初出勤は、のんびり過ごしたいですよね。
一般的な休日の闇、光の曜日の内、闇の曜日はお花屋さんで働いている。
薄く化粧をして、お花のマークのエプロンを着けて店頭へ。
「いらっしゃいませー」
「あら、アスティちゃん。最近見なかったけど風邪でも引いた?」
いつも赤い花を買う、噂好きなおば様がご来店。下手な事を言うと色々広まるので、無難に話を進めている。
「いえ、闇の日だけ働く事になったんですよ」
「へぇ、どうして?」
「他でも働いていますので、社会勉強というやつです」
「そうなのね。他って何処で働いているの?」
「まぁ、色々ですよ」
悪気は無いのは解るんだけど、あまり掘り進めないで欲しい。特事班は色々やる所なので、色々で済ます。説明が面倒だ。
「いらっしゃいませー。あっ、クロムさん!」
「やぁアスティちゃん。遊びに来たよー」
特事班の先輩、クロムさんが来店。近くに来たから寄ったらしい。気さくなお兄さんって感じ。
そういえば、私の女の子バージョンで会うのは初めてだな。
「前も思ったけど、本当に美人だねー。モテるでしょ?」
「ありがとうございます。でもクロムさん、一言多いですよ。そういう事は聞かないものです」
「いやー、ごめんごめん。年頃の女の子と話す事なんてないからさー。
五人くらいアスティちゃんの事見てる男の子が居るから…つい」
確かに見られているけど…みんな暇なのかなっていうくらい見られているけども…
「まぁ、良いですけど…あっ、このお花どうですか?クロムハートって名前なんですよ!」
銀の成分を含む、手の平サイズの銀色の花。値段はズバリ金貨三枚!凄く高い!パンケーキ100皿食べれる値段。
まぁ、手入れすれば二年…何もしなくても半年くらい咲き続けるから、お買い得なんだけど…
「へぇークロムハート…僕と同じ名前だね。綺麗に咲いて、なんか嬉しいな」
「金貨三枚と、ちょっと高めですけど、手入れすれば二年くらい咲き続けますよ。花言葉は…『いつまでも貴方を守ります』ですよ」
「…気に入った。全部買うよ」
「へ?全部?」
10本ありますけど…あっ白金貨三枚…まいど。
クロムさんに、クロムハートを綺麗な紙に包んで花束にして渡したら、子供の様に手を振って喜んで帰って行った。私も手を振り返す。
いやー、大人はお金の使い方が違うなぁ。
……隣でフラムちゃんも手を振っているけど、居たのね。
「アスティちゃん。今の人、格好良い人だったね。常連の人?」
「特事官の先輩になる人だよ。たまたま寄ったんだって」
「へぇー…やっぱり大人の男の人って良いよねぇ。見て、アスティちゃん。男の子達の反応」
フラムちゃんに言われて、周りを見る。悔しそうにクロムさんを眺める男の子達の姿。その中にバランも居るのは気のせいかな…
…大人になったら買えば良いでしょ。
フラムちゃんは現在暇らしい。友達は沢山居るのに遊びに行かないのかな?お店のベンチに座ってニコニコしている。
「そういえば店長がフラムちゃんも働いても良いって言ってたけど、どうする?」
「良いの?じゃあアスティちゃんと同じ日に働く!」
一緒が良いらしい。まぁ、店長と二人で店番はレベルが高いからね。その前に学生だから週末しか働けないか。
来週からフラムちゃんと一緒に働ける。仕事が終わったら部屋に連れ込める…次の日も休日だからお泊まりも出来る…素晴らしい。
「フラムちゃんってお泊まりとか出来る?」
「うん?どうだろ?行く所がハッキリと解れば良いかも…なんで?」
「お仕事終わったら、私のお部屋に泊まりに来て欲しいなぁーってさ…」
「…アスティちゃんと…お泊まり…したい」
そうかそうか。フラムちゃんも同じでお泊まりしたいのか。モジモジして可愛いなぁ…流石に今日は急だから、来週から。
泊まるなら、フラムちゃんの家に挨拶しなきゃ。でも…娘さんを連れ込みます?娘さんを預かります?娘さんを下さいは違うか…まぁいいか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
週が明け、私は特事班の詰所へやって来た。
地味な服装と、地味眼鏡。誰にも注目されないのは素晴らしい…
初出勤という奴だ。緊張ですね。中に入ると、いつもの通りミリアさんがお出迎え。
ミリアさんは平日のみの出勤。闇と光の日は騎士団の人が居るらしいけど、私は平日のみなので会う事は無いかな。
「おはよう。アスティちゃん」
「おはようございます!」
「ふふっ、元気ね。しばらくは、チームの誰かと組んで活動ね。仕事の感覚を掴むのが先だから」
親好を深めるのも含まれるのかな。今日はレジンさんが騎士団の訓練場で訓練しているのを見学したら、詰所で勉強。なので、騎士団の基本資料を持ちながら訓練場へ向かう。
訓練場は、騎士団本部を挟んで向こう側。
訓練場は、屋外訓練場と屋内訓練場がある。
屋外訓練場は数百人が一度に訓練出来る広さ。騎士団のイベントが開かれる場所でもあり、今でも五十人程訓練している。
屋内訓練場は、訓練は勿論、講習や個別指導等に使われる事が多い。
レジンさんが居るのは、屋外訓練場。なので、到着したら解る筈なんだけど、皆似たような身体の大きさなので解りずらい…
眼鏡が邪魔だけど、目を凝らしてレジンさんを探す。
うーん…あれかな?
