第13話 オーナーがインフルエンザに罹った!

今日は帰りが遅くなった。4半期の決算が近づいているので何かと忙しい。7時に着いて夕食の支度をした。いつもならそろそろ篠原さんが帰ってくるころだ。


夕食を食べていると、篠原さんの部屋のドアが突然開いて、パジャマ姿の彼が出てきた。


「帰れられていたんですか? 気が付きませんでした」


「体調が悪いので早退して、部屋でずっと寝ていた」


「大丈夫ですか?」


「風邪か、インフルエンザかもしれない。熱がある」


「お医者さんに診てもらいましたか?」


「いや、たいしたことはないだろうと思って様子を見ることにした」


「お薬は飲んだのですか?」


「頭も痛いので解熱鎮痛剤を飲んで寝たら汗をかいた。今着替えをしたところだ。俺に近づかない方がいい。移るといけないから。それに手をよく洗ってうがいをしておいた方がいい」


「私に何かできることはありますか?」


「特にないけど、何かあればお願いする。その時は携帯に電話するから」


「そうしてください」


篠原さんは冷蔵庫から、買ってきたというサンドイッチとケーキとポカリを取り出してすぐに部屋に戻っていった。そういえば冷蔵庫に買ったはずのないものが入っていた。


私に移さないように部屋でひとり食べるつもりだ。ひどくならなければいいけど。


夜中に物音がするのに気づいた。もう4時を回っていた。ドアを開けて顔を出すと篠原さんがいた。


「大丈夫ですか?」


「喉が渇いたから、飲み物を取りに来た」


「電話してくれれば、持って行ってあげたのに」


「折角眠っているのに起こすのも悪いと思って」


「こんな時は遠慮しないで下さい。それより本当に大丈夫ですか?」


「寒気がして熱が出た。解熱剤を飲んだら、また汗をかいて、下着やパジャマを取り換えた」


「下着やパジャマはまだ新しいのはあるのですか」


「もう一組くらいはあるから大丈夫だ」


「熱は?」


「今は37℃。これより下がらない」


「明日、医者にかかった方がいいです。必ず行って下さい」


「様子をみてからでいいだろう」


「必ず行って下さい。約束してください」


「分かったよ。それほどまでいうなら行くよ」


「朝になったら、朝食を準備して、洗濯をしますから、それまでゆっくり休んで下さい」


篠原さんは部屋に戻った。熱があるのか、辛そうだった。


◆ ◆ ◆

7時に篠原さんの部屋のドアをノックする。


「大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だ。今、熱を測る」


「どうですか?」


「38℃ある。今日も休むから」


「下着とパジャマを着替えて、とりあえず、朝食を食べませんか? 食欲はありますか?」


「お腹は空いている。すぐ行く」


篠原さんがリビングダイニングへ出てきた。私は朝からマスクをつけている。


「私はもう済ませましたので、ゆっくり食べてください。その間にシーツと枕カバーを取り換えて洗濯します」


私は部屋に入って、ベッドのシーツや枕カバーを新しいものに交換した。それから着替えをした衣類も洗濯機に入れて洗濯を始めた。そこへ朝食を終えた篠原さんが入って来た。


「洗濯機はこのままにしておいてください。お昼に来て乾いた洗濯物を片付けますから」


「自分でするから、いいよ」


「言うとおりにしてください。身体を大切にしてください。それから必ずお医者さんへ行ってください。約束してください」


「必ず行くから」


「それより白石さんに移らないか心配している」


「心配ご無用です。インフルエンザの予防注射は毎年必ずしています。今までインフルエンザにかかったことはありません」


「でも油断しないで」


「大丈夫です。今も気を付けています」


篠原さんがベッドに横になるのを見届けると部屋から出て来た。洗濯機は勝手に回って乾燥もしてくれるから、これで大丈夫。


念のため、出社する前に、部屋へ行って念を押す。


「いいですか、お医者さんへ行ってくるのですよ。それからお昼に見に来ますからね」


大丈夫だろう。子供じゃないのだから。でもやっぱり元気がなかった。ちょっと心配だ。


◆ ◆ ◆

昼休みに急いでマンションに戻ってきた。1時までに戻らなくてはならないので時間は余りない。部屋をノックして顔を出す。


「お医者さんへ行ってきましたか?」


「ああ、行ってきた。お薬ももらってきた」


「なんと言われましたか?」


「インフルエンザA型、2~3日安静にしているように言われた」


「じゃあ、おとなしくしていてください」


「そうするしかないだろう」


部屋に入って、洗濯機から乾燥した衣類などを出して畳んで、クローゼットにしまった。


「お昼はどうします」


「コンビニでパンを買ってきたから後で食べる」


「今は、その位がいいですね。夕食はいつも作っていますから、それを食べてください。お腹にやさしいもの考えますから」


「食べに行けないのでお願いできるかな、助かる」


「じゃあ、おとなしく待っていてください」


そう言って、私は部屋を出て、会社へ急いで戻った。いつもの篠原さんはどこかへ行って弱気になっている。可愛いところがある。


夕食は何を作って上げようか? 母親がいつも風邪を引くとうどんを作ってくれた。それにしよう、簡単だ。

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