2. おっさん、事案発生
「まぁ冗談はさておいて・・」
「いや、冗談じゃなかったですよね今の。いいかい、ああいう人には絶対に近づいちゃいけないよ?あれはね、ロリコンていう性犯罪者なんだ」
美幼女に言ってきかせるヤクザ神。
「ロ、ロリコンちゃうわ!ちょっと他人よりストライクゾーンが広いだけやし!!」
「おまわりさーん、こっちです。」
「おい、ヤメロ。おまわりさんは卑怯やぞ」
美幼女は右手でヤクザ神にしがみつき、左手で防犯ブザーをいつでも鳴らせるようにスタンバイ。
まずい、このままでは事案発生だ。話を逸らそう。
「その子が、あんたの・・?」
「はい、娘です!」
ドヤ顔のヤクザ神。
おずおずといった感じで前に出る美幼女。
「・・かばってくれてありがとう、おじちゃん」
尊い。
「ちゃんとお礼言えてえらいね。ケガしなかった?」
「うん、へいきー」
「そっか、良かった・・」
「 まぁ、我々は車にはねられた位じゃ掠り傷ひとつ負わないんですけどね。あっ・・」
え?今なんつった?
「それって、俺が余計なことしなくても問題なかったって事?もしかして俺、犬死に・・?」
フイッと目を逸らすヤクザ神。膝から崩れ落ちる俺。
「ははっ・・犬死にかぁ・・俺の人生なんだったんだろうなぁ・・」
「いや、結果的にはそうかもしれませんが、身を挺して子供を助けようとしたその行為が尊いのです!」
ヤクザ神のフォローが余計に痛い。
項垂れていると、背中をさする小さな手のひらの感触。
「おじちゃん、おなかいたい?だいじょぶ?」
心配そうにこちらを見る美幼女。
そうだ。俺は一体何を落ち込んでいるのか。美幼女は無事だったんだ。それでいいじゃないか。
心配してくれている美幼女の頭を撫で、立ち上がる。
「すまん、取り乱した。もう大丈夫だ。話を進めてくれ」
ヤクザ神は美幼女を抱き上げ遠ざかると、おもむろにアルコールを取り出し、美幼女の手を消毒する。
「変なものさわっちゃいけませんよ。めっ!」
「おい、俺が泣いたら手がつけられねえぞ?」
消毒が終わった所でヤクザ神が話し始める。
「先程申し上げました通りお詫びとして、異世界に転生させていただこうと思います。その際、生活に困らないよういくつかの特典をつけさせていただきます。また、遺体をこっそり回収してありますので、それを修復して今の記憶を持ったまま転生可能です。ちなみに転生先は、剣と魔法の世界です。」
ちょっと興奮してきた。
異世界転生、チート無双、奴隷ハーレムで俺TUEEE。おっさんワクワクすっぞ。
「それじゃ、とりあえず魔力量は常人の100倍くらいでー・・」
「あ、それ無理です」
「は?」
「地球人は魔力器官をもっていないので、今の肉体ベースで転生、正しくは転移かもしれませんが、した場合魔法は一切使えません。」
「え、それじゃむこうで新しく肉体を造ったりとかは?」
「その場合、今の記憶は全て失うことになります。記憶は脳に紐付けされたものなので。どちらになさいますか?」
「・・記憶を持ったままで」
さすがに記憶を失うのはちょっとね・・。
「承知しました。まぁ魔法が使えない分、肉体を強化しておきますので。他の特典はどんなものがよろしいですか?」
「他人のスキルを盗む能力とか・・」
「他人の物を盗むとか・・それはどうなんでしょうか?」
ここでそんな常識を持ち出すなよ・・いやまぁ正論だけど・・。
「うーん・・それじゃネットショッピング機能とかは?」
「ネットショッピングですか?」
「そう。地球にある物を購入する事が出来る機能」
「それはちょっと厳しいかなぁ・・」
「よく考えてみて。この恵まれた日本でぬくぬくと生きてきた俺が見ず知らずの土地で、いやそれどころか見ず知らずの世界でまともに生きていけると思う?」
「たしかにそう言われると・・いや、でも・・」
「あーあ・・犬死したと思ったら、今度は異世界で野垂れ死ぬのか・・ははっ・・。」
「わ、わかりましたよ・・こちらの責任でもあるわけですし・・」
マジで?やっふー!言ってみるもんだね!!
「ただ、無制限というわけにはいきませんよ?そうですね・・魔石と交換で購入出来るとかどうですか?」
「魔石?」
「はい。むこうの世界には魔物がいるのですが、それを倒すと魔石が手に入ります。それと交換ということなら、むこうの世界の維持管理の手助けになりますし」
「そうなん?」
「ええ。あまり魔物が増えると人類の生存圏がどんどん縮小されて、あまりよろしくないのです」
「じゃ、それで!」
「承知しました。それと生活に困らないよう言語理解スキルと、鑑定スキル、インベントリ、それと初期費用として100万円ほどネットショッピング出来るようチャージしておきますね」
100万円!?太っ腹じゃないですか!!
「あざーす!!」
「こんなところでしょうか?なんでもかんでも揃えてしまうと愉しみも無くなってしまうと思いますし」
そうだね。レベルアップする愉しみってあるよね。むこうの世界にレベルがあるのかしらんけど。
「あ、最後にもういっこだけ。」
「なんでしょうか?」
「娘さんの写メ撮らせ『ぴーーーーーーーー』美幼女が防犯ブザーを鳴らす。
と同時にヤクザ神が天井からぶらさがる紐を引っ張ると俺の足元の床がパカッと開き、落下。
「ちょっ・・」
「それでは十条 修様。あなたの新しい人生に幸多からん事を。」
額に青筋を立てたヤクザ神がそうのたまう。
防犯ブザーの音を聞きながら、俺の意識は暗転した。
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