トコトコ歩いて大きい男達に近付く。みんな大きいなぁ…ニメートルあるかな?
その中で色黒の大きい男性の顔を確認。
良かった、レジンさんだ。
レジンさんは30代で、色黒のスキンヘッド。動きやすい格好なので、冒険者にも見えるけど騎士団の一員。
「レジンさん、おはようございます。アスティです」
「おー!アスティか!最初は見学だったな。見てて良いぞー」
近くにあったベンチに座って見学。
誰かの訓練を見るのは楽しい。戦い方が解るし、勉強になる。見とり稽古という奴かな。
五人の騎士をレジンさんが指導している。
レジンさんは指導員として有名で、数多くの騎士の育成してきたって資料に書いてある。
資料には他の人も書いてあるけど、また後で見よう。
レジンさんは、帝国流剣術を指導している。攻守のバランス良い剣術で、正々堂々戦う感じ。
それに比べて無元流は攻撃特化の、悪・即・斬という感じかな。
無元流の話はまた今度という所で、訓練の様子を眺める。
片手の長剣を持ち、振り下ろしの素振りと横凪ぎの素振り。
レジンさんは、斬るタイミングで力を入れているから綺麗なフォーム。
他の騎士は最初から力が入っている。あれじゃあ軌道がブレるな。
あっ、レジンさんが指摘してる。流石は指導員、教え方も上手い。
ふむふむと眺めていると、隣に誰かが座った。
「お前、見ない顔だな」
「ええ、ここに来るのは初めてなので」
少年?私と同じくらいかな?水色の髪のやんちゃそうな顔付き。騎士の制服を着ているから、騎士団の人かな?
「ふーん。俺、ダグラス。お前は?」
「私はアスティと言います」
「地味な奴だなー。剣は出来るの?」
「帝国流剣術は出来ませんよ」
地味な奴と褒めてくれたけど、帝国流剣術は出来ないと答えたら、詰まらなそうな顔でレジンさん達に視線を移した。
ダグラスは帝国流剣術主義者かな?たまに居るんだ、この剣術以外は剣術じゃないって言う奴。
人それぞれ合った剣術があるのに、自分の剣術を押し付けようとする奴も居る。
「あの特事官のおっちゃん強いんだよなぁ…まだ勝てないし」
「綺麗なフォームですよね。指導員になれる理由が解ります」
あっ思い出した…ダグラスって11歳で騎士団副団長補佐官に任命されたスーパー少年か。
へぇー。将来有望ですねぇ。
レジンさんがこちらにやって来た。
「おっ、ダグラス。また戦いに来たのか?」
「おっちゃん。戦ってくれよ」
「良いぞー。それかアスティと戦ってみるか?他の流派と戦うのも訓練だぞ?」
レジンさん…何を言ってるんですか?嫌ですよ。今日はのんびり過ごしたいんですから。
ダグラスがこちらを期待した目で見てくる…
はいはい…戦いますよ…
「レジンさん。今日はのんびり過ごしたかったんですけど…」
「いや、悪い。俺もアスティの剣術見たくてな…昼奢るから許してくれ」
「まぁ、それなら良いですよ」
屋内訓練場にやって来た。
中では数人打ち合っているだけなので、広く使える。
固い床だから、転んだら痛そう…
訓練用の木剣が並んでいるので、どれにするか悩む。
女性用の木剣があったので、その中でも一番小さい木剣を手に取った。
「なんだお前、女用の木剣使うのか。男なら、大きい奴だろ!」
「重い剣は苦手なので…」
男とか、女とかそういう事に拘るのは男の子って感じだな。
ダグラスは大きい木剣。私は小さい木剣を持ち、向き合う。
ニヤニヤしているレジンさんが中心に立ち、審判をする。
「よーし!一撃で終わったらごめんな!俺強いから!」
「じゃあ私は頑張りますね」
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