4章 入学試験編
22話 試験の始まり
アキトは今颯爽と野山を走っていた。
息を乱さないようペース配分を考えながら……自分に言い聞かせながらなんとかこの焦りを落ち着かせようとしていた。
如何せんアキトはこの辺りの土地勘がないのでシロネに教えてもらいながら駆け抜けているが、途中で何度か道を間違えたりして今日の試験時間に間に合うかギリギリだった。
クッソ!結局ギリギリまでレベル上げしてたせいで遅刻しそうだ、それに寝ていないので全身が気だるい……
足が痺れ、色々な所が麻痺しているが、時間が時間なのでなりふり構っていられなかった。
そしてアキトがリ・ストランテに入ったのが試験集合時間の十分前、試験会場のルイン魔導学園に急いで向かっていた。
シロネには一旦宿屋に戻ってもらい、ホルドに特訓が終わった報告と朝ごはんを持ってきてもらうことにした。
なんとか一分前というギリギリで会場に入り、アキトは受付で試験案内を受け取り、必要事項を記入して入学試験の受験資格を得た。
入学試験には年齢、性別は関係なくルーエさえあれば誰でも受けることが可能である。
アキトはレベル上げ終わりにそのままきたので身なりはボロボロで髪も砂漠地帯にいたので結構痛んでおりボサボサだ。
周りの奴らはいかにも貴族みたいな男女が結構な人数おり、アキトよりも年下がかなりの数いる。
試験説明が始まるまで結局三十分くらいあるのでその間に適当な中庭で朝ごはんを食べていた。
中庭と言ってもかなり広く学園自体敷地面積がドーム十個分くらいの大きさがある。施設も学園案内を見る限り豊富そうで、戦闘訓練が行える闘技場や食堂、学校付属の寮などがある。
今いる中庭も手入れが行き届いていて真ん中にある巨大な噴水が居心地の良さを増す役割を果たしている。
(なんかキラキラした装飾つけたやつばかりじゃの〜)
シロネとは合流しており、合流してからやたらと周りの貴族をみて文句をずっと言っている。
そのキラキラしたアイテムは恐らくだが見た目的に耐性を付与する装飾品だ。OOPARTSオンラインでも装飾品はあったが、アキトからしたらしょぼいものばかりだった。
OOPARTSオンラインの時はやたらと派手な装飾をしている人もいたが、大概そう言う人は強い傾向にあった。
なので、見た目で判断してはいけない。
アキトは昔を懐かしみつつ朝ごはんを黙々と食べていた。
食べながら、アキトは同じ境遇や身分であろう人達を探していた。
高貴な人と喋るのはハードルが高いのでなるべく同類のような人を見つけたかったアキトだったが、周りにいないので諦める。
(シロネ、俺の他に平民いたか?)
(……)
シロネもアキトと同じく影の中で食事中なのでちょっとしたラグがある。
(さっき……ちらほら……見た……のじゃ。ま、平民だろうが貴族だろうが実力があれば関係ないからの楽にやればよいぞ)
結局アキトは学園を卒業して冒険者になれればいい。
あとはレベル上げとこの世界の知識を増やし少しでもけんに近づく、ただそれだけだった。
アキトは朝ごはんを食べながら考えていると何やら庭の真ん中の方が騒がしくなる。
貴族の女性達が一人の男に群がっている。
見るからにイケメンで、恐らく身なり的に貴族より上、公爵家とかその辺だろうとアキトは予想する。
学園説明欄には学園に入るものは身分関係ないからそういった作法もやらなくていいと書いてあったがアキトは一切信用していなかった。
(おそらくあやつがこの場で一番強いんじゃないかの)
(へぇ〜)
シロネが言うのだほぼほぼ間違いないだろうが、イケメンで実力あって権力もある。
アキトは人間としては勝てんなぁと思いつつ、その様子を傍観していた。
そして試験が始まる五分前、アキト達試験を受ける人は800mトラックが丸々入るくらいの大きさの運動場に集められていた。
運動場に行くまでに何人かにクスクス笑われ、ある層からは単純にひかれていた。
身なりで判断するなとは言いたくなるが、恐らくアキトも相手の立場なら同じような態度を取っていたと思うので、必要以上に考えないようにしていた。
そしてアキトは後ろの方で待機していた。周りを見て見るだけでざっと百人以上は確実にいることが分かる。
すると、アキトは後ろからちょんちょんと誰かに突かれる。
振り向くとそこには女性が立っていた、すらっとした身体、少し暗い緑色の髪を肩まで伸ばしておりロングウェーブの髪を毛先より少し手前で結んである。ジト目だがペリドットのような綺麗な緑色の瞳をしており、どこかお淑やかそうなイメージを感じさせる。
