3章 レベル上げの苦難

15話 レベル上げ1

 アキトとシロネは宿屋に帰り、ホルド、アキト、シロネの三人で卓を囲み、会議を開いていた。

 議題は「アキト、冒険者になれんかったどうしよう」だ。


「さて、まず俺は冒険者になれんかったわけだ。これからどうすればいいと思う?」

「「学園に入学する」」二人同時に言う。


 アキトは薄々感じてはいたが、ホルドとシロネが満場一致とは思っていなかった。


「でも確か学園の入学試験って来月の中旬頃だった気がするわ。いろんな村から入学希望者が来て、この時期は賑わうわね」

「アキトの今の実力だと入学は難しいんじゃないかの?」

「ああ、多分足りん。ただ周りの実力が全くわからんというか入学試験って何すんだ?」


 アキトは何かないかと問いかけるとシロネがホルドの方を見る。


「ホルドは試験官の補佐したことあったんじゃなかったかの?」

「もう昔のことだけどね。まだ変わってないとしたらそうね、試験は毎年違うみたいなの、対策を練らせない目的でね。ただ、周りのレベルはその年によってまちまちだって聞くわ。そこは私にも未知の領域ね」


 結局ホルドも分からないとなってはもうアキトは、レベルを上げるしかない。

 試験内容は予測したって限度があるし、時間の無駄になりかねない。


「特訓するしかないの」


 シロネはアキトと同じことを考えており、何故かアキトよりも気合が入っていた。


「近くに森があるわ、そこなら特訓にもってこいだと思う」

「わしも特訓に付き合ってやる」


 シロネは不敵に笑う。

 ホルドは店番があるからついていけないが、このレベル上げ一ヶ月間のご飯などの用意はしてくれるという風に決まった。

 因みに宿屋の料金だが、出世払いでいいとアキトはホルドに言われている。


「特訓は明日の朝から始めるからの」

「了解した」


 シロネは部屋で明日からのメニューを考えると言い残し、部屋に戻った。

「シロネちゃんの特訓ただただきついから気をつけてね」


 アキトがデザートを食べていると厨房から戻って来たホルドが怖いことを言う。

 それを言うとホルドさんはまた厨房に戻って行った。

 さりげなく飲み物のおかわりまで入れてくれていたことに感謝するアキトだったが、一言多いと心の中で漏らす。


 アキトひと段落してから部屋に戻り、アイテムボックをいじっていた。 明日、レベル上げに使うアイテムを選別している。

 と言ってもまだまだ少ないのである程度ピックアップしたら後はただただ整理するという作業を寝るまで続けた。



 朝早くアキトとシロネは街の外れにある人があまり立ち入らない森に来ていた。

 シロネは森の中に入ってからは影から出ており、適当な場所を見つけると急にテントを組み立て始める。


 え?街に帰るんでしょーー

 アキトがそう思っているとシロネはものすごい速さの手際でテントを組み立てて行く。


「言っておくが宿屋には戻らんのじゃ、これから一ヶ月間この森に篭る」


「またまたご冗談を」とアキトは思っているとシロネはテントを組み立て終わる。


「ホルドも了承済みじゃ観念するのじゃな」


 アキトは心を整理する。ついさっきまであったホルドのご飯という楽しみがアキトの中から消し飛ぶ。

 心の中で感涙し、ある程度泣いた後心を切り替える。


「よしっそれじゃあ始めるかの」

「ちょっと待ってくれ、準備したいことがある」

「分かったのじゃ」


 アキトはそう言うとアイテムボックスを開きとあるアイテムを取り出す。

 取り出したアイテムは経験値効率アップアイテムだ。経験値十倍の書、五倍の書。この二つは基本組み合わせて使う。

 このアイテムはOOPARTSオンラインで十連のガチャを十回回すと必ずどちらか一つ貰えるというアイテムで、アキトは貧乏性だったので使い渋り、とんでもない数残している。


 結局このアイテムを使わないままレベル100に達したため、ずっとアイテムボックスの奥深くで眠っていた。

 経験値の書はレベル100になるとゲーム内通貨に換金できたが、この世界のルーエにはならないので使わないと勿体ない。


「よっしOK」


 アキトは経験値の書を使う。これの効果時間は約半日なので一日二つ、五倍と十倍の物を使うので一日四つの消費だが、アキトのガチャ回数は一般をかけ離れているので余裕で保つ。


