性格は聖女っぽくないけれど、流石は聖女様だねっ

 

 黒騎士が剣を抜きながらゆっくりと近付く。貴族達がサーッと道を開けて避難…行動早いなっ。

 逃げる貴族達に目もくれない事から…狙いは奥に居る人か。


「アスティ、よろしくね。聖結界」


 ん? ヘルちゃんが自分にだけ結界を張った。ずるいぞっ。


「アスきゅん、よろしくねー」

「お夕寝の時間じゃ」


 おい、リアちゃんが幼女と一緒に帰った! 私も連れて行ってよー! 私を迎えに来たんじゃねぇのか? まぁ中立コンビだから居ない方が良いか。


 黒騎士は真っ直ぐと皇帝の方…というか私に向かって来ている。あの黒い剣はなんだ…呪われている。斬られたら普通の回復魔法が効かないタイプか。


 黒騎士が急に詰め寄り、私に剣を振り下ろしてきた。

 金属音が響き渡る…とりあえず様子を見たいからミスリルソードで受け止めた。


「誰を殺しに来たんですか?」

『…銀の魔力を持つ者』


「…私ですか。ならばベアトリスクの命令ですかね」

『…死ね』


 なるほど…ベアトリスクにはフーツー城で強襲したから、そりゃ怒っているか。コーデリア…いやアレスティアさんが私の居場所を知らせたんだな。確かアレスティアさんは伝達系統の能力だったと思う。


「お一人で来たんですか?」

『……』


「朧気ですが他にも反応があります…私を足止めする間に、裏切り者を殺すつもりですか?」

『シャドウエッジ』


 床から這い出た闇の刃が私の鎧を揺らす。

 闇は効かぬぞー。

 更に剣から闇の刃を私の後ろに飛ばした。


「きゃぁっ!」

「殿下っ!」


 ん? 第一皇女よ…何故逃げなかった。普通に斬られやがって…侍女さんもビックリしてんじゃん。

 皇帝さんが第一皇女に駆け寄り、魔力を送っている。


「ソルレーザー」


 他に被害が出る前に殺しても良いか。

 光の柱を落とすと、黒い鎧がドロドロと溶け…

 おや? 中身が無い。傀儡か?


「ごふっ…」

「殿下ぁ! 治癒士っ何をしているっ! 早く治せっ!」

「ヴァランティーヌ!」


 結構深かったか。

 侍女さんが半狂乱になって叫んでいるけれど、回復魔法が効かない様子…


「お任せ下さいっ!」

「アレスティア王女っ! お願いします!」


 おっ、アレスティアさんが回復に加わった。

 頑張れー。

 アレスティアさんの回復で傷が塞がり…安心した瞬間、塞がった傷が元に戻り血が溢れてきた。


「うそ…なんで効かないのっ!? グレーターヒール!」


 グレーターヒールでも効かないのか。落ちていた呪いの剣を拾ってみる。この剣…中々凄いな…能力だけ取り出せないものか…と、考えている場合じゃないか。私が回復すると周囲を警戒出来ないんだよなー。どうしよっかなー。


