番外編 低血圧子は不良と対決する⑦

「やー、やっぱ面白いなボードゲームってのは」


 ゲーム終了後――最後の最後で逆転を決められたのに、春川君は機嫌良く笑って言った。


「そうだね。わたしも楽しかった」


「ウタゲは良いやつだな」


「え? 何が」


「いやほら。篠原が遅れてくることになって、オレだけ先に来たってのに、嫌な顔一つせずにオレと遊ぶのに付き合ってくれただろ?」


 春川君は優しいから、どうしても自分がわたしとユウちゃんの間に割り込んで来たのではないかと思ってしまうのだろう。でも、今のわたしにはその気遣いは不必要なものだった。


「付き合ったんじゃないよ。わたしはわたしの意思で春川君と遊んだのさ」


「そうなのか?」


「ああ。第一、にわかボードゲーマーを経験と確率論でわからせてやるのは、最高に気持ちが良いからね」


 わたしはニヤッと笑みを浮かべる。


 対して春川君は、ちょっとだけ反応が遅れたけれど、すぐに自分に求められているリアクションに気づいて、立ち上がった。


「何をー! まだ篠原も来てないし、再戦するぞ! ワンモアセッ!」


「はいはい。またわからせてやりますか」


 とか言ってるうちに、ユウちゃんが来た。


「遅くなってごめんねっ!」


「気にしないで。先遊んでたから」


「おう。二人で遊んでいたぜ!」


「そっかー、良かった。あ、ウタちゃんお気に入りのロスバンディットだ!」


 ユウちゃんが飲み物をオーダーして椅子に座ると、春川君がちらりとこちらを見た。多分、再戦するかどうかを尋ねているのだろう。 


 ――わたしの答えは決まっていた。


「ユウちゃん、すぐ終わると思うからちょっとだけ待っててもらっても良い?」


「もっちろん! 二人の熱いバトルをじっくり観戦させてもらうねっ」


 そして、ユウちゃんが見守る中、ロスバンディットの二戦目が始まった。

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