第4話 不良と地味子は身成り余る処を以ちて身の成り合は不る処を刺し塞ぐ④
漫画喫茶『アクメシオ』は平日だというのに中々混み合っていた。漫画やインターネットだけでなく、カラオケ、ダーツ、ビリヤードなども遊べるということで、暇を持て余した大学生や専門学校生の利用が多いようだ。
「じゃあ受付してくるね。マコトさんはここで待っててー」
あ、おい。頼んだのはこっちなんだから、オレが行くよ。そう言うよりも先に、篠原はレジカウンターに向かっている。ほんと、ボードゲームが絡むと積極的になるヤツだ。
仕方なしに待合スペースのソファで、篠原の荷物を膝の上に乗せて待つことにする。うーん、人に雑事をやらせて自分は何もしないでいる時間って、なんでこんなに居心地が悪いんだろう。
「お待たせー。69号室だって」
幸い篠原はすぐに戻ってきてくれた。のは良いんだが――。
「その手に持っている謎の灯りは何なんだ?」
「アロマランプ。無料キャンペーン中なんだって」
「へー」
試しにランプに顔を近づけてみるが、何も匂わない。
「あはは。まだオイルを垂らしてないよ?」
篠原がそう言ってもう一方の手に持ったアロマオイルの小瓶を振った。
「ああ、そっか。ちなみに何の香りなんだ?」
「パチュリー」
「ふーん。どんな匂いがするんだろ」
「あたしも初めてだからわからないけど、楽しみだねー」
そうこう言ってるうちに、69号室に到着した。
篠原はアロマランプを机の上に置くと「ゲームの準備を頼んでも良い? あたしは飲み物を取ってくるよ」と言って、部屋を出て行った。
残ったオレは、言われたとおり、ショッピングバックから篠原が持ってきてくれたゲームの箱を取り出すことにする。
改めて見ると、ザクロを思わせる赤箱は、縦横に大きいだけでなく厚みもかなりのものだった。重量もある。オレはこんな大荷物を嫌な顔ひとつせず持ってきてくれたクラスメートに感謝しつつ、『Ubongo 3-D』と書かれた上蓋を外した。
中には宝石風の得点チップ、サイコロ、砂時計に加えて、紙製のボードと樹脂製のブロックが大量に入っている。
樹脂製のブロックは赤、青、緑、黄色のいずれか色で塗られていて、複数の立方体をつなぎ合わせたような形状をしている。L字型、凹型、凸型、なんとも形容しにくいぐにゃぐにゃ型……。
Ubongo 3-D――ウボンゴ3Dはこのブロックを所定の形に組み上げていく立体パズルのゲームだ。
はじめにプレイヤーは共通のシンボルが描かれたボードのうちの1枚を受け取る。
全員がボードを受け取ったら、プレイヤーのひとりがサイコロを振って、各自、出た目に対応したブロックを受け取る。このブロックを、ボードに描かれたマス目からはみ出ないようぴったり二段積みにするのだ。
準備ができたら砂時計をひっくり返してゲームスタート。砂が落ちきるまでにパズルを完成させたら「ウボンゴ!」と叫んで勝ち名乗りを上げるのだ。
ウボンゴ。先日ウタゲから勝ち名乗りについての説明を受けたときは、なんだそりゃと思ったものだが、実際に遊んでみてわかった。
先にウボンゴされるとめちゃくちゃ悔しい。
そして先日のオレは、篠原が言ったようにただの一度もウボンゴすることができなかったのだ……。
一応のことウボンゴはこのゲームの小目標であって、あくまで勝敗はウボンゴによって獲得できる宝石の点数で決まるのだが、それもウボンゴできればの話だ。
――オレはまだ、スタート地点にすら立っていない。
この雪辱は何としても晴らさなければならない。そのためには今日の特訓でウボンゴ
「おまたせー。マコトさんもココアで良かった?」
などと意気込んでいると、篠原が戻ってきた。
「おう。サンキューな」
受け取ってから、しまったと後悔する。ゲームの準備に気を取られてアロマランプの準備を忘れていた。
「あ、いいよ。そっちはあたしがやるから、マコトさんは心を整えておいて」
地元出身のサッカー選手みたいなことを言う。
「わっ。墨汁みたい」
「マジか」
「書道の授業中みたいな気分になって集中力が高まるのかな……」
「背筋はぴんとするな」
篠原がアロマランプのスイッチを入れた後、二人でココアをちょっと飲んでから、さあやろうということになった。
ちなみに遊ぶのはオレひとり。正直、篠原にも一緒にやってもらいたかったのだが、今日のところは応援に徹するとのこと。オレに無用のプレッシャーを与えたくないというのもあるのだろう。篠原は本当に良いヤツだ。オレは何としてもウボンゴしてやるという気持ちを新たにする。
「準備は良い? 始めるよ!」
そして篠原が、かけ声とともに砂時計をひっくり返した!
「よし、こっちか……」
「頑張って、マコトさん!」
「あっ、ダメだ! 入らないっ」
「大丈夫、いける、いけるよ!」
「くっ、もう少し……いや、ダメだ!」
「えっ、そんな。入るって。入るから。頑張って!」
「無理無理無理絶対無理!」
「あっあっあっ、ヤバい。時間がもう。ああっ! ああーっ!」
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