「はぁ…仕方ないわね…」

「あっ、ヘルちゃんよろしくー」


 三角座りで観戦していたヘルちゃんが、ツインテールを揺らしながら腕を組んで第一皇女へと歩み寄る。

 私をチラリと見て、警戒よろしくと眉を上げた。任せてー。


「どきなさい」

「今治しているんですっ!」


「邪魔よ。仕方ないから私が治すわ」

「ヘルトルーデ様…っ!」


 ヘルちゃんの目が白く輝き、倒れている第一皇女に触れる。

 神聖な力が溢れ、優しい光が辺りを包む。


「フェアリィタッチ」

 傷口が塞がっていく。

 …流石は聖女様、完璧だね。性格は聖女っぽくないけれど、完璧だねっ! …睨んじゃやぁよ。


「凄い…この力は…」

「……ん…んぅ…私は…」


「殿下っ! 良かった…良かった…ヘルトルーデ様、心より感謝申し上げます!」

「ふんっ、そこのアレスティア王女さんが治した事にして頂戴」


 不機嫌ヘルちゃん。きっとアレスティアさんが自分の好みじゃないから胸糞悪いんだろうね。

 特に喋りたくないのか私の方に来た。


「待って…ルーデ、ありがとう…」

「……礼なんていらないわ。貸し二つよ、姉さん」


「…ごめんね…私…」

「謝罪もいらない、帰るわ」


 普通貸し一つでしょ。欲張りさんめ。

 クールなヘルちゃんも可愛いぞっ。

 アレスティアさんが何こいつみたいな目で見ている…そういえば初対面だから解らないか。

 アレスティア王女が剣の師匠の第二皇女と言ったらアレスティアさんは焦るかな? 言いたいなー。


「待ってっ! あなたは…っ! 危ない!」


 アレスティアさんが声を向ける先は…あっ、第二皇子さん。背後から現れた黒騎士が天に向けた剣を…一気に振り下ろした。


『死ね』

「うわぁっ!」


 頭を真っ二つにする前にガキンッ…と剣がぶつかり合う音が響き渡る。私が剣を受け止め、第二皇子を後ろに弾き飛ばした。


 ……あれ? なんで私は第二皇子を助けたんだ? 助ける気なんて無かったのに。あの時…私が殺された時と同じ感覚だ…


「…ソルレーザー」


 黒騎士を光の柱で焼き付くす。やっぱり空っぽ。

 うーん…何故助けた。まるで……あっ、まさか…


 周囲を見渡すと…もう一体黒騎士が来ていた。

 黒騎士は真っ直ぐ走り…ん? あの魔力…あれは人が入っている。

 目指す先は…ヘンリエッテ。


「ミズキさん! 来るよっ!」

「くっ…身体が…」


 おいっ! ミズキどうした!

 何かの力で束縛されている…魔眼かっ!

 くそっ魔力を辿る暇は無い。

 予想以上に黒騎士が速い!


「ぁっ…ぅっ…」


 まずいっ! ヘンリエッテも束縛されている!

 間に合うか…

 黒騎士が振りかぶり、剣が真っ直ぐと振り下ろされた。


 目の前の光景がゆっくりと流れるような感覚…自然と深淵の瞳が発動していた。

 それでも、間に合わない。


 黒騎士の剣がヘンリエッテの脳天に接触し…


 ――ガキィィイン!


「「えっ…」」


 ヘンリエッテの頭に弾かれた…


「…ぶほっ」

 やべっ、思わず笑ってしまった。

 石頭どころじゃねぇだろ…

 その防御力どうなってんだ。

 装備の効果ヤバすぎでしょ。


「…ぶふっ」

 釣られてヘルちゃんも吹き出した。

 あの防御力ヤバくない?

 ガキィィインだってよ!

 何頭? 石頭? 鋼鉄頭?


「…金剛頭」

「ぶはっ…笑わせ、ないでよ…」


 ヘルちゃんがツボに嵌まってしまった。

 もっと笑わせたいけれど、もっとネタにしたいけれど、黒騎士をなんとかする方が先か。


 黒騎士の剣に炎雷が宿り、再びヘンリエッテを狙ってきた。

 流石にもう一回ガキィィインを聞くのは腹筋が耐えられない。


「ゆびーむ」

 黒騎士の手を貫く。

 最初からこうしていれば良かった。私にはもっと落ち着きが必要だね。


『くっ…』

「さて…その技、その剣には見覚えがあります。帝国を出てフーツー王国へ行っていたのですね、えーっと…ヒロットでしたっけ?」


 以前ライラ達を捕まえたヒロット…ヒロトか。

 雷牙王の剣は黒く塗り潰されているけれど、私には解る。


『……』

「ふふっ、前はリアちゃんが居た手前ルールを守りましたが、今回は情状酌量の余地はありません…無元流・鋼斬り」


 黒騎士の剣を跳ね上げ、黒兜に一閃。

 カラン…と黒兜が外れ、見覚えのある黒髪黒目の顔が現れた。


『……あの時の奴か。丁度良い…』

「さて、どうやって死にたいですか?」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る