アキトはメガネかけたらよりグッジョブだなと思っているとそのまま声をかけられる。
「君平民?」
「あぁ俺は平民だよ」
アキトからしたら違和感しかない会話だったが、突然話しかけた割には上手く返答する。
その答えにホットしたのかその女性はほんの少し表情が明るくなる。
だが、その答えを知って満足したのかそれ以上の会話は無かった。
アキトは気まずすぎて試験の緊張よりもそちらの緊張の方が強かった。
それ以降その女性はずっとアキトの隣に並んでいる。
シロネは影の中でアキトの様子を見てゲラゲラ腹を抱えて笑っていた。
すると、前の方に教師と思しき人物が何人か現れ、代表の一人が台の上に立つ。
アキトはその人物を見て一瞬凍りついたように体が固まるが、すぐに平静を保つ。
そうそこに立っていたのはあの森でのレベル上げの時に遭遇した赤髪が印象強いウタゲ・ミルだった。
少し身長が足りないのか台の上でもアキトからは頑張って頭の先が見えるくらいだった。
そしてウタゲがゆっくり話を始める。
「え〜みなさん本日は本校の入学試験に応募いただきありがとうございます〜」
もの凄いやる気のない声でだらだらと喋る。
「試験は一次試験と二次試験で合否を判定したいと思っています〜」
「ここでは貴族だろうが平民だろうが公爵だろうがみんな等しく人です〜身分は入学したいなら捨てなさい。ではこれから一次試験の説明に移りたいと思います……」
試験はアキトがレベル上げに使っていた森が舞台となっており、受験番号をランダムに三人一チームに分ける、今回の応募人数は百二十三人ちょうど三人ずつチームを組める。
そして、チームごとに属性が書かれたスクロールを一つずつ配布される。森の中には何人もの試験官が配置されていて、同じ属性を持った試験官と戦うことができる。
ここからが肝で先生からはお題が出される、そのお題は先生によって違う。そしてもう一つは先生と戦い倒すこと、これは問答無用でOKとなりこのどちらか一つをこなすと試験官からスクロールに印をもらえる。
その印をもらったスクロールを持って森の出口まで持っていけば一次試験突破となる。
もし、失敗してしまった場合は他の試験官を探しに行かなければならない。
さらに、もう一つ受かる方法がある。
それは印のついたスクロールを他チームから奪い取ることだ。
スクロールの奪い合は原則としてOKだが印のついていないスクロールは奪えないようにロックがかかる仕組みになっている。
印がついたスクロールは奪い合いOK。だが印がついたスクロールを奪った瞬間そのチームは一旦入り口まで戻される。
なので取られた側も復讐可能というシステムになっている。
これはゴール付近での待ち伏せ対策でもある。
ここまで聞けばよくあるシステムだが、ここからが難題だった。
この森には通常いないはずの魔物が解き放たれており、何も敵は人だけではない。
それにこの森は広大になっている。
ゴールまでは大人の試験官が全速力で最短距離を行ったとしても二日はかかる距離だ。
まだ属性の魔法やスキルが未熟な人ではたどり着くのに早くて五日はかかる。
その間の水分、食料、野営などは全てその三人でこなさなくてはならない。
一次試験の概要は大雑把にこんな感じだ。
こんなことなら先に水や食料を持ってこればよかったなあアキトが思っていると周りの奴らもそこは同じらしく、みんな前に立つ先生へ抗議していた。
アキトはあったらいいな程度で思っており、大体の物はアイテムボックス内にあるので問題なかった。
だが、ウタゲは抗議するこちらを一瞥し、目が鋭くなる。
『お前ラァ!!ごちゃごちゃうるせぇんだよ!!!嫌だったらパパとママのところにでも帰りやがれ!!!』
ウタゲは鼓膜が破けそうなくらいの大声で言い放った。
それはこちらも同意である、あちらがこうやれと言った以上これは覆ることはない。何が起きても対処できるように準備するべきでそれが試験だ。
多くの人は抗議する側だったが、ちらほら特に問題なく立っていた人もいたので、出来る範囲でアキトは脳内メモに記しておく。
ご飯食べていた時に見た人も全く動じていなかった。
結局ああ言われてしまった以上どうにもならないと知り他の人達今は静かに簡単な注意事項の説明を聞いている。
そして、運命を決めるチーム決めが始まるのだった。
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