不良と地味子とボードゲーム

mikio@暗黒青春ミステリー書く人

プロローグ

あるいはよくある赤い糸の話

 この世のどこかに自分と結ばれる運命の相手がいて、その相手とは見えない赤い糸で結ばれている──なんてのは、今どき小学生の女子でも信じていないようなバカバカしいおとぎ話だ。


 見えない赤い糸というのがそも矛盾しているし、ささいな行き違いで付き合っただの別れただのやってる連中と、七十を過ぎてなお手を繋いで公園デートする老夫婦が同列に運命として扱われるのもどうかと思う。


 それにだ。世の中にはそういうものを欲しがらない人間だっている。たとえば色恋沙汰よりも自分の趣味に没頭したいヤツ。たとえば色恋沙汰よりも友達と一緒の時間を大事にしたいヤツ。たとえば色恋沙汰よりも一人でいる方が良いってそう思うことにしてるヤツ──。


 そういう連中の願いやら思いやら居直りやらを一から十まで無視して世の男女を運命とやらで縛り付ける糸なんてろくなもんじゃない。たとえそれが優しくて、とても甘いものだったとしても、最後にはちゃんと手に入れるべきたった一人がそれを見つけられるようにできているのだとしても、そいつを少しも欲しいとは思わない――オレはずっとそう思ってきた。一生涯その思いは変わることがないだろう。


 だけどオレはある時期からこんなことを考えるようになった。


 その糸がよくある赤いやつじゃなければどうなのか。


 その糸が確かに自分たちの手で紡いだものならばどうなのか。


 その糸が何本もあって縦にも横にも複雑に絡まりあったならばどうなのか、と。


 答えはまだ出ていない。出ていないからこそ、語ろうと思う。


 オレが篠原しのはらユウキと出会ったときのことを。そしてまた篠原ユウキが愛するアナログゲームの世界に触れたときのことを。

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