第14話 オーナーのインフルエンザが治らない!

今日は少し早く帰れた。早く帰りたい日に限って仕事が忙しい。仕事はままならない。お給料をもらっているのだから、そんなものだと思っている。


部屋のドアをノックして顔を出す。ベッドで起き上がってテレビを見ていた。


「どうでした?」


「よく眠れた。でもまた寝汗をかいたので、下着を交換した。洗ってもらったので助かった。ありがとう」


「それはよかったです。待っていてください。夕食を作ります」


すぐに夕食のうどんと卵焼きを作る。すぐに出来上がり。病気の時はこれくらいでいい。


「簡単ですが、夕飯ができましたから、食べに来てください」


「ありがとう。ご馳走になります」


部屋から出てきたが、やはり元気がない。


「お腹にやさしいようにうどんにしました。あと卵焼です。簡単ですが消化の良さそうなものにしました」


「ありがとう」


「うどんはお代わりがありますから、たくさん食べて下さい」


すぐに食べてお代わりをしてくれた。食欲はあるみたいで安心した。卵焼きも残さずに食べてくれた。お腹が空いていたのかすぐに食べ終わった。私は食べるのが遅い。ようやく食べ終わった。


「ごちそうさま、おいしかった、ありがとう。身体も温まった」


「病気の時はこのくらいがいいと思います。もう少し良くなったら肉料理にします」


「治るまでお願いできるかな」


「いいですよ。ひとり分も二人分も手数が同じですから。いつも多めに作って冷凍保存していますから、大丈夫です」


「白石さんがいてくれてよかった。でもインフルエンザが移らないように気を付けてくれ」


「早く休んでください。また、熱がでますよ」


そういうと、部屋に戻っていった。夜中は起きて出てこなかったみたい。気が付かなかった。


◆ ◆ ◆

朝、顔を出すと昨日よりも元気に見えた。少しは良くなったみたいでよかった。


「どうですか?」


「熱は下がったので、出勤しようかと思っている」


「絶対に今日は休んで下さい。無理しないで下さい」


「もう大丈夫だから」


「私の父はそれがもとで亡くなりました。だから行かないで休んでください」


「知らなかった。お父さんはこれがもとで」


「朝食を召し上がって下さい。準備ができています」


テーブルにいつものトーストとミックスジュースを用意しておいた。


「お腹にやさしくて水分が取れるものを考えました。ジュースには牛乳、ヨーグルト、バナナ、リンゴ、ニンジン、キャベツが入っています。たくさん飲んで下さい」


美味しいと言って3杯も飲んでくれた。


「本当に今日も1日休んでください。お昼に見に来ますから、その時昼食になにか買ってきます。いいですか安静にしていてください。約束ですよ」


篠原さんは部屋に戻っていった。朝食の後片付けをして、着替えた下着などを洗濯機にかけてから私はいつもどおり出勤した。


12時過ぎに私はまた戻ってきた。昼食におにぎりをいくつかとインスタントの味噌汁を買ってきた。篠原さんは「ありがとう」といって黙って食べていた。乾燥した衣類を片付けて私は会社へ戻った。職住接近はこんな時に便利だ。


6時半過ぎにマンションへ戻って来た。ドアから顔を出して様子を見る。もうかなり元気になっていることが表情から分かる。


「ごめんなさい、遅くなって、仕事が立て込んでいて、すぐに夕食の準備をします。体調はどうですか?」


「もうすっきりした。身体のだるさもなくなった。熱は平熱に戻った」


「そうですか、では、お肉料理でも作ります。待っていてください」


今日は生姜焼き定食に決めた。生姜の残りがあったのと、冷凍保存した豚肉があった。あとは野菜のお味噌汁と昨日漬けておいた一夜漬け。準備ができたので呼びに行く。


「生姜焼き定食になります。私の肉料理はこんなものですが、召し上って下さい」


「味付けが良くて美味しい。味噌汁は今作ったの? 漬物が美味しいけどどこで買った?」


「味噌汁はあり合わせで作りました。漬物も余ったお野菜の一夜漬けです」


「料理が上手だね」


「母が教えてくれました」


「今朝、言っていたけど、お父さんはインフルエンザがもとで亡くなったのか?」


「そうです、無理をして、肺炎になって、私が高校1年の時に、あっという間に亡くなりました。だから油断してはいけません」


「お母さんはどうしている? 父が亡くなってから実家の仕事の手伝いをしています」


「大変だったんだ」


「母は苦労をしました。私はそれに甘えていただけで、ありがたく思っています。そんなことより、食べ終わったら早く休んでください。明日の朝の調子で出勤するか判断したらいいと思います。でも私は大事をとってもう1日休養されることをお勧めします」


「分かった。明日の朝の状況で判断する。ありがとう」


◆ ◆ ◆

翌朝、篠原さんは大事を取ってもう一日休むことにすると言った。久しぶりに身体を休めたいとも言っていた。


今日も6時半過ぎに帰ってきた。部屋のドアをノックして様子を見る。もうすっかり回復していつもと変わりがない。よかった、治ったみたい。


「夕食はシチュウにしました。少し時間がかかります」


「お腹が空いた。楽しみにしているから」


やはりシチュウは時間がかかった。7時過ぎになってようやく出来上がった。ほかに野菜サラダを作った。できたと声をかけるととんできた。


よっぽどお腹が空いていると見えて、黙って食べて、お代わりを2回もしてくれた。シチュウは上手くできたみたい。


「夕食ありがとう。今日はゆっくり英気を養えた。明日から出勤する」


「すっかり回復したみたいですね。よかったです」


「それで、お礼をしたいのだけど」


「そう、おっしゃると思っていました。篠原さんは私の好意を受けるのがおいやなのですね」


「そういう訳でもないけど、お世話になったのでお礼はしておきたい」


「借りをつくりたくないのは分かります。それで、お世話した時間を計算しておきました。それと昼食と夕食の費用を計算しておきました。内訳は洗濯の時間と食事の準備ですが、食事の準備時間は私の食事の準備ための時間でもありますので、半分にしました」


明細は3日間で4.5時間の4500円、昼食と夕食の材料費など1350円の合計5850円を請求した。


「こんなに少なくていいのか」


「実費はそれだけでから、多く貰っても気が引けますから、それだけいただければ十分です」


「分かった。ありがとう。もう元気になったから、コーヒーでも入れてあげよう」


「それじゃあ、ご馳走になります」


篠原さんは手を丁寧に洗ってから、コーヒーを淹れてくれた。篠原さんは私がコーヒーを飲むのを見て嬉しそうだった。料金は請求したけど、結構してあげた方だと思う。


私が病気になったら、これだけしてくれるのだろうか? 幸い私にインフルエンザは感染しなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る