23話 民

『さぁて始まりましたぁあああああ!!!』


 ハイテンションで進めるウタゲ(試験官)。

 よっぽどチーム抽選が楽しいのかはたまたチーム運が悪い奴を見て楽しみたいのか分からないが嬉しそうに進行している。


 チーム抽選は受験番号で決まる。

 ウタゲは魔法ボックスから受験番号が書かれた紙を取り出し読み上げている。

 そしてどんどん決まっていくの見ながら、アキトは残ってる人から誰が一緒になるか予想している。


 実際そんな事は五分で飽きてしまい、決まるまで暇なのでシロネとだべっていた。


(アキト的にはやはり後衛が欲しいところじゃの〜)

(確かにな、俺は思いっきり前衛職だし、回復手段がアイテムだけだと心もとない)


 そしてとうとうアキトの受験番号が読み上げられる。

 受験番号を読み上げられた人は前に出て、魔法陣の中に入らなければならない。

 この魔法陣は転移魔法があらかじめあの森に設定されておりチームごとに送りだしている。

 アキトが魔法陣内に入ると二人目の受験番号が読み上げられる。


 誰かなとそわそわしつつその人物が現れるのを待つ。

 すると目の前に現れたのは予想内という外というかどっちつかずな感想しか出てこなかった。

 アキトは目を合わせると「あっ」と二人同人に口からぽろっと漏れてしまった。


 そう、その人物はさっき話かけてきた子だった。

 気まずい雰囲気になっていると三人目が走ってやってきた。


「お!二人がチームメイトかよろしくな俺はバルト・ベル、バルトって読んでくれ!」


 ここでも顔なじみというかどこかで見た何時ぞやのヤンキー崩れだった。何かの運命すら感じる程にこの組み合わせは偶然で切り捨てられる話ではなかった。


「アキトだよろしく頼む」


 アキトはバルトに握手を求められそれに応じる。


「私はユイ・ネイトルです」


 ユイが自己紹介した矢先、バルトが真剣な表情でユイに向かって一言。


「ユイってさっきそこで思いっきり転んでたよなパンツ丸見えだったぞ」


 その瞬間ユイから目にも止まらぬ速さのパンチをバルトの顔面にクリーンヒットさせる。痛々しい音が耳に響く。


「ふっぐぅ」


 バルトは悶えながら転移魔法陣は起動する。

 このパーティで大丈夫なんだろうか……アキトは頭をかかえつつ転移するのだった。

 シロネは勿論いつも通り腹を抱えて影の中で大爆笑していた。



 転移させられた先は森の入り口だった。

 先に転移した受験生達がチームごとに作戦を練っている。そしてアキト達が転移してから少したち、最後にウタゲが転移してきて試験開始前最後の説明を行う。


「えぇー今からそれぞれに武器を配布します。好きな武器を持っていくように〜」


 そう言われチームごとに好きな武器を一人一つずつ借りていく。

 今回の試験は貸出用の武器でやることになっている、殺傷力が極力少なく武器による不平等性を無くすためだ。勿論、いるいらないは自由。


 アキト達もそれぞれ武器を貰う。

 アキトは布製の白い軍手のような物、ユイは弓、バルトは死にかけているのでアキトが代わりに細身の片手剣を貰い、それぞれ指定された魔法陣に移動する。


 これは最初のスタートが全員同じだとスタートした瞬間に何か仕掛けたりするやからがいるので万全を期すためそれぞれ森の入り口付近に等間隔にチームが配置されており初期段階ではぶつからないようになっている。


「試験の期限は先程も伝えた通り、十日だ。そしてチームの誰か一人でもかけたら失格になるからな。では、あと五分後自動的にスタートする」


 そう言って教師陣は全員どこかへ転移して行った。


「ユイ許してやってくれ、こいつも悪気があったわけじゃない」

「アキトがそういうなら……」


 そう言うと、後ろで悶えてたバルトがいきなり起き上がる。


「まじ!さすがアキトだな。ユイもありがとうな」


 その瞬間突風が吹き、ユイのスカートの揺れを完全に読み切りうまい具合になびかせる。

 そして、まんまとその突風の手に引っかかったバルトはそれを凝視する。

 ユイは顔を真っ赤にしてそのままさっきよりも強力なパンチをバルトの顔面に二発ぶち込む。


「死ねぇええええええええ!!!!!!」


 バルトは昇天する。

 アキトはバルトに手を合わせる「南無三」。


(シロネ……あんまりいたずらするなよ)

(さすがじゃのー一番被害受けているだけあるな)

(じゃが、このチーム分けには何か嫌な感じがするのー)


 シロネは直接的には言わないが、少し怒っていた。

 それにはアキトも同意だった。

 凄いチーム運だなぁ〜と皮肉でも言ってやろうかとも思ったがこれはこれで面白いので、放っておく事にした。


「おい!そこの平民!今から試験なのになんだその緊張感のなさは!!」


(もしかしたら先生なりに考えた編成なのかもしれないな……)


 さっきからユイはずっと独り言をブツブツ言ってるし、バルトは合計三発殴られ泡吹いて倒れてるし、アキトは今、はたから見たらただ一点を見つめてぼーっとしてるだけなのでまさにカオスな状態とはこのことだろうな。


 それに今日は寝てないからアキトは早く寝たかった。

 そう考えた瞬間、大欠伸が出る。


「おい!!聞いてるのか!!」


 アキトは今更ながら声をかけられていることを認識する。


「なんでしょう?」


 その男は少しぽっちゃりしているが、その奥にはしっかりと筋肉がついており、中々に鍛えているのが見える。

 そして、風貌が学生という雰囲気がなく少し違和感があった。

 そんなことをアキトは思っているとその男は耳の近くで、小声で妙なことを伝えてくる。


 『良い出会いの最後には雲がかる……』


 そう言い残し、その男はぶつくさ言いながら帰って行った。

 なんだったんだろうか?そのことを考えながらアキト達は初期スタート地点に転移した。


 アキト達が最後だったのか、転移した後すぐにカウントダウンが始まる。


 そして、試験開始の合図と共にアキト達は走り出した。

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