「それじゃあ特訓内容を説明するのじゃ」


 特訓内容は、まずアキトの<和衷協同>を使う、そしてシロネはスケルトンを召喚する。

 シロネは一日二十体までスケルトンを作成可能で、ストックはものすごい数いる。

 それをシロネに召喚してもらいアキトはそいつらを相手に特訓する。

 ただ、それだと和衷協同の半分しか効果を発揮しないのでシロネにも手伝ってもらう。


 シロネは他の場所へ移動し、自分で召喚したスケルトンを魔物のいる森に放ち、片っ端から倒す。ただ、魔物の数は多い訳ではないので期待値は低い。


 仕組みとしてはーー

 シロネとスケルトンの経験値は繋がっており、スケルトンが得た経験値をシロネが獲得することができる。

 さらに和衷協同で取得経験値が上がっており、それがアキトの元へ同じだけの経験値が入ってくるというものだ。


 アキトは努力レベルをもっと得るためシロネには特訓相手としても手伝ってもらう。スケルトン&シロネ対アキトという形でやる。


 これだけやれば通常よりは早くレベル上げができる。


「さて、やりますかな」


 アキトは目の前にいる三体のスケルトンと対峙する。最初はシロネは参加しない、徐々に慣れたらスケルトンの数を増やし、シロネも参戦するような形を取る。


「では、始めるのじゃ」


 そう言うとシロネは三体のスケルトンを出しその場を離れる。シロネは森中にスケルトンを放つ準備を始める。

 魔物の数に納得がいかなかったのかシロネは違う森にもスケルトン派遣する。スケルトンの制御は一番得意らしく、シロネは張り切っていた。


 スケルトンは途中で誰かにもし倒されてもそれまで貯めた経験値はシロネに入る仕組みになっている。なので、あまりリスクが無い。


 アキトは眼前のスケルトン三体を見る。

 三体それぞれ違う武器を持っており、片手剣、弓、杖の属性武器を持っている。属性武器は通常の武器とは違う、その人が持つ属性の能力を上げ、さらに武器にも属性が付与されるので威力が大きく向上する。


 シロネの仕業と見たアキトは、考えていても仕方ないので当たって砕けろの精神で一歩踏み出す。

 アキトは一気にスケルトンとの距離を詰め片手剣を持っている前衛のスケルトンの懐に入り込み重力スキル<重力拳/グラビティナックル>を放つ。

 狂いなく直撃し、重力波がスケルトンを追撃する。


 しかしーー

 スケルトンは全く動じておらず、ダメージがほとんど無いかのようにすぐに反撃に転じてくる。

 アキトはすぐさま距離をとる。


「くそっ!!レベル差か……」


 OOPARTSオンラインではレベル十以上の差が魔物とあると弱点を攻撃しても倍率が変わらなくなる。

 そう言ったデメリット面が働いて、アキトの攻撃は普段よりも弱くなっていた。

 今、のレベルは十一、恐らくこのスケルトンのレベルは二十一以上になるとアキトは推測する。


 アキトはこのスキルしか今のところ無いのでレベルが上がるまでは攻撃を避け続けるしか無い。

 今度は遠距離から狙いすまされた魔法の矢が一本飛んでくる。

 だが、アキトは避ける事に専念しようと脳を切り替えた直後だったので、ギリギリの所で後方に跳び回避する。

 矢は地面に命中し、刺さった場所の地面が円を描いたように抉れる。


 後方へ跳んだ瞬間ーー

 片手剣を持ったスケルトンが距離を詰めてくる。


 スケルトンは表情が変わらないので迫られるとかなりの恐怖感が込み上げてくる。

 そのままスケルトンは振りかぶりアキトに斬りかかる。

 斬りかかられる瞬間、アキトは後方で杖を持ったスケルトンが魔法を発動したことを確認する、基礎支援魔法<物理攻撃上昇/アクトアップ>だ。


 この効果によって片手剣を持ったスケルトンの能力値が上がる。

 ここで斬られると今のアキトではかなりのダメージを受けてしまう……

 アキトはすぐにスキル<重力拳/グラビティナックル>をその斬撃を右に躱した瞬間に剣の柄を狙い放つ。


 狙い通り柄の部分に当たりスケルトンはその衝撃に耐えられず剣を後方へ飛ばしてしまう。


 アキトはその体勢から間髪入れず、スケルトンにタックルをかまし突き飛ばす。

 骨同士が擦れ鈍い音がスケルトンから響き、地面にそのまま倒れる。


 こちらからタックルしたはずなんだがな……痛すぎる。

 アキトは痛みもあったがなりふり構わずすぐに起き上がり、後方にいるスケルトンの動きが怖かったので一旦アキトは下がる。

 よく見てみると今吹き飛ばしたスケルトンの手が欠けている。部分々に放てばしっかりダメージを入れられることがわかった


 ただ何発も放つことはできない……確実なところで放たないと三体倒すことは出来ない。

 アキトに追い討ちをかけるように杖を持ったスケルトンが吹き飛ばしたスケルトンに回復魔法<低級回復/ライトヒーリング>を放ち、さっき欠けた手が元に戻る。


「こりゃ参ったね……」


 最初から心が折れそうだったが、何とか踏ん張りアキトは再びスケルトンの方へ飛び込む。

 そう、まだレベル上げは始まったばかりなのである。

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