第6話 不良と地味子と空手と歴女は熱き海の秘宝を求む⑩

 3枚目の水位上昇カードを引いたのは篠原だった。


「あちゃー。来ちゃったね」


「幸い『愚者の発着場』は水に浸かってない。このタイミングで水位上昇カードが出てくるのはむしろラッキーだろ」


「ありがと、マコトさん」


 笑って応じて、篠原は浸水の処理を進める。いきなり『発着場』が出てしまったがこれはさほど怖くない――と、思っていたら残りの2枚が両方とも浸水中のカードだった! うーん、やっぱりタイルがなくなるのはキツいな。


 とは言え状況は悪いばかりではない。一つ前の手番で梶井さんが待望の『風の像』を入手しているし、篠原の手番で瀞畝に4枚目の『大地の石』が渡っている。加えて全ての水位上昇カードが出きったため、財宝カードの山がリセットされるまでの間、水位上昇のリスクを気にせずにプレイすることができるのだ。


 ちなみに財宝カードの残りは――2枚。何だ。オレが補充したら即リセットだ。


「春川さん、今回はどう動くつもりですか?」


 と、梶井さんがオレに尋ねた。


「今のところは渡せるカードもないし、ともかく『愚者の発着場』の補強を優先するつもりだが?」


「でしたら――ヘリコプターカード使って移動するというのはどうですか?」


「確かにそうすれば補強できる枚数がぐっと増えるな」


「でも、ヘリコプターカードって脱出にも使うんでしょ? そんなポンポン使っちゃって良いものなの?」


「逆だよ、マイちゃん。今使っておけば財宝カードの捨て札に移動するんだから、トータルで使える枚数は増えるはず。だから、瀞ちゃんが持っているカードを使わせて欲しいな」


「うーん、そっかぁ」


 どことなく消極的な態度でそんなことを言う。


「篠原も同じカードを持っているが、どうせなら瀞畝のを使いたい。お前は財宝カードを集める担当でもあるから、なるべく他のカードを持っていない方が良い」


「……我が宿敵がそこまで言うなら、わかったよ。出ろおおお! ヘリコプターああああ!!」


 瀞畝はカードを捨て札にすると、指をパチンと鳴らして言った。


「移動先はオレが決めて良いんだな? なら、ここに移動して……一気に補強するぞ!」


 機動武闘感のあるヘリで島の南西に移動したオレは、まずタイルを2つ補強し、さらに『黄金の門』まで移動して、『発着場』も補強する!


「さすがエンジニアですね。今のでかなり戻りましたよ」


 続く財宝カードの補充では、土嚢と『炎の水晶』をゲットする。これで2枚目か。補強役のオレのところに財宝の手がかりが集まるのはちょっとな。


 ともあれ浸水カードを引こう。って、瀞畝がいるタイルが沈んだぞ!


  □■

 ■沈■□

■梶■ □■□

★春篠■ ■

 ■  □

  ■


【■:通常のタイル □:浸水タイル ★:愚者の発着場 沈:沈んだ瀞畝】


「ぶくぶくぶく。こういう場合はどうなるんだっけ?」


「次の手番に隣接するタイルの上に移動できればセーフだよ。ゲーム続行です」


「ほっ。それなら次がボクの番だし、脱落しなくて済みそうだね」


 瀞畝は安堵の息を吐き出しながら、『月光の神殿』に自分のコマを動かした。


「上陸ー。がおー。でもって『大地の石』をゲット!」


「これで残る財宝は2つですねっ」


「残り1アクションをどうするかだけど……」


「水の杯を目指すよ! 危険なことに挑戦するのは、探検家の仕事だからね!」


 瀞畝が浸水カードを引いたことで顕著になったのだが、島は左右に分断されつつあった。


 上下左右にしか移動できないオレと篠原はもう、ヘリコプターカードを使うことなしに東側に行くことすらできない状況だ。


 厄介なことに、残る財宝の1つ――『大海の杯』が入手できる『満ち潮の宮殿』は島の東側にあった(同じく『大海の杯』が入手できる『珊瑚の宮殿』はさっき沈んだ)。


 誰かが行かなければならない。それは間違いないが――本当に瀞畝で良いのだろうか? 確かに探検家であり斜め移動できる瀞畝なら、ヘリコプターカードを使わずとも島の東側に渡ることはできるだろう。しかし、戻るときはどうなんだ? あと1つ2つキーとなるタイルが沈んでしまえば、たちまち立ち往生してしまう。ここはやはりダイバーの梶井さんに任せるべき局面なのでは――?


 そこまで考えてから、オレはおっかなびっくり浸水カードを引こうとしている瀞畝を見る。


 ――何なのだろう。この違和感の正体は。


 確かに瀞畝は突拍子もないヤツだ。道場でもトラブルメーカーとして知られていて、空手バカ一大事とも呼ばれていた。


 しかし、オレは知っている。瀞畝ほど一生懸命なやつはそうそういないってことを。空手と友達のことは、特にそうだった。


 そんな瀞畝があえて危険を冒す判断をしたことには、何か相応の理由があるのではないか――。


「マコトさん、急に黙り込んじゃって、どうしたの?」


 篠原に声をかけられて、オレははっとそちらを見る。瀞畝が引いた浸水カードを水没してしまったタイルとともに片付けているところだったようで、手元に『置き去りの断崖』と書かれたタイルが置いてあった。


「あっ」


 違和感の正体に気づいて、オレは思わず声を上げる。


「瀞畝――」


「なにー?」


「ゲームを進める前にちょっと確認したいことがある」

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