閑話. シラユキさんの一日①

 

 シラユキさんの朝は早い。


 朝の4時位だろうか、まだ日の出る前に目を覚ます。もちろん、他に目覚めている者はいない。


 起きて、まずダークエルフ女からおっさんを引き離す。

 本当はおっさんと二人で寝たい。だが一人だけ仲間外れは可哀想だとおっさんが言うので、

 やむなく三人で寝ている。ダークエルフ女はおっさんにしがみついて寝ていることが多い。生意気だ。なのでとりあえずおっさんから引き離す。おっさんとダークエルフ女の間に体をねじこみ、ダークエルフ女を足蹴にすると同時におっさんの体を押してゴロンと一回転させる。

 基本的に、おっさんは一回転させた位では目を覚まさない。足蹴にしたダークエルフ女の方も、何やらうなされてはいるが目を覚まさない。都合がいい。

 ダークエルフ女を引き離すことに成功し、満足そうに頷くシラユキさん。ミッションコンプリートである。


 次にシラユキさんはまだ寝ているおっさんの懐に潜り込む。するとおっさんは、寝ぼけてギューっと抱きついてくる。ニヤニヤがとまらない。普段はとても頼りになる大人なおっさんがまるで子供のようにしがみついてくるその様は、胸をキュンキュンさせる。これが母性か。

 頭を優しく撫でてやりながら、おっさんの温もりと匂いを堪能する。

 おっさんはとても温かい。これだけ温かければ、冬でも凍えることは無いだろう。そしておっさんは独特の匂いがする。イヤな匂いではない。今まで嗅いだことの無い、なんというかとても安心できる匂いだ。フンフンと匂いを嗅ぐ。常にこの匂いを嗅いでいたいが、起きている時にこれをやるとおっさんは嫌がる。何でも「かれいしゅー」とやらを気にしているようだ。よくわからない。なので寝ている時に思う存分嗅ぐことにしている。

 そうこうしている内に眠気が襲ってきたので、おっさんの温もりと匂いに包まれながらシラユキさんは二度寝する。


 それから2時間くらいして外が明るくなってきた頃、シラユキさんは再び目を覚ます。

 またダークエルフ女がおっさんにしがみついているので引き離す。懲りないやつだ。

 おっさんはまだ気持ちよさそうに眠っている。このまま寝かせてあげたいのはやまやまだが、そういう訳にもいかない。なぜならお腹がすいたからだ。


「おっしゃーん」


 ぺちぺち顔を叩いてみるが起きない。ほっぺにチューしてみよう。


『ぶっちゅぅぅぅー』


「う・・うぅん・・」


 まだ起きない。もうペロペロしてしまおう。


『ぺろぺろぺろぺろ』


 ちょっと楽しくなってきたシラユキさん。


『ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺr』


「ふはっ!くすぐったい!!」


 残念、起きてしまった。


「ちょ、シラユキくすぐったいよ・・お腹すいたの?」


「あい!」


「ちょっと待ってて。今、朝ごはんつくるから」


 そう言っておっさんは朝食の準備に取り掛かった。

 ちなみにダークエルフ女はまだ寝ている。シラユキさんはちょっとイラッとしたので、口と鼻を押さえてやった。


「・・・・・・・ぶはっっ!!え・・な・・何?何が!?」


 ようやく起きたようだ。何やらわたわたしているが、放置しておっさんの所へ向かう。朝食の手伝いをする為だ。シラユキさんは出来る女なので。どっかの残念エルフとは違うのだ。


 今日の朝ごはんは「わしょく」だ。何でもおっさんの故郷の料理らしい。

「わしょく」は、さいきょーだとシラユキさんは思っている。特に「こめ」は素晴らしい。ふっくらツヤツヤ、口に入れると温かくほろりとくずれて、噛めばほのかに広がる穀物の甘み。しかもどんな料理にも合う。おっさんが料理上手ということもあるのだろうがこんな美味しいものを知ってしまったらもう、今までの食事では満足出来なくなってしまった。

 これはもうおっさんに責任をとってもらうしかない。うん、そうしよう。

 将来を想像するシラユキさん。大人になってボンキュッボンなレディへと成長した自分とそのそばに寄り添うおっさん。ニヤニヤがとまらない。


 朝食を食べた後は、お勉強タイムだ。

 立派なレディになる為には教養が必要だからだ。

 文字の読み書きと計算を教わっている。おっさんは「きゃんぴんぐかー」の運転で手が放せないので、不本意ではあるがダークエルフ女から教わっている。ダークエルフ女は子供の頃、家の中で本ばかり読んでいたので文字の読み書きや計算が出来るそうだ。生意気だ。


 お昼ごはんは「なぽりたん」だ。フォークでくるくる巻いてチュルチュル食べるやつだ。かなりテンションが上がるシラユキさん。何を隠そう「なぽりたん」は、シラユキさんの「好きなものランキング」第3位にランクインしているのだ!

 おっさんが用意してくれた、持ち手のところにウサギさんの模様がついた可愛らしいフォークでくるくると「なぽりたん」を巻いていく。口に入るギリギリの大きさまで巻いた後、かぶりつく。うんまあーい!野菜の甘みと酸味、もちもちした麺の食感・・味の宝石箱やー!!一心不乱にかぶりつき、チュルチュルすする。


「・・シラユキ、口のまわりスゴイぞ?」


 おっさんが、濡れた布巾で口のまわりをキレイに拭いてくれた。

 それを見ていたダークエルフ女が、口のまわりに「なぽりたん」を塗りたくっている。


「ご・・ご主人様。私も口のまわりに・・・」


「あ、ほんとだ。ほらこれで拭きな?」


 そう言って濡れた布巾を渡すおっさん。


「あ・・はい・・・」


 顔を真っ赤にして自分で拭くダークエルフ女。ばかめ!ただの行儀わるい人ではないか。わたし?わたしはいいのだ、まだ子供だから。と悪い笑顔のシラユキさん。


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