ヒロインが渋滞していると中々目的地へ行けないなんてよくある事だ

 

 バキン。


「「……」」


 バキバキ。


「「……」」


 ……もう一回試すか。


「……アレスティア」

「……なんです?」


「わっちのお小遣いが無くなったのじゃ」

「……で?」


「……諦めての」

「……いや」


 あれから幼女がポチッた生命の宝珠を使ってみた。

 手の平サイズの水晶みたいな透明な玉に二人の血を垂らす事で命が産まれると説明書に書いてあった。

 因みに通販は天異界通信販売という名前で、たぶれっとをポチッとすると魔法陣から商品が現れる。

 序列が上がると買える物やサービスが増えていくらしい。


「もうお金無いのじゃよ」

「貯金ありますよね」


 そして意気揚々と幼女の血と私の血で試したら粉々に砕け散った。

 女神の血だから駄目なのかと思い、近くを通ったフラムちゃんの右尻から血を取って私の血と使用…見事に砕け散った。

 次はミーレイちゃんの左乳の血と私の血を使用…砂になって消えた。

 チロルちゃんの鼻血と私の血を使用…ドロドロに溶けて無くなった。

 救世主ヘルちゃんの……の血と私の血を使用…見事に爆発した。


「それは老後の貯金じゃ」

「女神の癖に老後なんてよく言えますね。早く出して下さい」


「アレスティアも持っているじゃろっ!」

「えっ、私に払わせるんですか? ご飯も食べさせて貰って働かずにぐーたらしていても怒らない私に払わせるんですか? 世界の脅威を倒した私に払わせるんですか? こんなにアテアちゃんの事が大好きな私に払わせるんですか?」


