偽装同棲始めました―どうして地味子の私を好きになってくれないの?
登夢
第1部 都会・同居編
第1話 エリートが同居を提案して来た!
今日は朝からコピーを頼まれることが多い。第2四半期の決算の発表が近いからだ。雑多な仕事をこなさなければならなくて結構忙しい。
私は
落ち込んでいたので、再就職先を探す気になれなかった。手っ取り早いので派遣会社に就職して今は派遣社員として働いている。だけど給料は思っていたよりも少なくなった。
給料が少なくなったこともあり、商社時代の反省もあり、服装や化粧はできるだけ地味にしている。黒のスーツに薄化粧、コンタクトも止めてメガネにしている。
こんな地味な格好だと、男子社員からも声をかけられることもない。しばらくは付き合いたくないから丁度いい。女子社員も私を気にしたりしないので、好都合な面もある。
コピー室から企画部の
原稿を見るとマル秘の字が目に入った。あら、大変! 1枚目をよく見ると企画部と記されていた。きっと、さっきの篠原さんの書類に違いない!
すぐに書類を持って彼を追いかけた。丁度企画部へ入ったところが見えた。入口から声をかける。
「すみません。この資料をお忘れになっていませんか?」
すぐに振り向いて私をじっと見た。
「私の書類だけど、どこにありましたか?」
「コピー室のコピー機に残っていました。取り忘れではないですか?」
彼の顔にしまった! という困惑の表情が見て取れた。
「これを読みましたか?」
「はい、1枚目だけですが、ざっと目を通しました」
「そうですか。なぜ、私の資料と分かったのですか?」
「企画部と書かれていましたし、私がコピー室に入る時に出ていかれるのを見かけたからです」
「私が誰だか知っていた?」
「知っています、企画部の篠原さんでしょう。女子の間では有名ですから」
「君は?」
「総務部の白石です。ここへ派遣されてきてまだ半年ですから知らなくて当たり前です」
胸のIDカードをしっかり見られた。
「読んでしまったのはしかたがない。中味は誰にも話さないようにお願いしたい。この資料の存在自体も」
「中味は読んではいませんし、マル秘が目に入っただけです。私は派遣社員ですから関心はありません」
彼は私の顔を見てそれから服装をじっと見てから、何かを思いついたようだった。
「白石さん、折り入って相談したいことがあるけど聞いてくれないか?」
「相談って、業務に係わることですか?」
「いや、プライベートなことだけど、これも秘密厳守でお願いしたい」
「いいですが、相談にのれるかどうか分かりませんが、聞くだけでもよろしければ」
「それでいいから、今日仕事はいつごろ終わる?」
「6時ごろには終わると思います」
「それなら6時から1時間、21階のC会議室をとっておくから来てもらえないか?」
「分かりました。丁度6時とお約束できませんが、いいですか?」
「それでいいから待っている」
「お伺いします」
突然、相談したいことがある。それもプライベートなことだという。彼のすこし強引な突然の申し出だった。すぐに断る訳にもいかなかったので、とりあえず受けたというのが本当のところだ。
篠原さんと言えば企画部のエリートとして、女子社員の話題になることもあったので、顔と名前は知っていた。そのエリートが私に何の相談があるというのだろう?
約束の6時になったので、退社しようとしていると、コピーを頼まれた。急いでそれを済ますと、指定された21階のC会議室へ向かう。
会議室にはすでに篠原さんが待っていた。
「遅れてすみません。コピーを頼まれたのですぐには出られませんでした」
「もう仕事は済んだのですか?」
「はい、帰り支度をしてきました」
促されて席に座った。それから彼は落ち着いた様子で話し始めた。近くでよく見ると、結構、女子が好きになりそうな顔立ちで育ちの良い品の良さを感じる。さすがに企画部のエリートと言われているだけのことはある。
「相談したいことだけど、今、私のマンションの同居人を探しています」
「同居人を探してほしいのですか? 私に?」
「2か月前に引っ越したけど、広いうえに維持費がバカにならない。だから同居人を探しています。男女は問いません」
「私には同居をするのにふさわしいと思い当たる人はいませんが」
「同居の条件だけど、部屋は10畳くらいで、バス、トイレが付いて、部屋代は月3万円。光熱水費を月2万円負担していただく。それと週に1回、マンションの各部屋及びトイレ、お風呂の掃除と玄関マットや私のベッドのシーツ、枕カバーなどの寝具、バスタオルなどの洗濯をしてもらうことです」
「家賃が3万円は魅力ですね。光熱水費はどこでもかかりますが、2万円は少し高いですね」
「条件は結構いいと思うけどね」
「確かにそうですね。その条件なら同居を希望する人はいると思いますが」
「それで白石さんはどうかと思って」
「ええ、私ですか?」
「考えてみてくれませんか?」
「どうして私なのですか?」
「白井さんなら身元も分かっているし安心して貸せるから」
「それは答えになっていないと思いますが」
「じゃあ、はっきりいうけど、白石さんとなら絶対男女の関係にはならないと思うから」
「ええー、そんな理由からですか?」
「君に手を出したりすることは誓って絶対にしない。なんなら契約書に明記しても良いけど」
「おっしゃることは分かりました」
私は彼の顔をジッと見ると、見返されたので目をそらせた。
「まあ、考えてみてくれませんか? 今週いっぱい。金曜日にでも可否を教えてくれればいいですから」
「そうですか? 考えてはみますが?」
「望み薄かな?」
「金曜日にお答えします」
篠原さんからの一方的な提案だった。想定外の提案と言うか話だったので、聞いているのが精一杯だった。まあ、悪い話でもないと思った。
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