57話 制服

 アキトは荒れる息を整えながら街を走っていた、いつもの道だが異世界の雰囲気は今だに新鮮で、空気も良く非常にランニングしがいのある天気、気温、湿度で若干汗ばみそれをタオルで拭うという動作を繰り返す……そいつもの早朝トレーニング。


 アキトは今日朝早く起きられなかったので若干出遅れた感は否めなかったが、どうせ朝は暇なのでやることにした。

 すると、前からいつもの様にトルスが見えてくる。

 今日は珍しくバルトも一緒にいる。


「よう!アキト!調子は大丈夫なのか?」

「おはよう、トルス、バルト。ああ、調子は大分良くなったよ」

「そうか、そりゃよかったぜ」「おはようアキト」

「てか、お前達二人共朝トレーニングしてたなんて聞いてないぜー誘ってくれよ!」


 アキトがその理由を言おうとしたが先にトルスに取られてしまった。


「バルトが朝起きないからだ!」


 そう、バルトは滅法、朝には弱く殆どちゃんと起きた試しがない。妹のナナミも相談してくるくらいで大変困っていると言っていた。何度か誘ったが朝起きてこないので結局二人でやっていた。


「そ、そういえばそんな事もあったような……」

「まぁいい。やりたいならこの時間に起きることだな」


 トルスがバルトに言い聞かせ、お互い走り出す。



 トレーニングの後、結局お腹が空いたので二回目の朝ごはんを経て今アキトは前回一週間のレベル上げで使った森まで来ていた。他の皆はシロネについてトレーニングしたり、学園に必要な物を買い足したりと様々だった。


 アキトは買うものはないし(アイテムボックスに殆ど入っている)、どうせ宿屋にいても暇なのでレベル上げの続きでもしようかと思っていた。


 ルイン魔導学園は全生徒寮に入らなければならない。

 そして、必要な物は全て学園内で手に入るのであまり外に出ることが出来ない。授業などで外に行くことがあるが、それ以外では基本禁止となっている。どうしても出たい時は所定の手続きを踏まないといけないので大変だったりする。


 それと、試験官が届けてくれる荷物だが、ホルドが対応してくれるのでこうやってのんびりレベル上げに勤しめる。本当にお世話になりっぱなしだった。


(アキトそっちはどうじゃ)


 久しぶりにアキトは、<和衷協同>を使いシロネと喋る。ここ最近は影の中にいなかったりとあまり喋る機会もなかったのでどこか気恥ずかしさがある。


(ああ、いつも通りこれから一人でトレーニングを始めるところーー)

(お主も大概変なやつじゃの)

(ど……どういう意味……だ?)

(別にアキトだけに該当するわけじゃないがの……普通、入学式までの準備期間が与えられたら新しい服や装飾品を新調したりのするわけじゃ。なのに、お主ら三ばかは毎日早朝トレーニングやれ午後は自主練習、普通のやつはここまではせんじゃろ)


 アキトは三ばかと聞いて直ぐにそのメンバーが思い当たってしまう。


(まぁまだまだ弱っちいからな俺達は。人より努力しないと……それに、下を見てたら蹴落とされるからな)

(そうか、こっちの二人はちゃんと見とくからそっちはそっちで頑張るのじゃぞ)

(おう!ありがとな)

(それじゃあの)


 シロネは『和衷協同』を切る。

 アキトも早速レベル上げを始める準備をする。まずはある程度開けた場所を探しつつアイテムボックスを操作する。歩きスマホみたいに方向感覚が鈍るがそこはステータスのおかげか通常と殆ど変わらない。


 森の入り口から一キロメートル程歩いたところに湖と良い感じに開けた場所を見つける。アキトは今回はここを拠点としてレベル上げを開始する。

 そして、二、三時間やってからいつも通り、宿屋に戻る。

 辺りの建物や空は沈む太陽の残照を浴び朱と金を混ぜたような色をしており、凄く幻想的な風景になっている。


「あら?アキトちゃんお帰りー」


 アキトが宿屋の扉を開けるとホルドが出迎えてくれる。

 皆一階に集合しており、アキトが一番最後の帰宅者だった。

 奥のテーブル席に七つの箱が綺麗に並べられておりそれを熱心に見ていた。

 皆あまり態度には出さないが、そわそわとした面持ちで早く開けたいのか我慢の限界が来ているようだ。


 アキトは奥の箱を見てホルドに問う。


「あの箱はなんですか?ホルドさん」

「あの箱はね、さっきルイン魔導学園の教師の方が届けてくれたものよ開けてみる?」

「そうですね開けましょうか」

 

 アキトがそう言うとみんな一斉に自分の名前が書かれた箱を手に取りそれぞれ机を一人一つずつ陣取り、中身を確認する。


「すげぇぜ!これ!」


 そう行ってバルトが箱の中から学園の制服を取り出す。みんなそれを見てそれぞれ取り出していた。

 アキトはまさか、この歳になってまた制服に袖を通す日がやってくるとは思いもしてなかった。


 絹のような肌触り、紺色をさらに深し紫色を混ぜたような色合いで胸元には正五角形の白線が付いている。

 肩の部分には名前が刺繍され、金色の学園のマークが入ったボタンが胸からヘソのあたりまでに五つ、両袖に二つずつ着いている。

 軽い魔法耐性やスキル耐性、状態異常の耐性などあらゆる効果が付与されている。

 制服のポッケや袖から赤いラインが通っており、両肩からは白い学園のマークの刺繍が下に落ちるように胸のあたりまで入っている。


 着てみても全く違和感のないデザインだった。むしろアキトが思っていたのより全然良かった。

 身長や肩幅などの採寸も寸分狂わずちょうど良いサイズになっており、とても軽い。体を動かしても違和感がないくらいのフィット感でみんな好反応だった。


 そして、女子と男子では制服の色が違い、男子は紫と紺を混ぜたような色合いで女子は真っ白な生地に赤いラインが通っており下がスカートになっていた。

 制服の他にも、学園生活に必要な生徒カード(生徒手帳のようなもの)や魔導書(教科書)、学園の説明事項が入っておりそれぞれ無くさないようすぐに箱に戻し各々の部屋に運んだ。


 そのままご飯を食べ、その日アキト達は早めに就寝した。

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