第5話 不良と地味子と低血圧子は城塞都市を再建する⑤
「先にゲームの準備を済ませておこう。まずは木のコマを袋から開けて、自分の手元に広げてくれ。このコマが手元に何個あるかは重要な情報なので、重ねておかない方が良いだろうね。それから――」
ウタゲが何かを言いかけたままタイルの山を崩し始めると、すかさず篠原が一枚のタイルを差し出した。
「はいウタちゃん」
「もう見つけてたんだ。ありがとう、ユウちゃん」
ウタゲはそのタイルをつまみ上げて、秋風のように涼やかな笑みを浮かべた。
「そいつだけ、裏面の色が違うな」
地形タイルの裏面にはいずれも『C』とかいてある。おそらく
「うん。これはスタートタイルと言ってね。はじめはテーブル中央にこのタイルだけを表にして置くんだ」
スタートタイルの表には、草原を横切る一本道と、U字の城壁に囲まれた都市が描き込まれている。なるほど。これがわずかに遺った古い時代の城壁というわけだな。
「次に手元にある手下の一人をこの得点ボードの上に置いてもらえるかな」
「得点ボードってことは……はじめは0のところに置けば良いのか?」
「そうだね」
ウタゲは自らも小さな長方形のボードに木のコマを置きながら言った。ボードには城壁と環状の街路が描いてある。街路はマス目状になっていて、0から49までの数字が順番に振ってある。
「ゲーム中にポイントを獲得したら、都度、自分の手下を先に進めていく。さしずめ彼らは書記官といったところかな」
「彼ら? ああ、そうか。こいつら人なのか」
「そうだね。ちなみにボードゲーマーの間ではこういった人型のコマをミープルと呼ぶ」
そう言われると、さっきまで大の字型にしか見えなかったコマが、人のかたちに見えてくるから不思議なものだ。
「あとは残りのタイルを裏向きにしてよく混ぜれば準備完了。というわけでゲームの進行について説明していこう」
「おう。よろしく頼むぜ」
「……カルカソンヌはサムライと同じように、時計回りに自分の手番が回ってくるタイプのゲームだ。自分の手番が来たら、まずは裏になっているタイルのうちどれか1枚だけを選んで表にする。実際にやってみよう。えいっ」
ウタゲが選んだのはU字型の城壁に囲まれた都市二つがこんな感じ(→『⊃⊂』)に向かい合わせに並んだタイルだった。
「引いたタイルは既に表になっているタイルと縦か横に隣り合う場所に配置しなければならない。斜めはダメ。なので、この場合はスタートタイルの四方いずれかに置く必要がある」
そう言って、ウタゲはスタートタイルの手前に今引いてきたタイルを置く。すると、スタートタイルのU字城壁と新たに置かれたタイルのU字城壁の一方が繋がって、ぐるりと都市を囲む形になる。
「この時注意しなければならないのは、繋げるタイルの辺同士が同じ地形でなければならないということだね。今置いたみたいに都市の辺には都市を繋げる。同じように草原の辺には草原を繋げなければならない。草原に道が伸びている場合はそれも繋いでいかなければならない。したがって――」
指先で器用に『⊃⊂』のタイルを90度回転させる。
「こういう置き方はできない。スタートタイル側が都市であるのに対して、新たなタイルの側は草原だからね」
「同じ向きでこっち側に置くなら、両辺とも草原だからOKってことで良いのか?」
「うんうん。そういうことそういうこと」
「なるほど。パズルみたいでちょっと面白いな」
それからオレたちはタイルの繋ぎ方について、実際にいくつかのタイル並べて確認した。
「さて、とにもかくにもタイルを置いたら、その上に自分の手下をのせることができる。そうすることで、その場所が自分たちのものだと主張するんだ」
「手下を使って縄張り争いをするわけだ」
「カルカソンヌのタイルは都市と道、草原、それに修道院の四つの地形の組み合わせでできている。手下を置く場合は、そのどれか一つの地形の上に置かなければならない。例えば――」
ウタゲは『⊃⊂』のタイルを再びスタートタイルの手前側にくっつけながら続ける。
「この場合は、スタートタイル側の都市か、その反対側の都市か、または中央の草原の三つのうちどれか一つにコマを置くことができる」
「置くことができる、ってことは置かなくても良いんだな?」
「うん。タイルを引くのはマストだけど、コマを置くのはメイだ。ただし、このゲームはコマを置かないことには点数を得ることができない。というわけで、地形ごとの加点ルールについて説明していこうと思うんだが、ここまでで何か引っかかったことはあるかな」
「大丈夫だ。まぁまぁ複雑そうだけど、今のところは何とかついていってるぜ」
「ありがとう。じゃあ、続けるよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます