すると、母のコールも横に座る。


「あなたいいの?バルトに話て……」

「このまま隠しても意味はないだろ」

「何かあったのか?」

「ああ、アギトはなそのイベントに出たんだが対戦相手に重症を負わされたんだ。それも全く抵抗する事なくだ……」

「これはこの村の領主の貴族に聞いたことだから本当かどうかは分からん、それで、心配になって友人に聞いてみたんだが……本当だと思っていい」

「兄貴はそんなに弱くなったのかよ……」


 バルトは下を向き自分の太ももに視線を向け苛立ちをどうにか我慢するが、これまでルーエを貯めてその大変さを知っているバルトは村の人達にまで善意で貰ったルーエをドブに捨てたようなものだと怒る。

 勿論、アギトが魔法やスキルが徐々に衰えていたのは聞かされているのでしょうがない部分もあるが、バルトにしてみればもっと他の事でも特訓をしてせめて何かしら抵抗して欲しかったという思いもあるし、自分が苦労しているので先に簡単に学園へ行った兄への嫉妬心も強くあった。


「バルト……お兄ちゃんは」

「俺はこの村を出る」

「バルト!!」

 

 コールが椅子を思いっきり引き立ち上がる。


「母さん落ち着いて……」

「でも、あなた……」

「バルト!お前がこれを聞いてこういうことを言うのは大体想像していた」


 そう言って父さんは少し大きめの袋を取り出し机の上に置く。


「これはお前が生まれてから貯めていたルーエだ。アギト、バルト、ナナミそれぞれ貯めてある。お兄ちゃんがこの村を出るときも渡してある。旅の資金に使いなさい。バルトが入学するには今年ともう一年待たないといけないから少し多めに渡すわ。それに、お兄ちゃんのように推薦は使えない、自分の力で入るしか選択支がないけどそこは頑張りなさい」


 コールはバルトの目を強く見て言う。


「で、どうする?バルト」

「ここまでして今さらやっぱり止めたなんて言えるわけねぇ!!」


 袋を握りしめて椅子を引き立ち上がり頭を下げる。


「今までお世話になりました。行って来ます!」


 そのままシルバとコールの反応を聞くこともせず背を向け自室に向かいあらかじめ出る用意をしてあった旅用の大きなリュックに貰ったルーエを入れ背負う。

 

 村にくる商人は明日の朝なのでそのまま森を抜け一夜を明かす。商人にルーエを払えば連れて行ってもらえるのでたまに近くの村に行くのに使っていた。

 リュックを背負ったまま寝るのは不恰好だったが何故だかその日はぐっすりと眠ることができた。

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