25話 共闘

 ユイは少し遠くの草むらに隠れ息を潜め、バルトは敵が来るであろう方向で毅然と待ち構えている。アキトはバルトの隣に一緒に並んでいる。


「どうするよアキト」

「うん?普通に迎え撃てばいいだろうな」


 隠れもせず一直線でその相手はアキト達の方へ向かって来ている。


(ほんとなっとらんのぉ〜)


 シロネも呆れ、子供を面倒するおばあちゃんのように嘆く。

 こっちが気づいていることわかっていないのかそれともわざとやっているのか。

 敵としては、アキトもシロネもやり方がずさん過ぎると考え、逆に何かあるんじゃないかと勘ぐる程だった。


「こういう頭使わなくいいのは分かりやすくて好きだぜ」


 夜の森は真っ暗で、今頼りになる光源は焚き火の残り火だけ。

 それももう少ししたら消えてしまう。

 この暗がりの中、聞こえるのはアキトとバルトの呼吸音、そして誰かわからない者達の近づいて来る足音だけがこの辺り一体を制している。


「ユイのやつこの暗がりで見えてんのかね?」


 ユイの能力は自然属性、ここは森、使うには絶好の場所だろうな。

 確か自然属性には木陰同化や新緑視界といったこういう場面にはぴったりな魔法やスキルがある。


「大丈夫なんじゃないかーー」


 徐々に近づいて来る足音……バルトも先程までの余裕は消えていた。

 すると茂みの中から三人の人間が現れる。

 三人は臨戦態勢を取り、警戒し現れた人達を見る。


 その三人は男二人女一人とアキト達と同じ組み合わせのチーム。

 そして、男の内一人、メガネをかけひょろっとした方が話を切り出す。


「夜、警戒している中申し訳ない。少し話がしたいんだいいかな?」


 交戦する気が無いのかそのメガネをかけた男の一人だけが前に出て、交渉に乗り出している。

 武器も持っておらず、ちゃんと交戦意欲がないと言う事を表していた。

 勿論、魔法やスキルがあるので皆警戒は解かない。


 だが、ここで戦いたくはないので、一応話は聞く事にする。

 アキトは頷くと、さっきまで灯されていた焚き火を真ん中に円を囲うようにアキト達は座る。


 ユイも隠れていた後方から戻ってきている。曇っていた空が晴れ月明かりのみがこの場を照らしている。


 焚き火の炭の残り香が辺りを浮遊し、アキト達の鼻腔をくすぐる。

 少し煩わしいと感じながらも話の続きを聞くため時間を設ける。


 メガネの男が三人の内真ん中、左に短髪の癖っ毛で茶髪、タレ目が特徴的で杖を持ち、ローブを羽織り、まさに魔法使いといった格好な子。右には筋骨隆々、恐らくこちらは武闘派系スキンヘッドの本当に学生なのかという見た目(俺が言えんが)の男が座っている。


「まずは自己紹介から、僕はエルそして僕の左手にいるのがトルス、右手にいるのがエーフだ」


「よろしく」「よろしくね」

「じゃあこっちも自己紹介だな」


 アキトは三人分の名前を告げ、自己紹介を済ませる。

 途中バルトの名前を言い間違いかけてバルトに肘で小突かれた。


「なぜ俺たちにコンタクトを?」


 そう、アキト達にとってこれが今回最大の疑問だった。

 その問いに対し、エルは話を始める。


「単刀直入に言うね。僕たちと協力しないかい?」


 エルはメガネのブリッジを右手薬指でくいっと上げメガネの位置を正しながら言う。


「僕たち平民はここにいる僕たち六人しかいない。恐らく貴族達からの攻撃も受ける……そうなった時三人より六人の方がいいと思うんだ。もちろん先生の試験はどっちのチームにも協力する形で……」


 確かにもし仮に試験官達から合格を貰えた時、一緒に守ってくれる人がいるのは心強いだろう。

 試験官から出される試験には三人でしか参加できないが別にそこまで難しいものでもない、二回分になったところで六人いると言う方がでかい。


 残るは信用問題になるが、アキトは一番ここが怖かった。


「いいぜその作戦に乗せてもらう。よろしくな」


 突然バルトが答える。

 アキトは色々考えてから答えを出そうとは思っていたが先にバルトに言われてしまったので流れに任せる事にした。


「ありがとう。それじゃあまずは……」


「寝る」「寝たいかも……」「……」「睡眠」

「寝るに限る」「寝るしかない」


 全員解釈は一致。

 こんな夜中まで起きていたら眠いに決まってる。

 アキト達はさっきまでローテーションしていたのでまだ良いがエル達は寝ずにここまで来たので当然だった。


 さらに、六人のローテーションになるので、一人頭の睡眠時間が多くなる……これは皆嬉しかった。


 六人はそれからまた設置系の魔法やスキルと範囲系スキルを併用した罠を作り、寝る場所から円を描くように設置し、じゃんけんをしてローテーションの順番を決め眠りについた。

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