エルフと鬼族
「「……」」
「よろしくね。エーリンちゃん」
朝の時間にエーリンの場所に戻って来た。
フーさんに抱っこされながら、私はエーリンを見詰めている。
エーリンの様子は一言で言うと不機嫌。
「長耳とは仲良く出来ません」
「エーリン…」
エルメシアのエロ…げふん、エルフと、エルドラドの鬼族は仲が悪い。理由は先祖代々続く、いがみ合い。
エルフは自然を愛するあまり、破壊的な鬼族を嫌って豊かな土地を広げていった。
鬼族はエルフの忠告を聞かずに自然を破壊…結果的に土地を奪われ憎むようになった。
幼い頃からおとぎ話や昔話で刷り込まれた結果、お互いに嫌い合う構図が出来てしまったという…なんというか…何処の地域でもある光景を大きくしたような感じ。
フーさんが私を下ろし…下ろす際にさりげなく尻を触ったのはスルーしよう。そしてフーさんがエーリンの前に立つ。
エーリンは警戒してフーさんを睨んで臨戦態勢だ。
「エーリンちゃん、今この場で鬼の子やら長耳と言っても意味が無いわ。私達は、レティちゃんの為に頑張るという共通のものを持っているじゃない」
「……長耳が土地を奪ったから、私達を枯れた大地に追いやったから…」
「それは一部のエルフが暴走した結果よ。それに、交換条件として迷宮をある程度操り、氾濫させない秘術を教えた筈」
「そんなの…知りません」
へぇー、そんなのあるんだ。少しずつフーさんが近付き、エーリンが少しずつ後ろに下がっていく。押されているぞエーリン! 頑張れー!
「それはおかしいわ。私の家系に代々伝わっているのよ。秘術を教え、納得した上で鬼族は土地を譲った…とね」
「嘘ですよ! 私達は知りませんでした!」
「あの、フーさん…その鬼族って…何鬼族なんですか?」
「…確か…黒髪の鬼族ね」
「黒鬼族…まさか…一人占めして」
あー…恐らく黒鬼族が秘術を一人占めして、エルフを悪者にしたのか。もし、黒鬼族が他の鬼族に秘術を教えていたら、エルドラドの迷宮は暴走しなかった。蒼き魔物が現れる事も無かったのかもしれない。
エーリンが少し混乱しているな。
「エーリン、少し落ち着いてフーさんの話を聞こ?」
「でも…でも本当かどうかも解らないです」
「本当だと思う。黒鬼族と一部のエルフは今でも繋がっていると思うし…」
フーさんはそんな事で嘘を吐かないし、隣国同士で仲が悪いのに、割りと平和に今でも存続している事が不思議なくらいだ。
エーリンをギュッとして、落ち着くまで待とう。
…あの…フーさん?
私ごとエーリンをギュッてしないで。
頭皮の匂いを嗅がないで。
「エーリンちゃん。私は味方よ。あなたの事…少しも嫌いだなんて思わないわ」
「……惑わさないで下さい」
「うふふ、惑わされてみるのも、悪くないわよ?」
「……嘘だったら…容赦しません」
エーリン俯きながらもフーさんを受け入れた…
大人の余裕を見せ付けたフーさんの勝利か。
…もう抱き締めなくても良いよ。エーリンのおっぱいが私の肺を圧迫して苦しいんだよ。
フーさんが離さないとばかりに力強く抱き締めている…エーリン、お願いだから抱き締め返すなよ。私が圧迫骨折になる…圧死も有り得るぞ。
「エーリンちゃん、お顔をよく見せて」
「……」
フーさんが私ごとエーリンを抱き締めながら、俯いているエーリンの顔を上げさせた。
……いや、何しとんの。
挟まれる私の身にもなっちょくれ。
……エーリンの腕がフーさんの腰に回ろうとしている…まずい…まずいぞ。どうする私!
横に逃げる…フーさんの拘束で難しい。
下に逃げる…エーリンおっぱいが邪魔で難しい。
腕もフーさんの拘束で動かせず…
動くのは頭だけ…仕方無い…エーリンの首筋を噛むか。
はむっ……
「ふむぅ…アレスティア…駄目ですよぉ…」
「レティちゃん…その気になっちゃったのね。お姉さん嬉しいわ」
その気になってねえよ。自己防衛だ。
おっ、フーさんが拘束を解いた。
よっしゃ逃げるぞー。
はっはっはー…エーリン? どうして邪魔するの?
駄目だよ。
駄目だからね。
…フーさんが居ると物語が進まねえな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「さて、北の扉に行きましょうか」
「はいー」
エーリンは調子が戻っていつも通りになった。
フーさんは私を抱っこしている状態なので、北の扉まで運んで貰う。
「ところでレティちゃん。帝都でアレスティア王女がレイン王国に居るって噂が出たわよ」
「あら、もう噂が届いたんですね。どうなりました?」
「一部が騒いでいる程度ね。因みに元婚約者はレイン王国に向かったみたいよ」
「ふーん。じゃあ早い所この迷宮を回っておさらばしますかね。私がレイン王国に居るっていう噂だけです?」
「なんかレインの王子と結婚する噂もあるわよ。罪な女ね」
えー…なんで嘘の噂が出回ってんだよ。
あれか、また捏造演劇のネタが増えるだけじゃねえか。
あっ…その噂の隙に、一度帝都に潜入しよう。
パンパンに張り巡らされた罠を回避出来れば…だけれどね。
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