「アレスティア…最後のもう一回言ってくれの」

「アテアちゃん…らぶです」


「……お腹の肉掴みながら言わないで」

「太りましたよね?」


「は? 女神は太らないのじゃよっ!」


 色々な世界から生命の宝珠をポチッて試したけれど、全て駄目だった。

 生命の宝珠に期待し過ぎたかな。


「そういえば他にも子供が出来る方法って無いんですか?」

「さぁ? 友達居ないから解らんの」


「リアちゃんは知らないんです?」

「ただで教えてくれると思っておるのかえ?」


「思わないですね。はぁ…子供欲しいなぁ…」

「…わっちを捨てるのかえ?」


「いや、子供が欲しいだけです」

「いやだからわっちを捨てるのかえ?」


「別にお世話してくれる人いるじゃないですか。蒼禍とかヘルちゃんとか」

「アレスティアが抱っこするのはわっちだけで良いのじゃ!」


 なんか決め台詞言ったみたいな顔しているから腹立つな。

 ただでさえ期待外れで落ち込んでいるのに。


「自分は他の人に抱っこされている癖に」

「ぐぅ…」


「とりあえず気分転換に出掛けてきます」

「何処にじゃ?」


「フーツー城ですよ。最新のニュースは知っておきたいので…あっ、レーナちゃん宜しくー」

「ん? はいー」


「アレスティアー!」

 レーナちゃんに幼女を渡し、部屋から出るとフリシアちゃんとミーレイちゃんに遭遇。

 魔導具技師のフリシアちゃん。あれから打ち解ける事はなく今に至るけれど、お互いに不干渉だからこのままで良いと思っている。


「アスティちゃん、最近迷い人が帝都に多いらしいわよ」

「へぇー。ミズキさんが迷い人だと公表したからですかね」


「そうね。変な人に絡まれないようにね」

「うん、私の方が変な人だから大丈夫だよっ」


 ……否定をしなされ。

 帝国や近隣諸国ではロンド…世界の脅威を討伐したのは、天使と勇者という事で伝わっている。

 勇者ミズキは迷い人という情報も一緒に。

 そうなると、迷い人が集まって混乱するかな…なんだっけあいつ…ヒロットみたいな奴とか多そうだし。


「天使と勇者に会わせろって言う人も多いから、気軽に殺しちゃ…めっよ」

「めっ戴きました。まぁ私よりも悪い奴なら容赦しないけれどねー。その前にリアちゃんが喜んで始末するか…俺ツエーって言う奴の心をバキバキにするのが趣味みたいだし…」


 フリシアちゃんはミーレイちゃんの影に隠れてチラチラ私を見ている…そんなうぶい反応だと襲っちゃうぞっ。


「あっ、そうだ。おば様が早く会いたいって言っていたわよ」

「別にパンパンに来てくれたら会うよ」


「あー多分会食がしたいみたいよ。付き合いのある方々と」

「ふーん、こっちの面子は?」


「アスティちゃん、私、フリシア…くらいかしら?」

「じゃあアテアちゃんも来るから四人だね」


「大丈夫? 女神様が来たら大混乱だよ?」

「うん、そのリスクを解って誘っている訳だから大丈夫でしょ。来週末にしよっか」


「じゃあ言っておくねー。あっ、何処かいくの?」

「フーツー城だよー。じゃあねー」


「あっ、待って下さい!」


 どうしたかねフリシアちゃんよ。

 何か渡してきたな…なんぞこれ? ぐにぐにしたアイマスク?

 なんかひんやりして気持ち良いな。


「これは目に着けるの?」

「はいっ、目を冷やす魔導具です。試作ですが…良かったら、使って下さい」


「ありがとう。大事にするね」


 よしっ、着けてみよう。

 …おっ、ひんやり気持ち良いぞ。

 これ温かいバージョンあったら嬉しいな。


「ちょっ! ちょっと待って下さい!」

「ん? 何?」


「それで外出るんですか!?」

「うん。どうせ目隠ししているから一緒じゃない?」


「だっ、駄目ですっ!」


 あっ、取られた……くれたんじゃないのかい。

 しょぼん。


「アスティちゃん、そもそも外では目隠しやめたら?」

「目が合った人が次々と砕け散っても良いのなら目隠しやめるよ。まだ魔眼の制御が甘いんだ」


「えー、三日前は取ってくれたじゃないの。左目だけ塞げば良いんでしょ?」

「念には念をねー。それに私の加護がある人は大丈夫なの」


 ミーレイちゃんが加護? と首を傾げ、青い髪の先が首筋から胸元へハラリと吸い込まれた。

 ついでに私の指も谷間に吸い込まれた。

 いいなー谷間。

 いいなー。

 指だけじゃ駄目だな。顔全体で堪能しよう。

 ふわふわー。

 いい匂い…ふぁー。


「加護ってなぁに?」

「私の星属性を流し込んだ人だぁよ。ふわふわー」


「今度詳しく教えてね」

「ふふっ、実践しようか?」


「是非……あっ、フリシアにもやってあげたら?」

「え? ミーレイさんっ」


 嫌がる事はしないよ。

 ミーレイちゃんに抱き付いてふわふわを堪能中なんだから。

 ……おっ、後頭部に作業着の感触。

 これは…フリシアちゃん……ふむ。


 顔をくるんと回転し、フリシアちゃんの胸元へ……おでこにボタンが食い込んだ。

 作業着が邪魔だな。


「嫌じゃない?」

「嫌じゃ、ないです。う、嬉しい…です」


「いや、そんな事言われたら調子に乗っちゃうよ」

「ぁ…あの…良い、です、よ」


 フリシアちゃんが緊張した声色で喋った後…ムルムーの部屋が勝手に開いた。

 ムルムー…私とフリシアちゃんを持ち上げて部屋に連行しないでおくれ。力持ちだね…強化魔法使えるんだな。


 ……あれ? ミーレイちゃん来ないの? ちょっと気不味いんだけれど…


「えっ、本当に良いの?」

「はぃ…ずっと、気持ちの整理が付かなかったんですが…気が付いたらアスティさんの事しか考えられなくて…」


 ……

 ……

 ……ふむ、フリシアちゃんとの距離は縮まったかな。


 さて、やっとパンパンから出られる。


 うーん…そのままフーツー城へ行くか、転移者が集まる帝都の様子を見てから行くか…


「ここに勇者ミズキと天使様が居ると聞いた。会わせて欲しい」

「んー? 居ませんよー」


「そんな筈は無い。ここに居る筈なんだ」

「だから居ませんよー。あっ、アスティさん行ってらっしゃい」


「レーナちゃん頑張ってねー。行ってきまーす」


 よしっ、フーツー城へ行こうっと。

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