ダスティと琥珀の間とクトゥルーの呼び声

ペンネーム梨圭

プロローグ

 自分悪くないもん。

 何もない部屋に入れられた少年は鼻を鳴らした。

 ここは養護施設の反省部屋という何もない部屋である。問題を起こすと入れられる。自分の場合、いじめられたから倍返ししたまでだ。相手は人間と普通のミュータントで手加減した。自分はマシンミュータントと呼ばれる機械生命体で農薬散布飛行機に変身できる。

イジメっ子はいつも待ち伏せしていて自分だけでなく他の人間の子供をいじめることで学校では有名だった。いじめられて泣くことはなくやられたらやり返していた。問題起こすたびに養護施設の園長と副園長が学校にあやまりに行っていた。自分としては同じマシンミュータント居住区でそこの学校だったら問題ないと思う。自分のいる施設は人間が多く住む地方都市にある。

 少年は腕にはめてあるメタリックに輝く腕をつかむと引っ張る。しかしそれはマシンミュータント専用の制御装置で変身できないようにする。簡単には外れなかった。

 少年は目を半眼にして腕輪の装置のシステムに侵入を試みた。しかし入れなかった。

 部屋に入ってくる老魔術師。

 「おじいさんもマシンミュータントなんだ」

 少年はこの老人が人間や普通のミュータントではなく自分と同じマシンミュータントであることに気づいた。何と融合しているのかわかる。帆船ヴィクトリーで二百年以上前の帆船と融合しているのに驚いた。

 「また反省部屋に入れられたのだね」

 老ミュータントは笑みを浮かべる。彫が深い顔にさらに深いシワが刻まれる。

 「イジメていたから倍返しした。それだけ」

 当然のように言う少年。

 「強い子だのう」

 白いあごひげをなでる老ミュータント。

 「僕のノートも隠したから変身して屋上から吊るしてやったんだ」

 少年はフン!と鼻を鳴らした。

 相手は人間と普通のミュータント。特殊能力でない限り空は飛べない。頭に来てつかんで空を舞い屋上に吊るした。そしたら戦闘機のミュータントに自分は押さえつけられ養護施設に戻された。

 「おまえさん。不思議な瞳の色だのう。左右の色がちがうのは初めてだ」

 老人は笑みを浮かべる。

 「よく言われる。青色と紫色なんだ」

 首をかしげる少年。

 「おまえさんはもう十二歳だ。ワシと外国へ行かないかね。ここは人間ばかりだからそこはマシンミュータントが多い地区になる」

 頭をなでる老人。

 「え?僕が?」

 「もちろん学校行きながら働く事になる。そこの農場に下宿することになる」

 「そうなんだ。同じ航空機のミュータントなの?」

 「そうだよ。ワシの知り合いだ」

 「そうなんだ」

 「新しい場所でやりたいことをやりなさい」

 「でもマシンミュータントは職業や居住区の制限がある。人間やミュータントほど自由じゃない」

 うつむく少年。

 「いいかね。マシンミュータントの少年よ。夢ややりたい事、目標を持つ事はマシンミュータントでも必要なのだ。ワシはアコードの理事長もやったしアコード部隊の総司令官もやっていた。そして国連職員として旅の魔術師をしている」

 「だから?」

 「マシンミュータントの少年よ。大志を抱け。自分の可能性を信じるのだ」

 老人は少年の肩をたたいた。

 少年は深くうなづいた。

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